「ちぃっ…マジで強いな、テメェ!」
「ふん…」
赤髪の皇太子放った気弾を閉じた氷の扇で逸らして避けた氷の公爵級は、扇を開き、それで扇いだ。
「!!」
咄嗟に上空に飛んだ皇太子。彼が数瞬前まで立っていた場所は、氷河に包まれた。
「インパクトっ!!」
茜が拳に集束した魔力を撃ち放つ。 迫る魔力の砲弾に、グラキエスタは片手を向ける事で答えた。
「『氷鏡華』」
グラキエスタの全面に、氷で作られた華が現れる。
氷の華は魔力の砲弾の一撃を受け、砕け散った。
「凄まじいな………だが!」
砕けた氷片を掻い潜りグラキエスタの懐に潜り込んだ咲夜は、鞘に納めていた刀を目に留まらぬ速度で抜刀した。
氷の扇で防がれ、咲夜が至近距離から冷気を当てられそうになった時、グラキエスタは炎に包まれた。
「負けられない。……海翔くんの足手まといには、なりたくない!」
杖を掲げ、晶は詠唱を始める。
「『爆炎の衝動たる紅蓮の焔、空を焦がせ、大地を焼き尽くせ、其は灼熱の業火なり』」
「!」
「させっかよ!」
晶の詠唱を危険視したグラキエスタが扇を構えるのと、バランシェスの皇太子が炎を纏った拳をグラキエスタの腹部に叩きつけたのは、同時だった。
「『エクスプロージョン』!!」
皇太子の一撃を受け吹き飛ばされたグラキエスタに、灼熱が集い、次の瞬間には広範囲に渡る大爆発を起こした。
上級魔法エクスプロージョン。名の通の強力な爆発は、周囲の魔物を巻き込みつつ、戦場に爆音を轟かせた。
「ナイス晶!」
魔法を発動し終えた晶に茜が駆け寄る。 が、それよりも先に赤髪の大柄の男が近づき、
「本気で惚れたぜ。……お前、俺のモンな?」
「ふええぇっ!?」
晶の耳元で甘く囁いた。
「こんの変態が!」
「んだよ、焼きもちか?」
茜の本気の蹴りを片手で防いだイーブサルがニヤニヤと笑う。
「誰がアンタなんかに――」
「落ち着かないか、茜。……大金星だな、晶。それにしてもあれが六刃将か……強かった」
全員がボロボロになりながらなんとか倒せた六刃将の一柱。
巻き上がる黒煙を眺めて咲夜は大きく溜め息をついた。
「さーって、次はもう一体――」
赤髪の大男は視線を黒煙から外そうとして、外せなくなった。
「……うそ、でしょ?」
「そんな……っ」
茜と晶がそれを見て、呻く。
「………よもや、無傷とはな」
黒煙から現れたのは、氷の扇を片手にゆっくりとした歩調で歩く魔族、グラキエスタの姿。
「脆弱なる者達よ、よくやった。……が、一歩及ばずだな」
無表情だったグラキエスタの顔に、愉悦が生まれる。
「……それに、もう一つ残念な報せなようだ」
グラキエスタは北西……人間側の陣がある方角を見た。
◇
「地震!?」
レオンハルトがクルケルに乗りながら、突然の大きな揺れに叫ぶ。
「ちっ、間にあっちまったか。あーあ、メンドクサイなー」
空中で大鎌を肩に担いだ魔族の子が、不満げに呟いた。
それを聞き、揺れに足を取られ膝をつきながらも海翔は叫ぶ。
「くそっ、お前らの仕業なのか!」
「んー、…まあそんな感じ」
煮え切らないウェントスの言葉に、レオンハルトは思い出す。
六刃将には、岩や土を得物とする奴が居た。
「不味い……殿下!!」
◇
揺れが収まるのと、地中の中から山のように巨大な何かが現れた。
「何だ、アレは!」
バランシェスの第二皇子が叫び、それに呼応するように咆哮が辺りを包む。
「この咆哮…、アースドラゴン! つまりは、奴か!」
白のクルケルを走らせ、シルヴィアは呻く。
「まさか地中から本陣に強襲を仕掛けに来るとはな………っ」
シルヴィアの言葉の通り地中から本陣近くに現れ、数万の人間を空中高く放り上げたのは、侯爵級のアースドラゴン。
「退けっ! 六刃将が来るぞっ!
退けえぇぇっっ!!!」
混乱の極みに入る兵士達に、クルケルに跨がり戦場を駆けながらシルヴィアが叫ぶ。
そのシルヴィアの視界に、アースドラゴンから飛び降りる人影が写った。
「シュヴァルツ、奴だ!」
『はい!』
優しげな女性の声で答えたクルケルは、シルヴィアが望む方向へと土煙を上げ駆け出した。
ドンッ。
アースドラゴンから飛び降りた人影が地面に降り立ち、砂煙が舞い上がる。
その男は、その砂煙を吹き飛ばして姿を見せた。
「ウハハハハーっ!! 我輩の名はテラキオ! 六刃将が一角、『岩鎚の戦将』なりぃっ!」
身長は人の常識を外れ三メートルは軽く越え、その身体を覆う筋肉は巨大な丸太のように太い。
岩のように鍛え上げられた肉体は、魔族には珍しく土気色で、髪の無い頭皮には、二本の小さな角が生えていた。
テラキオ、彼は魔族の中でも異例の、『オーガ』から産まれた魔族なのだ。
故に鬼の象徴たる角がある。
テラキオは名乗るや否や腕を地面に突き刺し、テラキオ自身を越える巨大な岩を掴み掘り出した。
「ウハハハハハ
ハハハ!これぞ戦場!これぞ戦よ!!」
ブンブンと岩を軽く振るうテラキオ。
人間をまるで卵のように叩き割り、辺りを血の海へと変えて行く。
「テラキオ!」
「ほぅ、お主あの時の! 久しぶりだのう」
岩を振り上げたテラキオはシルヴィアの言葉に笑みを浮かべ岩を肩に担ぐ。
「貴様を討てるなどと高望みはせん…だが時間稼ぎ程度には……!」
クルケルから飛び降りながらシルヴィアは魔剣を抜いた。
「ウハハハ!お主では相手にならんよ!」
「抜かせ!」
振るった魔剣から斬撃が飛び、テラキオはそれを首を少し動かすだけで避ける。
「聖女の加護があればまだ良かったが、無いお主では止めれぬさ!」
避けた体勢のまま、巨岩を振りかぶるテラキオ。丸太のような腕が、力を込められ隆起する。
「くっ……!」
豪速で放たれた岩はシルヴィアを捉えたかのように見えたが、岩が着弾した場所には、シルヴィアは居なかった。
「ほぅ、あ奴の技か!」
「ご名答!」
瞬時に振り返ったテラキオの脳天に、魔剣が突き刺さる。 テラキオの背後を、一瞬で取ったのだ。
「『魔装剣』!」
突き刺した魔剣に光が集い、テラキオを両断するほどの長さの剣となる。
「たあああぁぁっ!!」
両手で振り抜き、テラキオを両断したシルヴィア。
が、シルヴィアは勝利の余韻に浸るよりも速く距離を取る。
「見事!だがやはり届かぬよ!!」
振り向いたシルヴィア、そこには巨大な岩鎚を振り上げたテラキオの姿があった。
「我輩に一撃与えた事を誉れに、逝くがよい!!」
テラキオが愉快に笑いながら振り下ろす岩鎚。
手心を加えた覚えはない。
侮ったわけでもない。
しかし届かぬ境地。シルヴィアは迫る岩鎚に恐怖を抱かず、悔しさを抱いた。
姫騎士と呼ばれても、所詮奴等には届かぬ技。
彼に心で誓っても、平和を成せなかった己の弱さに、悔しく思ったのだ。
「え…?」
シルヴィアに振り下ろされた岩鎚は、彼女を押し潰す直前で、突然、粉々に砕け散った。
「……何奴…!」
岩鎚を打ち砕いたと見られるひしゃげた短槍を拾い上げ、テラキオは睨む。
「……わ、我は黒き執行者! 我が断罪の刃に、沈め!!」
テラキオが睨んだ先には、目深にフードを被った、黒い外套に身を包んだ男だった。
く、黒き執行者………一体何者なんだ(棒)
投稿五分前に完成故、色々粗があると思います。
感想待ってます。
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