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リズワディア学園編
『外伝』届かぬ理由

「陛下に?……」

「は、はい。……その、お礼とかも、言えてなかったし、いや、ですし」

当代の勇者である彼の言葉に、レオが私をチラリと見て指示を仰ぐ。
それに頷き、私は立ち上がった。

「すまないな。逐一間を取らせないと会話すらまともに出来ない立場でね」

「あ……………」

レオが横に退き、彼の前に私が立つと、少年は口を開けて私を見る。



「何か、ついているか?」

「い、いえっ!…そ、その……と、とても綺麗で、見惚れてしまったんです」

私が問うと、彼は顔を赤くしながらそう言った。……やけに顔が赤いな。体調が悪い、と言う風には見えないが―――、

「! …ありがとう。世辞でも嬉しいよ」

なるほど、彼は緊張しているのか。確かにこのような魔窟など初めてだろう。
祝会と言っておきながら政治が絡むパーティーなど我々からしてみれば普通だが、彼らは一般人の部類だ。勇も、こう言う所は好かなかったし。

「っ、……せ、世辞じゃ…」

彼の緊張を解そうとウィンクして礼を言うと、彼は顔を更に赤くして口ごもる。

はは、初々しいな。女性に気を使える紳士さは好ましい所がある。
勇なんて私達をほっぽってテーブルに置かれた料理に目を向けてばかりだった。
全く、男子たるもの女のエスコートもせず食い気に走るとは……むむ、思い出すとなんだかムカムカとしてきたぞ?



「で、礼と言うのはレオンハルトの事か?」

「……はい。彼が居なければ、危なかったです。ありがとうございました」

私の言葉に頷いた彼は、私に向け礼をする。

「ふふ、構わないよ。レオンハルトが役に立ったようで良かった」

グラード荒野では、念のために私の騎士レオンハルトを彼ら当代の勇者達の援護へ向かわせていたのだ。
お陰でレオから、「次からは二度と行きませんよ?」と笑顔で釘を刺されてしまっている。

「……その、シルヴィアさん、お願いがあります」

当代の勇者が真剣な目で私を見る。

―――お願い、か。



「……リーゼリオンの皇帝であるこの私、シルヴィア・ロート・シェリオット・リーゼリオンへのお願い(・・・)かな?」

指で音を鳴らし魔法を発動させる。

「!……これは、サイレント!」

「ご名答」

私と彼の声が、無音(・・)のホールに響いた。

「それに、今のは無詠唱っ…」

「私のような立場の人間には、サイレントやサーチなどの魔法は必須でね。師からも最優先で学ばされた。
……突然だったのは謝ろう。が、どうやら君の言うお願いは聞かれては不味い内容のようだ」

横目で見ると、数人気付いた者がいるようだ。
干渉はされていないが、レオンハルトを始め当代の勇者達やバランシェルのイーブサルも私がサイレントを発動したのに気付いてるだろう。 現に当代の勇者達がこちらへ向け強い歩調で歩いて来ている。
やはり長話は出来んか。

「先代勇者の所在。……君もそれを知りたいのだろう?」

私の読みは正しかったらしく、彼の表情に驚きが垣間見えた。

「はい。……俺は、もっと強くなりたいんです。このままじゃあ、俺は魔王を倒すこともできずに負けてしまう。強くなるために、先代の勇者と会わせてください!」

大きく頭を下げた当代の勇者。
心意気は良い。……それが純粋な物だったなら。

「……良いだろう。直接知っているわけではないが、彼の所在を知り得ているだろう人物を紹介する」

「本当ですか!?」

「だが一つ、私から忠告をさせて貰おう。……私はかつて言ったな、君では勝てない、と」

「え?」

強くなりたいと言った彼の瞳には、魔王に対しての、その配下である魔族への憎しみの火が見えた。


「あの言葉には語弊があったようだ。……いくら強くなったとしても我々(・・)では魔王には勝てないのだ。
魔族を嫌悪し、怒りを向ける、我々では勝てない。……何故ならば、我々の負の感情こそが魔王を産み出したのだから」


常人では魔王を倒す事すら叶わない。

恐怖、怒り、憎しみ……あらゆる負の感情を魔族に対して覚えてしまう(・・・・・・)常人では、相手にすらならない。


「ふざけているように思われるだろうが、……先代の勇者は、彼ら魔族と共に闘争を楽しんだ事があった」

「助けを求めた魔族のために戦った事もあった」

「自身の存在理由を嘆き、神を憎む魔王の存在に、共感を覚えたことがあった」





「故に……魔族に憎しみを覚えてしまっている君ではたどり着けても、届かない(・・・・)。ゆめゆめ忘れぬ事だ」


無音の世界から戻った彼の瞳には、戸惑いが見てとれた。
今回は少し短め。むしろ前回に一緒に載せるべきだったのでは?と思ってたり…


次回先代編に戻ります。


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