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勇者召喚
先代勇者の秘密
右手に掴む聖剣が、どこか俺を批難しているように思える。


それもその筈だ。俺の甘さが、この状況を呼び寄せたのだから。

リリルリーを意地でも連れてこさせなければ、彼女は気絶することもなかった。

最初から、聖剣を抜いていればよかったんだ。
そうすればトーレさんを怖がらせずに済んだ。

バジリスクのクエストなんて受けなければ、そもそもこんな事になることも…………

思考が悪い方へ向かっていくのが自分でもわかるが止められない。

バジリスクの死骸から降り、石化した際に辛うじて壊されずに残っていたウエストポーチ型の道具袋から制服を取り出す。


「俺が真面目に戦ってなかったせいで、……怖がらせて、すみません」

リリルリーを守ろうと抱き締めてくれていたトーレさんに制服の上着を掛ける。

「……っ、…………あ、あたし、は……あたしは良いんだよ…。アンタの、ユーヤのお陰で生き残れた。…そ、そりゃ…こわ、かったけど、さ………、っ…ぁ………」

そう言って、トーレさんは俺に抱きついて嗚咽と共に涙を流した。

最後の赤いバジリスクは規格外だった。
狡猾さを始め頭もよく、一体一体ならバジリスクに勝てるであろう実力者のトーレさんが、本能(・・)で敗けを認め、自身の結末を幻視してしまうほどの、規格外。

自信を砕かれ、俺みたいな男の前で醜態まで晒してしまったのだ。彼女の自尊心は大きく傷ついて、そして安堵感と共に恐怖が呼び起こる。

怖かったと、悔しいと、恥ずかしいと、彼女は声にならない声を吐き出しながら俺の腕の中で泣いた。

…………何が腕の中に、だよ。……冗談も程ほどにしろよ、……何、ふざけてたんだよ、俺は。

情けなさとともに自分への怒りが込み上がってくる。

そんな時、彼女の、リリルリーの声が聞こえた。

『ん………あ、ユウ』

「リリルリー!」

トーレさんの腕の中で目覚めるリリルリー。

「悪かったリリルリー……俺が真面目にしてりゃ…怖がらせずに」

「あ」

俺が謝ろうとすると、リリルリーはそれを無視して俺の右手を見る。

いや、右手の聖剣を見る。

「……あの時の、光」

そして聖剣にまるで壊れ物を触るかのように優しく触れて、微笑んだ。

また(・・)、助けられちゃった」

残念そうに、けれど嬉しそうに。

エルフの少女は笑った。





「……スンスン……、変な臭い、がする。……お漏らし?」

そして地雷を投げつけて来やがった。


「っ!? っ、な……これ、はっ、違っ…!」

案の定トーレさんが顔を真っ赤にして凄まじく狼狽える。

「私も、たまにしちゃう、から、大丈夫」

「が、ガキと一緒にするんじゃないよ!」

慰めるリリルリー。だがそれは逆効果たぞ? あ、いや違う。リリルリーの奴、微かに笑ってやがる。

にしても………おもらし、か……… 。あのエロ装備で、おもらし……………お尻に垂れる、黄金す――――

「なにっ、ニヤニヤしてるんだいユーヤ!?」

「あ、いえ、……エロ可愛いな、と」

あのエロいトーレさんが、幼い女の子のように恥ずかしげに太ももを閉じてモジモジしてる。
これはっ、……バジリスクぐっじょぶ!

「真面目にするとか言った矢先にこれかい! なっ!? ど、何処見てるんだい!」

「お、お金なら払いますので!ご、後生です!」

俺が地面に這いつくばって近づくとトーレさんは割りと本気で焦り逃げようとする。

が、遅い。俺は戦うと決めたら、本気で戦うと決めたんだ。全力で…っ!!

と無駄に熱くなっていると俺の両肩に重みが加わる。

まさか!?


「えっちなのは、ダメ!」


えっちなことは大嫌いエルフの幼女リリルリー。彼女は左手で俺の左耳を、右手で俺の髪を掴み、一瞬溜めてから思いっきり引っ張って来やがった。

「痛だだだだっ!?―――っ」

耳と髪、同時に二ヶ所にダメージを与えられ俺は泣き叫んでいたが、


ガタガタガタガタ、と遠くから聞こえてくる大きな音を耳が捉え、音のする方を向いた。

流石にさっきの今で同じ過ちをするまいと、周囲に気を向けていたのが幸いしたのだろう。

相変わらずリリルリーは俺の髪と耳を引っ張るが実は泣き叫ぶほどの痛みじゃない。これくらいの痛み、いままでもっと凄い痛みを感じて来た俺にとって、容易く――

「痛いですもうエロはしないから許してリリルリーさーん!」

「わかったなら、良し!」

仕事を終えた時のような顔で降りるリリルリーに若干の怒りを覚えた俺は、今度リリルリーの耳を軽く引っ張ってやろうと心の中で誓った。

「?…………何か、来る?」

リリルリーの尖った耳がピクピクと動く。
遠くから聞こえてくる音にようやく気づいたのだろう。


「あれだ。……あれは、……馬車、だねぇ」

股を閉じながらも立ち上がったトーレさんが指差した方向には、小さくだが言った通りに馬車が見えていた。

モジモジとするトーレさんマジエロかわいい 。

「ん?」

「ご、ごめんなさい」

手を広げて何かを掴む動作をしたリリルリー。明らかに『引っ張るぞ?』と脅して来たリリルリーに逆らえず俺は謝った。


それから数分後、三台の馬車は俺たちの前に止まった。一台に関しては馬車と呼んで良いものではなかった。
六頭もの馬が引く、六つの木の車輪を持つ台。
これは、大型のモンスターを引く際に使う荷馬車だ。

普通のバジリスクに使うには少々大きすぎる。…………まるで規格外のバジリスクが現れる事を知っていたような対応である。

「お待たせしました、勇者ヤシロ様」

先頭の馬車から降りてきた巫女服の巨乳美人が俺に向け頭を下げる。

「勇者…?」

トーレさんが息を飲んだのがわかる。 そりゃ突然俺なんかが勇者なんて言われるんだ、普通は思考が止まりかねない

と言うよりも、

「ここに来たのも、荷馬車を持って来たのも、……俺を勇者と呼んだのも、貴女の上の人間なんですか?…………受付さん」

俺がギルドに初めて来たときに受付嬢だった巨乳ちゃんだった。

受付嬢としての彼女ではないせいか、優しげな表情は消え、他にも馬車から現れた数人の巫女さん達と同じく冷たい表情になってしまっていて最初に気づけなかった。


「はい。我々はギルドマスター様の命を受け貴方達の迎えと、討伐されたバジリスクの回収に上がりました。勇者様とリリルリー様は先にこちらに。……トーレ様はこちらの方で先にお召し変えを」

「な、なんでそれを!?」

巨乳ちゃんは二台目の馬車へトーレさんを連れて行く。

……バジリスクを倒して直ぐに現れ、トーレさんのお漏らしを知っていたかのような対応。


まるで未来を見透かしたような事の流れに俺は今回の一件を仕組んだ相手が当たっていたことに溜め息をついた。

「婆ちゃんの事だからな、こうなる事を知ってたんだろうな…………はぁ、折半受けたのは俺の方か…」

「?」

俺は首を傾げるリリルリーの頭を撫でながら、一台目の馬車に乗った。






洋風テイストな和服と言う、和服の癖にどこか洋風な、中途半端な立場な服装な癖にある種の完成された美を持つエルフの装束。

元々和服っぽい服装を着ているエルフが外との交流を経て完成に至らしたと言うその逸品。
その装束の、白い浴衣に身を包んだトーレさんは、やはり女神だった。
肌と対象の肌が服を、そしてトーレさん自身を主張させ、包み切れない胸が服を押し上げ谷間を見せ、スリットから覗く褐色の生足とともに情欲をそそ――

「らない!そそらないから!だから髪はだめ!」

トーレさんに見惚れてた俺にリリルリーが手を伸ばす。

「……わ、私も、同じ、服!」

「あれ?」

むしられると思ったらリリルリーが手を上げただけだった。

元々エルフがエルフのために作った服なのか、リリルリーはとても似合っていた。


「あと十年後にまた着てください」

「う~、! なんで、お漏らし、したトーレばっかり!」

「あ、あたしをそんなキャラにするんじゃないよ!」

地団駄を踏むリリルリーと顔を真っ赤にして叫ぶトーレさん。




あれから俺たちは三日間、王都まで巫女さんが乗って来た馬車に揺られて、王都のとあるお屋敷に迎え入れられた。
俺たちはそこで一泊し、そして今日『ギルドマスター』の本邸にお招きされた。
俺たちが泊められた屋敷は別邸だったらしい。

別邸の数倍の大きさを誇る本邸に着けば大した説明もされず服を着替えさせられ、屋敷内の一角の扉の前に俺たちは連れて行かれた。
俺は対して変わってないがリリルリーやトーレさんにはエルフの礼装が着せられていた。



ちなみに来る途中、巫女さんたちに色々話を聞こうとしても異性……つまり男との会話を禁じられているらしく、巫女さん達の中で一番偉らいそうな巨乳ちゃんに不必要に話しかけないでくれと断られていた。


巫女服を着た巨乳ちゃんが扉の前に立ち、ノックしようと手を上げた所で、


「入れ」


と、扉の奥から声が聞こえ、巨乳ちゃんはノックせず扉を開けた。

木像の扉らしく微かに木が軋む音と共に開かれていく扉。
開いて行けば当然部屋の中が見えて行くわけだが、部屋の中に家具は天蓋付きの大きなベッドしかない。

ただっ広い部屋の真ん中にある天蓋付きのベッド。
そのベッドを中心に、床に大きな魔法陣が描かれていた。

古代イシュレール語から始まり精霊文字、はたまた名前すら存在しない文字を使って描かれたそれは、一つの魔法陣で十を越す効果を同時に備えてあるものだ。
本来魔法陣は一つの魔法に対してしか使わない。
複数の魔法を一つの魔法陣で発動しようとすると効果が相反して半減したり、そもそも発動しない、なんて事もあるからだ。

なのに、魔法陣が大きいからと言って十をこす魔法を一つの魔法陣で発動させるなんて、こんな馬鹿げた魔法陣を描けるのは俺の知り合い一人だけだ。
やはり、俺の考えは正しかった。


天蓋から垂れる薄布に人影が見える。

「久しぶりじゃのう、社」

人影が動き、少女の声が聞こえる。

「ほれ、近う寄れ。そんな離れていては話辛いじゃろうが」

人影が手招きする。俺はそれに従い天幕のように垂らされた薄布の前に立つ。


「どこまで解ってたんだ?」

「カカッ、まさにソレじゃ。()れの第一声まで解っておったわ」

薄布の奥にいるだろう少女がさも愉快げに笑う。

「そっか。……久しぶりだな、婆ちゃん」

俺がそう言うと、薄布の奥の少女は腕を伸ばし、薄布の切れ目からその白い肌を見せた。

「バカ弟子が!妾の事はノルンと呼べと言うたであろう!」


薄布を邪魔と言わんばかりに腕で退けたその白い肌の腕。
薄布の向こうに現れたのは病的にまで白く美しい肌をした、血のように紅い瞳を持つ少女。
透けて見える白い髪はベッドから床にまで垂れるほど長い。
美しい髪から覗く先の長い耳が、彼女をエルフだと知らせる。

彼女が言うように、三年前に俺は彼女の元で力の使い方を学んだ。

そしてリーゼリオンの元宮廷魔導長のノルンには、彼女だけが名乗ることを許された二つ名が存在する。

「時の魔女ノルン様、って?」


時の魔女。

そう、時を操る事のできる魔性の女だ。

その二つ名の通り、彼女、ノルンは自身に流れる時を止めている。

また彼女は時を操るだけでなく、未来を知ることも出来る。いわゆる未来予知と言うものだ。 バジリスク討伐直後に馬車を寄越したのもその能力故。

この一連の事件、仕掛人は間違いなくこの女だろう。理由もなんとなくわかってる。

「今回の一件、どこまで読んだ?」

「俺を戦争に駆り出したいんだろ?んで、平和ボケして調子にも乗っていた俺の鼻をあかすためと、ついでにいつここに襲ってくるかもわからないバジリスクの群れの討伐に行かせた。
トーレさんの同行を許可したのは元々そのつもりだったかのか、トーレさんを連れて行くことで最善(・・)と思われる未来に行き着いたから。……一度の事で複数の事を同時に成す。上に立つに必要なことだっけ?……相変わらずすげぇよな」

俺が言うと、彼女は愉快そうに笑う。

「どうやら身に染みたようじゃの? その通りじゃ、社。 やはり一度死なせたのが良かったのかの?
お主は昔から痛い目に会わせ、身体に教え込まんと覚えなかったからな」

そう、俺はあの時一度死んだ。比喩ではなく、石化し、砕かれ、一度死んだ。

死んだが、ある理由により瞬時に生き返ったのだ。

自分が死に、トーレさん達まで危ない目にあってようやく本気になった。

……たく、先代勇者が情けないぜ。

俺が自嘲していると、俺の裾を掴んでいたリリルリーが前に出る。

「死ん、だ?」

少女を見てから俺を見上げる。

「ん?……なんじゃ、ここに来る途中に話さなかったのか? 汝れが先代の勇者だと」

「あー、……それは、話した」

そう、俺は王都に着くまでの三日間で自身が勇者である事を語った。

巨乳ちゃんが先に二人にネタバレしてしまったせいだ。

リリルリーは興味無さげだったが、意外にも食いついて来たトーレさんに話すと、あの強さにも納得したよ。と言った。

が、俺は勇者と言うことだけしか話してはいなかった。


だが、俺が一度死んだ事は話してない。トーレさんも聞きたがっていたみたいだが、空気を呼んで黙っていてくれた。
今、答えるとしよう。

「トーレさん。俺、バジリスクに石化され砕かれましたよね?」

「……ああ」

俺が問うとコクンとトーレさんが頷く。

「俺はあの時一度死んだんです。けど、勇者の俺はすぐに生き返った」

「……ユウ、……大丈夫、なの?」

今にも泣きそうな顔でリリルリーが俺を見上げる。

「ああ。石化してたし、痛みはなかったのが良かったって言えば良かったか」

リリルリーを撫でながら答えると、トーレさんが一歩俺に近づく。

「……勇者ってのは不死身だったってのかい?」

「まあ、正確には俺は勇者じゃないんだけどね」

トーレさんの言葉にそう返すと、トーレは訳がわからないと言うような顔をした。


「カカカッ、汝れらしいのう。……不死の化け物と思われるのが嫌だったのか?」

ノルンが嗤う。彼女の言う通りだ。だから、俺は勇者と言う存在の詳細を伝えていなかった。

「……勇者とは本来、人々の希望が集い形成す、正の象徴『聖剣アルト・ルリーデ』と、そしてそれを扱う『聖剣の担い手』を一括りにそう呼ぶのじゃ」

「聖剣?……」

トーレさんが首を傾げるのもわかる。第二皇女や婆ちゃんらの尽力により、世界には勇者と言う名前は出回っていても、俺の名前や本来の役名などは知れ渡っていないのだ。

ルクセリアのお姫様も、それは知らないらしい。

召喚陣のコード(・・・)が、俺の持つ聖剣、『アルト・フリーデ』の真名だからだ。

「聖剣は対極たる魔王を倒すために担い手たる人間を死なせはしないし。そして担い手は聖剣を持ったその瞬間に人ではなくなり担い手となる。…………魔王を倒す限りは、の」


聖剣とは人々の希望、願いの集合体。そして魔王は人々の憎しみ、妬みの集合体。

対極に位置する聖剣の担い手と魔王は、互いを倒すまで倒れない。


魔王を封印するに至った理由が、俺と同じように殺しても死なず、何度倒しても生き返ってしまう魔王との、終わらない戦いを無理矢理にでも止めるためだったのだ。

その為に俺たちは大切な人を失った……――



「故に安心せえ、同郷の娘よ。其奴は死んでも死なん」


カカカッ、と時の魔女は嗤った。


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