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勇者召喚
グラード荒野の戦い【3】
人間側の陣では、ルクセリアの王女と、バランシェルの第二皇子、そしてリーゼリオンの皇であるシルヴィアが騎乗し、並び立っていた。

「四人の勇者を筆頭に、騎士レオンハルト。我が愚兄とウルガロらも投入したお陰か三倍差もものともせぬ勢い。……ルクセリアギルドの方にも男女二人組の奇妙な風体の傭兵が、彼らに劣らぬ戦果を上げているらしいですね。このままなら、勝利も間違いないでしょう」

眼鏡を掛けた理知的な赤髪の男は、灰色の馬に跨がり王女と、魔法大国の女帝に視線を向ける。

地を走る珍鳥、純白の羽を持つクルケルに騎乗するシルヴィアは苦笑する。

「レオンハルトはともかく、やはり勇者らは強いな。特にあの少年…天城海翔は時の魔女が開いた『時の迷宮』を踏破しエルダードラゴンから直に竜言語(ドラゴ・ロア)を会得したとか。……魔力のなかった先代とは違い、膨大な魔力を保有すると聞くが………。その戦果を聞くならば真であろうな。そして其方(そなた)の兄も拳帝(ケンテイ)と呼ばれるだけはある。皇太子でありながら戦場を駆けられるとは勇敢だ。……私も戦いたかったがレオンハルト以外の者が止めるのでな……」

女帝がわざとらしくため息をついたのを見て、ルクセリアの王女はクスリと笑う。

「先代の勇者様と戦場を駆けた姫騎士様ですがやはり現皇帝陛下を戦場に行かせるわけにもいきませんもの」

和やかなムードで話している国のトップ、またはトップに近しい者達だが、彼等らは心の内で他の二人を最大限に警戒していた。

魔法大国リーゼ リオンの現皇帝シルヴィアは、魔王を勇者と共に倒した女帝として、彼女自身の力も、人間のカテゴリーに入れるならば上位に位置する。

ルクセリアの王女イリスは勇者と言う最強戦力を保有し、病に没した前国王ですら体得に十年を費やした秘術を僅か数年で会得した才女。勇者を召喚した国と言うことで、諸国に対する発言権も強めている。


バランシェルの第二皇子であるルーズラシルは破天荒な兄を御す傑物だ。
施政者としては兄を越えるこの弟は、兄を愚と呼びながら兄こそを王と呼ぶ。


敵に回れば一筋縄でいかない者達の言動に注意しつつ、彼等彼女等は、戦場に想いを馳せていた。

シルヴィアは忠臣であるレオンハルトや自国の兵、そして先代勇者と同郷であろう四人の少年少女達の事を考えていた。

ルーズラシルは尊敬しつつも憎まれ口を兄に叩き、

ルクセリアの王女は勇者達の、次の段階(・・・・)の事を考えていた。





グラード荒野では戦争が起こり、既に数時間が経っていた。

総数約三倍差に当初は尻込みしていた人間側も、最前線で戦う者達の姿を見て、士気を大きく上げていた。

当代の勇者である天城海翔も、最前線にて多くの敵と切り結んでいた。





「うおおおおおぉぉぉっっ!!」

ブゥオンッ!

光を束ねたような剣を振るえば、魔物達は切り裂かれ血飛沫をあげる。

「『ファイア・ボルト』!」

切り損ねた魔物に火炎弾を見舞い、直ぐ様次の魔物を切り裂く。

「……やれる。俺は、戦えているっ!」

膨大な魔力を前提とした、常時身体強化魔法を使用しながらの彼の高速戦闘は下位の魔物だけならず、上位の魔物ですら反応できず、魔物の屍を築き上げていた。

『魔装剣』剣に魔力の刃を作り切れ味やリーチを飛躍的に伸ばすこの技は、先代勇者が編み出したと言われる魔法だ。

本来魔術文字を武器に刻み、周囲の魔力を取り込みつつ発動させるそれを、彼は詠唱で発動させ、己の魔力を投入して切れ味を大きく引き上げていた。

「喰らえ――『爆炎剣』!」

そして本来の魔装剣との大きな差異は、彼はその魔力の刃に、属性を付与する事が出来る。

「だあああっ!」

叩ききるのではなく、相手の急所を浅く切りながら彼は駆ける。

「ふんっ…!」

そして最後の一体を切った時、彼が浅く切りつけていた切り口から炎が上がり、爆発した。

爆破した魔物だけでなく、その爆発に他の魔物も巻き込まれ、一度に多くの魔物が骸となった。

「……俺の、邪魔をっ…」

赤く光る魔装剣を構え、彼はまた走り出す。
彼の通った道には爆散した魔物が転がる。

「―――『雷迅剣』!」

炎の剣は、瞬時に色を変えて見せた。

「するなあああっ!」

振り抜いた剣に纏うは稲妻。
紫電が纏う剣は堅き守りを持つ敵を切り裂き、両断する。
全身が氷の巨大熊の魔物が、音を立てて崩れる。

「この程度で……俺を止められると思うな!」

雑魚などに意味はないと、彼は巨躯の竜にて待つ公爵(デューク)級を目標に定めていた。

「では、私が止めて見せましょう!」

「!?」

声が返された次の瞬間に、数えるのも億劫になるほどの衝撃波が海翔を襲う。

「『竜鱗(ドラゴンスケイル)』っ!」

瞬時に発動したのは竜言語(ドラゴ・ロア)が誇る防御魔法。

鱗状に展開した障壁が、衝撃を受け止める!

「ふぅむ、この私の攻撃を耐えてみせますか」

衝撃が止むと、一つの人影が海翔の前に降り立った。

「何だ…お前は!」

海翔が叫ぶと、その男はニヤリと笑う。

「私、伯爵(カウント)級の魔族でして、【拳風】のディラメスと申します」

二メートルは越えようかと言う大きな体を持つその男は、青白い肌に四つの腕を持っていた。

「魔族…っ!」

「ふふ、名乗った相手に名乗り返さぬとはマナー違反な勇者ですなぁ!」

「!?」

魔剣を振り抜いた海翔の一撃を、ディラメスは同じく一撃で相殺して見せた。

「……ふふ、ですが先代程の外道でもなし。彼は名乗り切る前に攻撃してくる野蛮人でした――ガッ!?」

巨体に似合わぬ紳士のような態度のディラメスの言葉を、突然ディラメスを襲った爆炎が遮る。

「彼の言う通り。……奴等の道理に答えてやる道理もまた無い。それに、奴等のプライドなどに付き合っていては時間が惜しいですしね」

「――アンタは……」

海翔が振り向くとヒヨコをでかくしたような黒い鳥に跨がる、藍色の騎士甲冑を纏った青年の姿があった。

「レオンハルト・クラシオンと申します。お見知りおきを」

手綱を片手で、もう片手には長剣を持った彼は同性ながら見惚れるような笑みを見せ、答える。

「―――…彼に切られたと思っていたのだったのだがな、貴様の腕は!」

「貴様はレオンハルト…!……良くも決闘の邪魔をっ!」

「貴様が決闘を仕掛ける前に攻撃した!  それよりもその腕はなんだ?生えたのか?」

「再生しただけですっ! ――…かつての勇者への恨み、貴様に返しましょうか!?」

「それは厄介だな――当代の、もう一度竜言語(ドラゴ・ロア)です!」

「うわっ!? な、何するんだよ!」

四つの拳を振り上げたディラメスを見て、近くに居た海翔を鳥に咥えさせ、レオンハルトは突撃する。


「『魔将千烈拳』!!」

「今です!」

「盾代わりかよ!くそっ、『竜鱗(ドラゴスケイル)』!!」

ディラメスが怒りの形相で放った無数の拳撃を、折り重なった障壁が食い止める!

()ッ―――!」

「っ!?」

攻撃の隙に放たれた長剣による突きが、ディラメスの心臓を貫いた。

「ぐっ…貴様も、勇者も…忌々し―――」

「これは土産だ、取っておくといい!」

傷を癒すため消えようとしたディラメスに追い打ちとばかりにレオンハルトが振った剣は、ディラメスの四つの腕を切り落とした。


ボトッ、と腕が落ちた時には、ディラメスの姿はなくなっていた。

「ふぅ。……奴等は基本的に死にません。が、傷を癒すために撤退はします。……どうせ殺し切れないなら、傷を癒す時間を増やしてやると良いでしょう。公爵(デューク)級の中でも一部の者しか完全な不死性は持っていないですからほぼ全員に有効です」

「奴等、倒せないのか!?……じゃなくて、離せよ!」

「倒し方はありますが、少々特殊でね。……離しても構いませんが、君は単騎で突出しすぎです。連携と言うものを知りましょう」

海翔を咥えながら珍鳥を走らせるレオンハルト。

「俺が今の奴に負けるって……そう言いたいのかよ!」

「いえ、思いませんよ。伯爵(カウント)級の中でも奴は優秀な方ですが、私などでも知恵と勇気で今のように倒せます。
けれどやはり、奴等に合わせていては時間が惜しいのです。故に周囲の仲間と共に最速で倒し、最上の結果を出すのです」

レオンハルトが鳥の首辺りを軽く撫でると、鳥が海翔を上に放り投げた。

「うわっ!?」

「あの程度に時間を掛ければ、掛けるだけ兵に損出が出ます。……それだけはなんとかせねばならない」

ドスッ、と鳥の上に落ちた海翔を肩越しに見てレオンハルトは言う。

「大局を見ろ。……かつて勇者が、その師から言われた言葉。君も勇者なら、多くの兵を……いや、民を救ってくれ」

レオンハルトの真剣な眼差しと、その言葉に、海翔は無言で頷いた。

「……ふふ。……では行きましょう。安心して良いですよ、クルケルは人の肩の上よりかは酔わないし、速い」

「いや、別に肩車で酔いは…」

「肩車を舐めてはいけないっ!……死にますよ…?」

「いや、死なないだろ…」

鳥、……クルケルに乗り、二人は敵陣に突撃する。

「ヴァイス、急げますか?」

『どちらだ』

「し、しゃべった!?」

レオンハルトにヴァイスと呼ばれたクルケルは無駄にダンディな声で答えた。
見れば右の目に大きな切り傷があり、これまた無駄に風格がある。

「グラキエスタ相手ならば、勝機がある」

『よし、ならば………いや、そうもいかなくなったようだぞ、友よ』

ヴァイスと呼ばれたクルケルがそう言うと、海翔とレオンハルトに、突風が襲いかかった。

「しまった! 先に目を付けられていたか!」

「この風…魔力を内包してる!?」

海翔は弾かれたように黒のクルケルから飛び上がり、魔力の刃を振り抜いた。



「……アハハハッ!グラキエスタは運がないね! アタリを引いたのは僕みたいだよ!」

「お前…!」

光の剣が魔族の子供の眼前で塞き止める。まるで幾重にも重なった層に阻まれたように、魔力の刃が進まない。

「君がアグニエラの言ってた新しい勇者だろ? アハハハッ! 安心しなよ?僕は焼き殺したり、氷漬けなんて酷い真似はしないよ。……切り刻んであげるよ!」


風を纏った魔族が、狂喜を顔に張り付けて、現れた。






「すごい威力………これが、公爵(デューク)級!」

杖を掲げた少年は、襲い来る猛吹雪を巨大な障壁で防いでいた。

「はぁ…っ、なんなのよ、アイツ……。接近戦も強くて、魔法も晶並みって……! 海翔を追わなきゃイケないのにっ!」

ドームのように展開される障壁の中、頬や腕に切り傷を作り、服も所々破れてしまっている茜が、憎々しげにグラキエスタを睨み付ける。


「いや、未だ全力ならず……と考えておく方が妥当だろう」

破れた着物を捨て去った咲夜。黒の、ノースリーブのタートルネックに袴と言う姿の咲夜は怪我をしていないものの肩で息をしていた。

「多分、咲夜さんの言う通りかと。この技は、多分僕らの魔力を削るためのものですよ……」

晶が上空に漂う氷結の魔物を見ながら答える。

「……せめて、地面に叩き落とせれば一撃くらい…っ」

悔しげに茜が呟くのと、赤い髪の大男が上空(・・)からグラキエスタを地面に叩き落としたのは、ほぼ同時だった。


「はっ!?」


それと共に三人を中心に起こっていた猛吹雪は消え、グラキエスタは砂煙を衝撃波で吹き飛ばす。

「脆弱なる者が………この私に土を付けたな…?」

茜達ですら一瞬踏み留まる程の殺気を受けながら轟音を立てて着地した皇太子は、不敵に笑う。

「その程度は甘いぜ、公爵(デューク)級。……俺のダチにゃ、その倍くらい恐ろしい殺気を飛ばす奴がいるぜ? ま、メイドにへーこらするヘタレだったりするが、よ」

……二人組の奇妙な風体の傭兵…?(笑)


侯爵と公爵など、口に出して言うとこんがらがるので爵位にルビ振りました。
中二っぽさが加速しやがりますよ


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