ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
勇者召喚
先代勇者はひらめいた
久しぶりに悪夢って奴を見たよ。

三年前勇者として戦っていた時に戦った戦闘狂が出てきて
「戦えー!俺と戦えー!」
と詰め寄ってくる夢だ。
あー、嫌な夢だった。



俺はギルドから提供された部屋のベットから起き上がり身体を伸ばす。


ギルドは低ランクの人を対象とした簡易借家を提供していて、それを理由にしたのだ。

床より硬いと言われるそのベットは、岩上でも熟睡できる俺ですら寝付けず、随分と浅い眠りとなった。

今思ったが横にならずに座って寝た方がたぶん寝れただろう。後の祭りである。

俺が何故こんな馬小屋よりも劣悪な環境で寝てるのかというと、それはまぁ……一文無しだからだろう。

ん?薬草が安かったからかって?


まさか、薬草は高値で売れたよ。なんでも妖精の加護を受けた上薬草が、薬草の束の大半だったらしい。その証に腰にはポーチ型の四次元道具袋がある。

そして薬草じたいは道具袋を買って尚2000f程残った。

これだけの稼ぎは最低ランクのEの新人では有り得ない稼ぎらしいのだ。

当然、先輩方のやっかみを食らった。

筋肉隆々のおっさんどもに囲まれた俺はあまりの男臭さに身体が拒絶反応を起こし震えだした。
それを「ブルッちまったのかい?」と思われたらしくさらに増長した先輩方。

大した思考が出来ず、後先考えず俺がおっさんどもを叩き伏せようとした時、女神は舞い降りた。

「やめないかいっ!良い歳した男が新人いびりなんて情けないと思わないのかい!」

トーレさんマジ天使。

トーレさんのその一言に渋々と言った様子で退散する男達。
ざまぁっ!と心の中で小バカにしていた俺だが、

「アイツらも悪い奴じゃないんだがねぇ。……ま、ぽっと出の奴に話題を持ってかれて悔しいのさ。……許してあげておくれよ」

と言うもはや女神のような慈悲深いお言葉を俺に授けてくれた。

そう、おっさん達の立場で考えてみると見えてくるものがある。
俺だって悔しく思うだろう。だって男の子だもん。

「ま、金に余裕があったんなら少し奢ってあげなよ。そうすりゃ男ってのは現金なもんだから、コロッと態度が変わるだろうさ」

俺もその男の一人なのだが、トーレさんの言葉こそ真理だと半ば確信していた俺はそれを快諾……


しちゃったのがいけなかったのかな?


「聞いたかい野郎ども!新人があたしらに酒を奢ってくれるとよ!!」

「「「「「うおおおおおぉっっ!!」」」」」


一瞬でギルドに居た傭兵達が歓声を上げた。



気づいた時にはギルドと併設された酒場に連れられトーレさんを始めとしたギルドの女性陣によいしょされ財布の紐を取っ払って酒場の酒を買いきった後だった。


どんちゃん騒ぎを続ける野郎どもを横目に、女性陣は良い金蔓♪とでも言いたいような女の視線を俺に向けていたのだ。




あー、女って怖い。




そんな現代日本にも通じるような格言を心に、今日も今日とて俺はギルドに向かうのだ。
いや、まあ二日めで大層な言い方ではあるが。


ベットから起き上がった俺は道具袋から制服でない、一着の服と革の籠手とすね当てを取り出した。


これは四次元袋のついでにギルドからの低ランカー推奨の防具として纏めて買ったのだ。
防刃性などは低いが破れ難い頑丈な服に、革製の防具を見に纏った俺は完全にファンタジーの住人だった。
全体的に茶色っぽくなったのが嫌っちゃ嫌だな。貧乏っちくて。

ちなみに制服は道具袋の中に押し込んだ。体積に関しては問題なかったが折り畳んで小さくしないと入らなかった。



今度から馬小屋を借りようと決心しながらも一泊した部屋を後にした俺は歩いて五分くらいでギルドに到着した。

トーレさん居るかなぁ、でもなんだか怖いなーと内心ハラハラとしながらギルド内に入ると、そこは息が詰まるような緊張感に包まれていた。


あれー?なんでこんな暗いの?

昨日のイメージで、ギルドと言うのはもっとフランク(すぐ喧嘩を始めたりして暴力的で、酒を飲みながら下世話な話をしたりする良い子は真似しないでねとテロップが入りそうだが厳格な騎士団と比べればフランクなのだ)なイメージを持っていたのだが……。

昨日突っ掛かって来たおっさん達も完全武装で無駄に真面目な顔をしてるし、昨日俺をよいしょしてた女性達も防御性能を疑問視するようなエロ装備に身を包んでるし………


討ち入り直前みたいな様相を思わせる様子に、俺の好奇心は刺激された。

「あのー、お姉さんお姉さん」

「あ。……はい、おはようございます。どうかなさいましたか?」

一瞬変な間が生まれたが、受付の巨乳ちゃんはギルドを包む空気に、敢えて反抗するかのように満面の笑みを見せた。
多分今の間は、「薬草を山のように持ってきた新人か」と認識された間だったのだろう。
二つ名で、薬草集めのユウ、とか言われそうで怖い。

「この様相は一体…」

「え?……ああ、ギルドの強制徴兵が発令されまして……」

「強制徴兵?」

「はい。Cランク以上のランクを保有するギルドメンバーに限り、ギルド側は半強制的に徴兵することが可能なのです。……ユウ・ヤシロさんはEランク。徴兵の対象にはならないのでご安心を」

にこやかに答える巨乳ちゃん。

……うーむ、なんと言うか嫌な予感がする。こう言う予感は良く当たるんだよなー。

「そーですか、じゃ、俺はこれで」

今日は厄日っぽいので去ろうとすると、

「ん?……ユーヤ・シロウじゃないか」

俺を呼び止める声がした。……にしてもこの世界の人は何故こうも人の名前を微妙に変えるのか。
そんな発音しにくいかねぇ。

そう思いながら振り向くと、そこには褐色肌を全面に押し出したエロ装備のトーレさんが現れた。


「っ、お、ぁ………お、おはようございます」

ボンテージのような、艶のある黒い革製の装備は、レオタードタイプで、鎖骨辺りからヘソの下の下腹部辺りまでがぱっくりと開いている。
トーレさんの生意気ロケットおっは○いの魅力を上手く引き出したエロ装備と言えよう。胸の谷間を上、前、下と楽しめる見事な逸品だ。
そしてさらには同じ材質であろう艶のある黒の革製ハイニーソが太ももまで延びていて、これまたエロい。

「ふふ、なんだいユーヤ・シロウ。随分熱心に見てくれるじゃないか」

「!?」

クスリと妖艶に笑ったトーレさん。や、やべぇ…ジロジロ見てるのがバレたっ!

「子供の癖にませてるねぇ。ま、顔真っ赤にしてるアンタを見れて楽しませて貰ったからチャラ(・・・)としとこうか」

お金取るつもりだったのか!?……や、やっぱ女って怖い。

……って!

「俺、もう16なんスけど!」

「酒飲める歳になってから出直しな」

この世界、レインブルクでは一般的に18歳を越えてから大人と見なされる。

ぐすん。

「ふふ……で、その様子だと知らないみたいだね」

「え?」

「昨日、城に爵位持ちの魔族が現れたって話だよ」

「……しゃ、爵位持ち!?」

俺は声が裏返る程驚いた。
爵位持ち、って言うのは魔族の中でも上位に位置し、魔王に次ぐ実力を持つ、公爵級、侯爵級、伯爵級、子爵級、男爵級と五つある。

ちなみに公爵級より下は有象無象と言って良い。
男爵級なのに強かったり、伯爵級なのに弱かったりする。
ようは偉いだけだからね。

だが公爵級に関しては勇者だった俺でも認める化け物しか存在しない。

だって魔王と互角(・・・・・)な俺を、たった七人で食い止める事が出来るのだ。

まあ爵位持ちって言っても公爵級以下はやっぱりピンからキリまで様々だ。
爵位持ちでも雑魚なら優秀な騎士一個師団くらいでなんとか撃退くらい―――、


「それも公爵級、『断罪のアグニエラ』だ」

化け物だったーー!!

え、え!?しかもあのフラムかよ!!

自称(・・)『炎斧の戦姫』。化け物どもの中でもまた異質。魔法は使わず自身の技量と特殊能力のみで戦う女の魔族。生粋の戦闘馬鹿で、こと戦闘能力にかけては公爵級のなかでもピカ一だ。

まあその反面頭の中が戦うことだけで埋め尽くされた残念娘なのだ。 おっは○いとお尻がおっきくて好みなんだけどねー。


因みに、冒頭で詰め寄って来た奴つもコイツだ。
更に因みにだが、この『断罪のアグニエラ』と言うのは人間側が罵倒を込めて勝手に呼んでいる仇名である。
なんだっけか、焼け残りの灰、とか言う意味だったか?。
これを言われたフラムはブチ切れるので注意だ。
常に切れてるけどね。

しかしここまで思考して、俺はある事に気づいた。

「…………なんでそんな化け物が現れてこの国はまだ存在してるんですか?」

そう。公爵級なんて化け物が暴れたら国の一つや二つ簡単に吹き飛ぶものなのだ。

魔術師で、戦術(タクティクス)級、災害(ハザード)級と能力を表すように魔族相手にもそう呼ぶ。

アグニエラ………いや、フラムは俺と魔王の『超越級』には流石に届かぬものの、単体で災害(ハザード)級である。
災害級と言うのはその名の通り災害に匹敵する能力を持つ者達を指す。
その中でもフラムは二つ名に炎が付くように炎を大の得意とした魔族だ。

広範囲攻撃と炎熱系の攻撃は愛称も良く、あいつの必殺技………確かゲヘナフレイムだかなんだかが放たれれば一瞬でこの国は焦土となっていただろう。
呑気に寝ていた俺も含め一瞬だったはず。


それが何故俺含め生きていたのか、


「なんでも姫様の危機に、異世界から召喚された勇者が駆け付け撃退したらしいのよ。……流石勇者ね。魔王を一度は退かした力は伊達じゃないってね」


成る程………あのイケメン君が覚醒だかなんだかして倒したのか。……イケメン君頼りになり過ぎんだろ。お陰で寝てるのを熱さで起こされるなんて嫌な気分になること必須のイベントを避けられたぜ。


……ん?

ここで新たに疑問が生まれた訳だが………なんでフラムは単騎で現れたんだ?
いや、トーレさんの言葉を誤解して単騎で来たと思い込んだだ―――…あいつは基本単騎だったか。単騎な短気………あれ?俺今上手いこと言った?


じゃないじゃない!なんであいつが現れたのか、だ。

……多分だがフラムの奴つ、勇者=俺と勘違いしてないか?

どっからか勇者を召喚した事が魔王軍にバレていて、三度の飯よりバトルが好きなあいつが…………あり得るッ。

となるとこのギルドの状態は……

「それじゃあ、ギルドの皆さんが完全武装なのは、勇者目当てにルクセリアに進軍してきた魔王軍に対し、ギルドが国と協力しこれを撃退、または倒すため、ですか?」

「お?……そうさ。よくわかったね」

三年前、俺が召喚された後、直ぐ様そんな状況になってたからね。



ヤバイヤバイ、俺の異世界スローライフが台無しだよッ。って言っても俺が戦場に立てば物理的に目立つし…………、


「ま、アンタはまだEランクだ。徴兵対象じゃあないからね。冒険者ってんなら、他の国に行くのも手だよ」




……そ、それだ!
褐色肌のお姉さんってなんであんなにエロ装備率が高いんですかねー。



感想待ってまーす


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。