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リズワディア学園編
月夜、骸の行進【9】
「アリシアさん!?」

金髪の特徴的な髪型の少女が慌てた様子で駆け寄って来た。

「君は?」

「私はヘンリエッタ・デ・クレストリア。アリシアさんとは同級生ですわ!」

瞳に涙を溜めた少女はそう名乗り、僕が抱きかかえている姫を覗き込む。

「……大丈夫。色々たて続きに起こったせいか少し疲れただけです」

「ぐすっ……ご無事でっ、よかったですわ…」

膝をついて地面に姫をそっと降ろすと、姫が苦笑気味にそう答えヘンリエッタ
と名乗った巻き毛の少女は姫に抱きついて泣き始めた。

その光景を見て、胸の奥底で燃え上がる自分の怒りを、僕は感じた。

「ヘンリエッタ。姫様をお願いできるかな?」

「え? ……はいっ!」

「頼むぞ?」

僕は立ち上がり背負った魔剣の柄を掴む。リリス姫より授かったその身の丈を越える魔剣は竜殺しの大剣、『天竜剣ファフニール』だ。

猛る竜の力を閉じ込めた竜殺しの魔剣を抜き、ウムブラを討とうとした僕だったが、思わず足を止めてしまった。

何故なら、

「……随分と好き勝手やってくれたな、ウムブラ」

夜を引き連れているような黒衣を纏った男が、空中で静観していた第七の公爵級であるウムブラの前に躍りで出て、今まさに双剣を振り下ろす瞬間だったからだ。

「フフフ……怒りに燃える魂は赤く煌き、とても美しい。……貴方の逆鱗に触れただけはあります」

しかし蒼と翠色の双剣は、ウムブラを捉える事はなく、奴の眼前で刃が止まってしまった。

「あれは……魔法障壁……っ!」

見えない壁に阻まれたように見えるのは、事実そこに壁が存在するからだ。
魔力で編まれたその壁は、その障壁を打ち破る程の魔法(・・)かその障壁を解呪するか、障壁貫通能力を施した武具でないと突破できないのだ。
故に、双剣による物理攻撃は、どれだけ強かろうが、防がれる。

案の定、黒衣の男の剣も防がれた、

「逆鱗に触れたんだ、……唯では帰さないぞ?」

筈だった。



「なん、と!」

奴、ウムブラが驚いたのがわかった。余裕そうな空気が崩れたからだ。
俺は障壁をぶち抜いた(・・・・・)右足を捻り、その反動で振り上げた左足で爪先蹴りを放つ。

ブンッ! 

「ちっ……!」

障壁を抜いた必殺ヤクザキックの直後に放った蹴りはウムブラにあたらず空を蹴る。
空中で飛ぶ能力は持たないので、そこで重力に捉まられ落下する。

二発目の蹴りで仕留められると踏んだのだが、どうやらその予想は外れたらしい。

一言だけ呟いて距離を取ったウムブラだが、……逃がすか。お前は俺の大切なもんに触れたんだぞ? 一発ぶん殴ってやんないと気がすまねぇ!!

そう思って踏み込もうとしたら、奴が地面に叩きつけられた。

「!!」

「良い所取り……なんて言われるだろうけど、良いタイミングだったから貰いましたよ?」

そして、ズドンッ!! と轟音と共に俺の身の丈ほどの大きさを誇る真紅の大剣がウムブラに突き刺さり、奴を地面に縫い付けた。そして突き立った大剣の隣に音もなく降り立ったのはイケメン君こと天城海翔だった。

「……いや、良い。アリシアを助けて貰った礼がある。これで手打ちとしよう」

「これで貸し借りゼロ、って事ですか?」

「そうだ」

そう答えるとイケメン君はクスリと笑い「わかりました」と頷いた。

「……さてウムブラ。色々吐いて貰いたいんだが……何から吐く? 最初はお前に選ばせてやるよ」

大剣に縫いつけられたウムブラに近づきながら俺は問う。声が低くなってしまうがそれは仕方ない。そろそろマジでキレそうなんだよ。

「………………」

「おいおい、だんまりか死霊使い」

イケメン君が無言のウムブラに苛々しているのか冷え切った声で挑発するように言う。
俺とイケメン君、男二人は揃ってイライラを隠そうともせずにウムブラに詰め寄る。

「…………キヒッ」

そして俺達は、キレていた俺達が一歩下がってしまう程の狂気を垣間見た。


「キヒッ、キヒヒヒヒッ!! 実ニ、実ニ素晴ラシイッ! 流石ト言エバソレデ(シマ)イ。ダガ敢エテ言ワセテ貰オウ! 流石、トッ!! 稀代ノ英傑、永久(トワ)ノ英雄! 生命ノ神秘ノ体現者!! キヒヒヒッ、羨マシイ妬マシイ! 待ッテイタ! コノ五百年ハ無駄デハナカッタ!! 解体(バラ)サセテクレ! 解体サセロ! 我ガ永遠ノ命題ノ答エヲ見セヨ!! キヒヒヒヒヒヒヒッッ!!! 脳髄ヲ溶カシ、瞳ヲクリ抜キ、神経ヲ引キ剥ガシ、血流ヲ吹キ上げロ!! 生命とハ何か! 魂の本質トハ如何に!! ……人間トハなニカ!!! 答エを、真実を! 私に、見せてくれぇッ!!!!」

そして奴から沸きあがる負の力。視認できるほどのそれが狼煙のように空に向かい昇り立つ。

「!」

身体が勝手に反応し、奴の頭を切り裂いた。灰のように粒子となり消えて行くウムブラの身体、そして行動を終えた身体に思考が追いつき、そして俺は古竜に視線を向けた。

「………不味い、不味いぞ」

一度は死に、腐竜(ドラゴンゾンビ)として復活した古竜。復活と言った物の、所詮はドラゴンゾンビ。ただ生者を陵辱するだけの知性無き化け物だ。……だった。

「ウムブラめ……厄介なもんを置き土産にしやがったな」

かつて竜王として森羅万象の頂きにいた古より生きていた竜。その金色の双眸が、俺を捉えていた。

『ユウ、シャ……ユウシャッ……勇者ッ!!』

そして文字通り世界を震撼させる咆哮の後、

『―――――――――――――』

意味を理解できない、竜の真言が耳に響いた。

クソッ、やっぱりか。どう言う理由かは知らないが、古竜に知性が戻りやがった!

「勇者? ……僕達が狙いなのか?」

大剣を背中に担いだイケメン君が疑問を口に出すが……うん。多分俺のことです。と言うか奴の恨みを買ってるのは俺しかいないと思う。

「そ、そんな事より勇者。今詠唱している竜言語は理解できるか?」

軽く話を逸らす為に話題を提供。専門家に聞いてみよう。

「あれは竜装・憤怒の竜気(ドラゴニックラース)……。怒りの竜気の上位魔法です」

怒りの竜気(ドラゴニックレイジ)とは竜言語(ドラゴ・ロア)の中の強化系に位置する竜気(ドラゴニックオーラ)系の一種だ。
深くは知らないのだが婆ちゃん曰く「使えば世界が変わって見える」ほどの性能アップを図れるらしい(曰く聖剣は世界を変えるほどの力を持つらしい。……そう言えばばあちゃんは両方使えるのか)

その上位の魔法ともなると凄まじいことになるんだろうね。……流石に聖剣を使わないでいるわけにはいかなくなったか。

「今の奴を止められるのは僕だけだと思います。……貴方は、黒き執行者ダークネスエクセキューショナーで間違いないですよね?」

俺が覚悟を決めようとしていると、イケメン君は突然俺を忌み名で呼ぶ。
その名で俺を呼ぶなぁぁぁっ!!

「……ああ」

まぁ死を与える黒き風(ストーム・ブリンガー)とか呼ばれなかっただけましか。
自分の心に妥協しながらも頷くと、イケメン君は古竜に向かい歩き出した。

「リーゼリオンのお姫様を任せます。……僕は彼女のお姉さん、シルヴィアさんに借りがある。彼女を戦いの余波で傷つけるわけにはいかない」

シルヴィアに借り? いや、そう言えばイケメン君は近衛の筈のレオンハルトと共闘してウェントスを撃退したってルクセリアの世間話で聞いたな。……シルヴィアがレオをイケメン君達の援護に付けたのか?

「貴方もシルヴィアさん達と知り合いだと、『時の魔女』から聞きました。だから、任せます」

そう言ってイケメン君こと、天城海翔は古竜に向け駆け出した。
お待たせしました~。

次回『勇者、連撃』

お楽しみに~!



……もう少しで学園編終了です。


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