※注意事項
①今回、一番迷ったのはタイトル。
②GWなので早めの投稿。
③中途半端な話の切り方は仕様。ソルバニアの証書と事業、どっちが早く出来るかぐらいは理解しているつもり。
④で、出来れば突っ込みは次回も見てから入れてよね! ど、どうしてもって言うなら今回入れてもいいケド……
はい、気持ち悪いですね。それも仕様です。
第二十三話 恋する姫と企む魔王と
誤解を恐れず敢えて書けば、銀行員という職業は意外にモテる。
よく、銀行員は愛想が無いとか殿様商売とか言われるが、実際はそんな事は無い。何処で借りてもほぼ一緒、べらぼうに安い昨今の超低金利時代で『お金を借りて貰う』という銀行の本分を全うしようとすれば、イヤなら喰うな的な頑固親父のラーメン屋の様な手法ではとても商売にならない。形のあるモノではない『信用』なんてモノを売買する以上、最終的には個人の人間的魅力も重要なファクターになるのが銀行業務だ。『何処で借りても金利に大差ないし、それなら何時も良くしてくれる貴方から借りようか』となる様に、ある程度のコミュニケーション能力は必須技能なのである。『そんな事無い。銀行員に愛想なんて無いし、何時でも上から目線で偉そうだ』と思われる方がおられるならば、その銀行員が勘違いをしている余程のバカか……非常に言い難いが、『上客』だと思われていないか、のどちらかだ。これは差別ではなく、区別である。銀行だって営利企業なのだ。ちゃりんとも言わない顧客にまで一々愛想など振りまいてはいられないし、そんな時間も無い。
また、銀行員は非常に安定した職業の一つでもある。金融大再編、護送船団方式の崩壊など、『銀行だって潰れる』と言われる程金融情勢は銀行に不利になり、ようやく市場の原理原則の渦に放りこまれたと言われているが……何の事は無い、浮輪つきで放りこまれただけだ。大きな銀行は潰せないのである、結局。
更に、銀行員は基本的に高収入の部類に入る。外資系、或いは同じ金融でも政府系など、勿論収入面でもっと良い職業はある。あるが、それを指して銀行の給与体系を否定するモノでは無い。要は比較対象の問題であって、成人男性の生涯年収で比較すれば平均以上のお給料は貰っているのだ。
加えて銀行には(実態はどうであれと注釈がつきつつも)『社会的信用』というものがある。都銀や第一地銀と呼ばれる銀行群の多くは、その源流を遡れば市中銀行として百年以上の歴史を誇るのがザラだ。古ければ良い、というモノでは無いのであろうが、それでもポッと出の企業よりも老舗が信頼されるのは世の常であろう。実際、余程銀行業界に恨みでもあるか、または自身がより良い職業についていない限り『銀行? 良い所に勤めて……』と仰られる御年輩の方はまだまだ多い。
さて、冒頭に戻る。
『基本的なコミュニケーション能力を備え』ていて、『安定した職業』についており、『一般平均よりも上の収入』で、『社会的に信用』もされているのだ。余程容姿に致命的な欠点があるか、或いは性格に多大な難が無い限り、常識的に考えても『銀行員』はモテるのである。
……主に、結婚相手として。
恋愛対象としては面白みが無い相手であっても、結婚相手としてはまた別の理論が働く。この傾向は年齢を重ねれば重ねる程顕著であり、お金は無いけど夢がある男よりも、夢は無いけどお金がある男の方が倍率は高いし、容姿端麗な無職男性よりは、十人並の容姿であろうがきちんと定職についてる男性の方が世間的にはウケが良い。恋は盲目であって良いし、愛は深くある方が好ましいのだろうが、結婚は妥協と打算の産物。恋愛は加点主義であろうが、結婚は減点主義なのである。理想を追って適齢期を逃すより、ある程度で手を打つ勇気が必要になってくる。遠くのバラより近くのタンポポなのだ。『好みが合わない』であるとか、『ウチの旦那の服装、最悪。一緒に歩くの恥ずかしい』などは幸せな愚痴であろう。衣食住足りて礼節を知るではないが、毎日カツカツな生活を送っていてはとてもそんな愚痴は出て来ない。明日のパンの心配をしないで初めて好みやセンスの話が出来るのである。
つらつら書いたが結局何が言いたいかと言うと、浩太はそこそこモテるのである。前述の『銀行員』である上に、世間一般的には『高学歴』と称される大学を卒業しており、ルックス偏差値も平均並。加えて物腰も柔らかく、温厚。諧謔も介さない訳ではないし、何でもかんでも自己解決を図りパートナーに相談しない節はあるが、『私を頼って!』タイプの女性で無ければむしろ相談される煩わしさが無い分、評価が高くなる可能性だってある。スポーツ全般は決して得意とは言い難いが、結婚生活に運動部分が占める割合は……夜の運動を別にすれば、非常に少ない。芸術センスも皆無に等しいが、それは運動以上に占める割合が低い。総合的に視て結構な優良物件なのである、浩太は。
「……あ」
ポンポン、とエリカの頭を撫でて浩太は両腕の拘束を解く。その仕草に若干不満そうに、それ以上に名残惜しそうな表情を浮かべ、エリカは浩太を睨んだ。
「……何か子供扱いされた気がするのだけど?」
「そんな事ありませんよ?」
「そうかしら?」
「第一……大人の女性は子供扱いされても怒りません」
「……むぅ……」
ほっぺをぷくっと膨らませ、愛らしく浩太を再度睨むエリカ。
「……何か、手慣れている感がイヤよ」
エリカの言葉に肩を竦めて見せる浩太。まあ、浩太だって健康な二十六歳男性だし、迫られれば悪い気はしない。若年寄と言われてしまったが決して仙人の様な生活を送っていた訳では無い訳だし、こう、『シタゴコロ』が透けて見えていたとしても『私、松代君の事……結構、イイなって思ってるんだけど?』なんて、ある程度憎からず思っている相手から言われた日には『じゃあ』と付き合ってみたとしても、それを持って『愛が無い』と浩太を責められないだろう。カンスト勇者では無いものの、お城を出たばかりのレベル1のエリカよりは経験値は多い。女性の扱いだって……まあ、普通程度には出来る。
「ある程度、人生経験は積んでいますので」
「……ふぅん! 流石『魔王』ね! 『女性経験』も豊富なご様子で羨ましいわ!」
「……ソコまでではありませんが。というか、子供ですか、貴方は」
「子供で結構よ! どうせ経験値少ないし!」
……尚、余談ではあるが、浩太は魔王ではあっても、魔法使いではない。念の為。
「……それで?」
「それでとは?」
一頻り拗ねて見せ、それが全くこの男に効果を示さない事を悟ったエリカは胸中で大きく溜息を吐きながらコータに言葉をかける。ここで涙目にでもなって『……もっと』とでも言えば、慌てふためきコータももう一度抱きしめ直すのであろうが、それはエリカのキャラでは無い。つくづく、お姫様役の向いて無いお姫様だ。
「とぼけないで。貴方の事ですもの、何か考えているんでしょ? 言っておくけど此処で『内緒』なんて言ってみなさい? 本気で打つわよ」
「言いませんよ。第一、私だけではもうどうしようも無い所に来てますしね」
エリカは『貴方のせいでは無い』と言ったが……騙し打ちに近い形でありこそすれ、実際に交渉に赴き、納得して来たのは浩太である。彼の性格上、『任せたのは貴方でしょ?』と簡単には割り切れない。
「……現状で取れる方策はとても少ないです。ソルバニアが証書を発行するというのは自由意思で行う事です。それに歯止めをかける事など出来る訳も、出来る筈もありません」
やってしまえば、重大な内政干渉になるし……そもそも、テラ如きの発言力でソルバニアが止まる筈などない。交渉自体は喧嘩腰であったが、本当に喧嘩をしたい訳ではないし。
「……流通を止める、なんて事も不可能でしょうね」
「先ほども言いましたが、それはまず不可能でしょう。水が流れる様に証書はテラの経済を埋め尽くします」
「……打つ手なし、って事?」
「無い、訳では無いのですが……」
「あるの!?」
浩太の言葉に身を乗り出すエリカ。
「ちょ、エリカさん!」
「何よ、出し惜しみして! 内緒にしたら打つって言ったでしょ! さあ、頬を出しなさい! 今なら平手にしてあげるから!」
「バイオレンス! 落ち着いて下さい! 説明、説明しますから!」
ふーふーと鼻息の荒いエリカをどうどうと手で制し、座っていた席に腰を落ち着かせる。浩太の額から冷や汗が流れているが、まあその辺りはご愛嬌だろう。
「敵対勢力に対抗する手段は大まかに分けて二つしかありません」
「二つ?」
「敵を弱くするか、自分を強くするか。要はこの二つです」
「……勿体ぶった割には随分普通の事を言うのね。当たり前じゃ無い。まあ、いいわ。それで?」
「敵を弱くする、というのは言うは易し、行うは難しの典型ですね。天災、戦争、飢饉……何でもイイですが、ソルバニアが弱体化してくれるもの、ソルバニアがテラなんて構っていられない程の大惨事があれば良い。人の不幸は蜜の味、です」
「……」
「……そんな顔をしないで下さい。私だってこれが、人の不幸を願うのが一番良いとは思ってません」
別に、浩太は聖人君子では無い。ぶっちゃけ、地球の裏側で何万人亡くなるより、飼ってる猫が死んでしまった方が悲しいと思う。ソルバニアで何人死ぬよりも、この眼の前の、自分を頼ってくれる少女が悲しい顔をする方がイヤな程度の人間なのだ。
「……ごめんなさい。私だって、それが最良ならばそれを選択する気構えを持たなくてはいけないのだけど」
やる、やらないはその時の判断であるが、『出来ない』では話にならない。領民の生活を預かるのであれば、時には意に沿わない決断を下す必要もあるし、それが分からない程エリカは領主として未熟でも無い。
「そうは言っても、ソルバニアにひと泡吹かせる様な切り札は手元にありません。ですからソルバニアを弱くするのは無理ですよ」
浩太の言葉に、あからさまにほっとした顔を浮かべるエリカ。理解は出来ても納得は出来ないモノである。
「そうなると……テラを『強く』するの?」
人差し指を顎に当てて、小首を傾げる姿を見せるエリカ。その愛らしい姿に思わず緩みそうになる頬を引き締め、浩太は頷く。
「そうなりますね」
「でも……コータ、さっきの貴方の話だったら、それは難しいのではなくて?」
「そうですね」
「……」
「……」
「……」
「……駄目じゃ無い」
「ええっと……方法が無い訳では無いんです。無いんですが……」
そう言って間を取り、躊躇するように視線を中空に彷徨わす。
「……教えなさいよ」
「……かなり勝算は薄い上に、お金も使う。また、仮に成功したとしてもテラはかなりの確率で新たな火種を抱える事になる、そんな方法ならあります」
「……」
「それでも成功すれば、ソルバニアに……少なくとも、テラ領内であればテラが勝てる可能性は高い。そんな方法であれば……あります」
「……なによ、それ」
「……」
「……そんな良い方法、あるなら早く言いなさいよ!」
「……ですよね。流石にこれ――」
――――え?
「……って、エリカさん? 私の話聞いていました?」
「ええ、聞いていたわ。成功はし難い、成功しても新たな問題が起こる。その上お金がかかるんでしょ?」
「そうです。自分で言っておいて何ですが、決して良い方法では無いと思いますが?」
「そう? 私はそうは思わないわ。貴方の口振りなら……要は、問題を先送りにするってことでしょう?」
「……そうですね」
「私達にとって稼ぎたいのは、時間でしょ? テラが強く、ソルバニアに負けない程強くなる為に……その為に必要な『時間』が買えるのなら、それは良策だわ」
「で、ですが!」
「良いの」
ゆっくりと、浩太を手で制し。
「言って、コータ。私に教えて。その上で……」
『二人で』考えましょう、と。
「……」
「貴方だけが考えるでも、貴方だけが背負うでも、貴方だけの手柄でも無い。私にもそれを教えて。私にもそれを考えさせて。貴方の苦しみを、貴方の悲しみを……そして、貴方の喜びを、私にも分けて」
まるで、聖母の様に。
凛として、それでいて儚く、美しい、そんな笑みを浮かべるエリカ。
「……は……ははは!」
「……な、何よ! そ、そんなに私、変な事言った?」
かと思えば、一転。少しだけ拗ねた様な、そんな表情を浮かべて見せる。
「……失礼」
不審そうな眼を向けるエリカの頭を一撫で。不意打ちのソレに慌てるエリカを先ほどよりも笑みを深くして見つめ、浩太は口を開く。
「……港湾整備をしようと思うんです」
「港湾整備?」
心持頬を赤くし、撫でられた頭を両手で押さえてはてな顔を浮かべるエリカに頷く。
「テラは海に面しています。にも関わらず、主な物資の輸送手段は陸路。わざわざ港の近くを『商業区』と名付けたのに、です」
理由は色々あるが……一番大きいのはコストパフォーマンスの問題。商業区域の土地の買収資金に、商館の建築資金。この上で港湾整備事業など立ち上げようものなら、テラに面した海から白金貨が湧きだして来ない限り、到底資金繰りは追いつかない。加えてテラは正真正銘、先祖伝来の血統書付ド田舎だ。多大の資金を投じるインフラ整備で、果たして採算性が合うか懐疑的だった所もある。作ったは良いが、人よりも熊の方が多い高速道路などを作っている余裕はテラには無いのである。
「港街であり、今以上の発展を目指す以上、港湾整備はいつか必要になる事業でした。予定を早めます。これにより、テラは今以上の発展をするでしょう」
「……待って? 港湾整備が必要な事業な事は分かったわ。でも……どうするのよ?」
「何をです?」
「お金よ」
確かにテラは有史以来、最大の好景気が押し寄せていると言っても過言では無い。過言では無いがしかし、イコールそれがいきなり港湾整備などの巨大インフラが実行できる程の収入になっている訳では無い。エリカの意見は至極真っ当であり……それ故に、浩太も気付いている筈と踏んでいたのだが。
「出して貰いましょう」
「…………はい?」
「ですから、出して貰いましょう」
「だ、出して貰うって……まさか貴方、王家から……フレイム王国から借りるつもり? 言っておくけど、そんなの無理よ? 大体、今だって十分国からお金を借りているのに、これ以上――」
「国からではありません」
「――借りれない……って、え?」
「そもそも『借りる』訳ではありません。『出して貰う』のですよ?」
「出して……貰う? ちょ、待って! 一体誰から出して貰うのよ?」
「商人の皆さまから、です」
「り、臨時の税金でも取るつもり? そんなの、絶対認められないわ! そんな事したら、折角テラに来てくれた商人、皆どっか行っちゃうわよ!」
「その通り。税金の安さがテラの魅力です。臨時の税金なんて論外ですね」
「じゃあ!」
「だから、『出資』して貰うんですよ」
「しゅ……し?」
ええ、と一つ頷き。
「私はネーミングセンスが皆無ですが……そうですね、『ロンド・デ・テラ港湾整備事業株式会社』なんて……どうでしょうか?」
経済マメ知識⑯
オランダ東インド会社
正式には連合東インド会社。世界初の株式会社と言われる貿易系の会社……ですが、実際は戦争も出来るし外交も出来るし条約だって結べちゃう、どちらかと言えば国の出先機関のイメージが強い会社。ロンド・デ・テラ港湾整備事業株式会社はこちらのイメージに近いです。続きは次回で宜しくお願いします。
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