第二十一話 女の戦い
――魔王
悪魔を統べ、魔物を率いる魔界の王。サタン、ルシファー、ベルゼブブ……日本で言うなら鞍馬天狗、イスラムで言うならイブリース、バビロニアならパズズだろう。
魔王の、その圧倒的な実力から比喩表現としても良く使われる。織田信長が第六天魔王と自称し、人々がそれを後世に伝えたのは、その常人離れした才能や能力、或いはその残虐性を指して言われている言葉だ。
「…………どういうこと、かしら?」
応接室にて。
エリカ&エミリの凍てつく視線にさらされ、浩太の体が強張る。これだけ緊張したのは……浩太が覚えている限り、入行二年目にヤのつく自由業の方の所に取り立てに行った時以来である。
「え……っと……ですね? これは、その……」
「ああ、言い訳は結構よ?」
……じゃあ、聞くなよ! なんて事、浩太は思わない。こうなった女性に逆らっても絶対に良い事にならないのは過去に経験済みだ。主に、お局様相手に。
「……そうね。私の記憶が確かなら、コータ。貴方はソルバニアに『歓談』に行った筈よね? ねえ、エミリ? 違ったかしら」
「いいえ、エリカ様。私の記憶でもコータ様は『歓談』に向かわれたと記憶していますが」
「そうよね? 確か、『歓談』に行ったのよね? 私の聞き間違いじゃ無ければ、『縁談』では無かった筈よね?」
「ええ、そうですとも。私もしかとこの両耳で聞きました。コータ様は『歓談』に赴かれたのです。決して、『縁談』では無かった筈です」
浩太、脂汗が止まらない。もう、何と言うか……プレッシャーが、半端無いのだ。魔王、魔王と最近あちらこちらで言われているが、正直今の二人から出る『黒いオーラ』の方がよほど魔王に相応しい。
「コータ様? お二人は何を怒ってらっしゃるのでしょうか?」
そんなコータの心を知ってか知らずか、腕にぎゅっと捕まり、上目遣いでコータを見上げる愛らしい少女。言わずと知れたソニア嬢である。
「えっと……ソニアさん」
「「ソニア『さん』?」」
「……ソニア様」
「いやですわ、コータ様。『様』など他人行儀な呼び方。わたくしとコータ様の仲では御座いませんか」
「…………へぇぇぇぇぇ! 一体、どんな仲なのかしらねぇぇぇ!」
「え、エリカさん! 落ち着いて! 落ち着いて下さい! カップ! カップに罅が入ってます!」
「……エリカ様、そちらのカップでは御座いません。こちらに『コータ』と書いておきましたので、こちらを」
「……あら、流石エミリ。気が利くわね」
「気が利くじゃありませんよ! エミリさん、貴方――」
「――――なにか?」
「――――――何でも……あり、ません」
浩太、沈黙。女は怖い。分かっていたが……女は怖い。
「……まあ、浩太の『処罰』は後で考えるとして」
浩太の背筋がぶるっと震えた。え? 処罰って何ですか? と、浩太は心の中で問いかける。というか、叫ぶ。
「……取りあえず、よくお越し下さいましたソニア王女。御壮健そうで何よりです」
「不義理をしていて申し訳ございません、エリカ様。エリカ様も御壮健そうで何よりです」
「ありがとうございます。それにしてもお久しぶりですね?」
まさか、この様な所でお逢いするとは思いませんでしたけど、と。
「……どういう意味でしょうか?」
「あら、そのままの意味ですよ? どうも『私』のコータが迷惑をおかけした様で」
厳密に言えば、『頭の回転が早い』と『頭が良い』というのは少しだけ違う。例えば、浩太。彼はどちらかと言えば『回転が早い』よりは知識量が豊富な、要するに『頭が良い』方に属する。今まで彼が成功させてきた施策、或いはソルバニア王との交渉自体は、彼が独創的な知識を披露したり、あっと驚く機転を見せた訳ではない。オルケナでこそ珍しいが為に『独創的』に見えるだけであって、実際は単に溜めてあったストックを放出したに過ぎないのだ。同様に、エリカやエミリにしたってそう。当たり前と言えば当たり前だが、王族であり貴族であるエリカも、その従者として長らく貴族と共に暮らして来たエミリにしても教養こそあれ、常識の範疇より飛び出す事は無い。
「……いいえ、エリカ様。全然御迷惑等ではございませんわ。だって『わたくし』のコータ様ですもの」
対してソニアは『頭の回転が早い』に属する。若さも関係あるが、常識の範疇から飛び出した事でも想像し、創造出来る『才能』を彼女は持っていた。ソルバニア王が見落とした事実にソニアが気付いたのも、実はこの『他とは違う視点を持つ』という一事にある。天才と秀才の違い、とでも言えば良いだろうか。
勿論、そのどちらが優れていてどちらが優れていないという話では無い。年齢差もあり、純粋な知識量の勝負となるペーパーテストではどう足掻いてもソニアはエリカに勝てないだろうが、かといってそれはソニアの才を否定するものではないし、ペーパーテストが優秀なだけとエリカを罵る訳でも無い。要は才能の方向性の違いであり……結局何が言いたいかと言うと。
「それよりエリカ様? 『わたくし』のコータ様を、呼び捨てになどしないで頂けますか?」
……聡いソニアは、気付くのである。『この人』は、私の『敵』だと。
「……『わたくしの』……『わたくしの』と、そう仰られるの?」
「ええ。『わたくし』の婚約者ですもの、コータ様は」
「……へぇ。婚約者、婚約者ねぇ~! 確かソニア王女、貴方、まだ十歳ぐらいじゃないかしら?」
「そうですが……それが、何か?」
「いえ。ただ……コータにそんな趣味があったのかしらね?」
ギン、っとエリカの視線が鋭く浩太に突き刺さる。浩太? さっきから震えっぱなしだ。
「……どういう意味ですか?」
「いえ、ね? 『幼い女の子』である貴方がコータの婚約者だなんて……悪い冗談だと思って」
「……別に、年齢差のある政略結婚など珍しくもありませんが?」
「仰られる通り、年齢差のある政略結婚など珍しくはありません。ありませんが……」
そう言って、エリカは上から下までソニアに一通り視線を送り。
「…………ぷ」
「どういう意味ですかぁ、それ!」
「いえ、深い意味はありませんのよ? 『政略結婚』ですものね? ええ、ええ、別に貴方が『女』としてコータを満足させる必要、ありませんものね?」
そう言いながら、勝ち誇った笑みを浮かべるエリカ。対して、悔しそうに臍を噛むソニア。
……念の為に言っておくが、この二人には年齢差が十歳以上ある。
「……年増」
「………………あら? 何か仰ったかしら、ソニア王女」
「………………いいえ~。ただ、私が二十歳になった時、エリカ様は三十一歳。さて、コータ様はどちらを選ぶのでしょうか?」
「……どういう意味かしら?」
「殿方もやはり『若い』女性の方がお好きかと思いまして。それに……」
そう言って、ソニアはエリカの体の一部……具体的には、控えめにそびえる二つの丘に目をやる。
「…………ぷ」
「どういう意味よ、それ!」
「……いえいえ。拝見した所エリカ様、どうも『女性の魅力』という部分では、些か問題があるのではないかと思いまして」
「な! あ、貴方には言われたくないわよ!」
「私の胸には夢と希望が詰まってますわ! なにせまだ『十歳』ですもの。それに比べて貴方様は……」
ふっ、と。
完全に小馬鹿にした様に嗤うソニア。
「…………エミリ」
「はい」
「ソルバニアと戦争になっても……仕方ないわよねぇ?」
エリカの瞳から、完全にハイライトが消えた。世間一般的には美少女の部類に楽々ランクインするエリカがしちゃダメな表情だ。
「……エリカ様。その様な事で戦争等と軽々しく口に出しては」
「でも!」
「……それに」
そう言って。
たわわに実る、二つの果実を誇示するかの様に突き出すエミリ。
「……女性の価値は、胸ではありませんよ?」
「あ、貴方ねぇー!」
「いえ……大きいと肩も凝りますし、良い事などありません」
「持つモノは何時だってそうやって持たざるモノを見下すのよ!」
なるほど、真理である。
「む、胸が大きいだけではありませんか! む、胸に大事なのは形ですよ!」
「ええ、そうでしょうソニア王女様。私の胸など……所詮、駄乳ですよ?」
「な、何ですかその勝ち誇った――って、今、視線! 視線が同情的でしたわ!」
「それは被害妄想ではありませんか、ソニア王女」
「ぶ、無礼ですわ! わたくしは――」
「ソルバニア王国国王、カルロス一世陛下の第十一子、ソニア様で御座いますよね? ええ、勿論存じ上げていますよ。存じ上げていますが……」
まさか、ソニア王女……貴方は、『この場面』でそれを言う訳ではありませんよね? と。
「……っ!」
断っておくが、王女であるソニアに『あんな』言葉を吐くエミリには不敬罪が適用されても可笑しくない。可笑しくないが。
「……な、なんでもありませんわ!」
何だか、その『伝家の宝刀』を抜くと負けた気がする、とソニアが思っても……まあ、不思議ではない。これは『女の戦い』であり、そこで地位を持ちだすのはフェアでは無いからだ。
「……」
「……」
「……」
龍と、虎と……熊、あたりだろうか?
「「「ふん!」」」
部屋の隅で震える浩太は、三人の背中にそんなオーラを見た気がした。
◇◆◇◆◇◆
「……」
「……」
「……」
「……あの……エリカさん?」
「……なによ」
エリカの私室で向かい合わせになった椅子に腰を降ろし、浩太は一人震えていた。怒ってる。エリカさんは確実に怒ってらっしゃる! と。
「そ、その……勝手にソニアさんをお連れした事は謝ります。仮にも王族であるソニアさんを、その、領主であるエリカさんの許可も取らずにお連れするという事は、これは重大な国際問題になる可能性が――エリカさん? あの……なんでそんな冷たい眼で見るんです?」
「…………別に」
本当にこの『バカ』は分かっていないのだろうか、とエリカは思う。わざとやってるんじゃないだろうかコイツは、と。
「連れて来たモノは仕方ないわ。王族であるソニアに、下手な屋敷を宛がう訳にも行かないし……」
はーっと、エリカは溜息一つ。そもそも、屋敷自体にも随分とガタが来ている所もある。良い機会と言えば良い機会だ。
「……大規模な改装を行いましょう」
「その……エリカさん? 僭越ながら、ソニアさんは『別に屋敷の大きさには拘りません』と――」
「そう言う問題じゃないわよ。いい? 仮にソニアが『普通の屋敷で構いません』と言ったとして、本当に『普通』の屋敷を宛がう訳にも行かないでしょ? 王女よ、ソニアは」
『どうぞ普段着でお越し下さい』と書かれて、本当にTシャツ・デニムで登場したら、後はご想像下さい、だ。王族には王族の、しかるべき敬意と態度で接していないと恥を掻くのはテラの方だ。
「……さっきその王女さまと……しかも、十歳児と言い合った人の台詞とはおもえませんが」
「…………何か言ったかしら?」
「い、いえ! 何も言ってません! 言ってませんが……良いのですか?」
「何が?」
「その……お金です」
「……だ・れ・のせいだと思っているのかしら?」
「す、すいません! 私! 私のせいです! せいですが――」
「……心配しないで。貴方が居ない間にバーデン伯と話をつけたわ。冬の備蓄で必要な小麦の仕入れ、計画の半分ですむ」
心持、自慢げに。
そういうエリカに、思わず浩太が目を見張る。
「……本当ですか?」
「ええ」
「どうやって?」
「あら? 『私達、テラ』がする事なんて一つでしょ?」
勿論、『交渉』よ? と。
まるで浩太がする様にニヤリと嗤うエリカ。
「……だから、お金の心配はしなくても良いわ。まあ……ほ・ん・と・う・は! こんな事に使いたく無かったんですけど!」
そう言って、エリカは浩太を睨みつける。今日の浩太の事だ。きっと、この視線にも大袈裟に怯えてくれると、そう思って。
「……コータ?」
にも、関わらず。
「……そうですか」
浩太はその視線に怯える事はせず、エリカの眼をじっと見つめる。その視線の鋭さに、思わずエリカが頬を赤らめかけて。
「……ソルバニアが、『引渡証書』を作ると言ってきました。そして、それをテラで流通させる、とも」
浩太の言葉に、思わず顔の熱が引いて――
――頭に、疑問符を浮かべる。ソルバニアの証書が……テラで、流通する?
「……よく、意味が分からないんだけど? ソルバニアが引渡証書を発行するのよね? それで、ソルバニアの証書もテラで使える様にするんでしょ? 良いじゃない、別に。それってテラでの取引が便利になるって事でしょ?」
言う通りである。テラでの流通にソルバニアの証書も乗れば、ソルバニア商人、或いはソルバニアとの交易のある商人はテラに来やすくなるだろう。そうなればテラでの商いは活発化し、今以上に好景気を巻き起こす可能性もある。
「……そうですね。それは否定しません」
「じゃあ――」
「それで? その後はどうなりますか?」
「その……後?」
「ソルバニアの証書がテラ領内で流通していたとします。エリカさん、貴方が商人だとしたら、規模が大きな商会と小さな商会、金払いが良さそうなのはどちらだと思います?」
「それは……大きな商会よ」
「では金払いの良さそうな商会と、金払いの良さそうでは無い商会、一体どちらにお金を預けたいと思いますか?」
「……」
浩太の問いに、沈黙で答えるエリカ。
「……テラは証書を発行する事によって、多くの白金貨を集める事が出来ました」
偽造対策には万全の準備と時間とお金をかけているが、あくまでそれは初期投資段階での話である。大量発行が可能になった現在、原価ベースで考えれば『一白金貨引渡証書一枚』が白金貨一枚を上回る事は無く、精々銅貨一枚程度である。なんせ、紙だ。
「銅貨一枚で作る事が出来る引渡証書のお陰で、テラはより多くの白金貨を集める事が出来た。それも、十年間は返済不要の、固定化出来る白金貨です。この白金貨で、テラは投資を……経済を回しています」
マリアが、或いは八百屋がお金を借りた様に、テラは引渡証書の発行と同時に白金貨での貸付も行う。貸付された白金貨は支払いに回され、支払いに回された白金貨は巡り巡ってテラの金庫に『引渡証書との交換』という形で戻ってくる。戻ってきた白金貨はまた貸出に回され、先と同様にテラの金庫に戻ってくるのだ。この一連の動きのお陰でテラ経済はより活発に動き、テラ自体にも利息収入という名で幾ばくかのお金が落ちているのである。
「ソルバニアの引渡証書が流通するという事は、相対的にテラの引渡証書の価値が下がるという事です。それはつまり、先の経済の循環が滞るという事。悪い事に『テラ』ですからね、ここは」
テラに出店する商会は、商人仲間の間では名前を聞けば『ああ、あの国の』と直ぐに出て来る商会ばかりだ。当然と言えば当然だが、テラはほんの数カ月前まで寂れた一寒村に過ぎない領地であり、そんな寂れた寒村に、返ってくるとは言え一万枚の預託金を預けて出店する……出店する『事が出来る』商会は、そこそこ名の知れた、大きめの商会に限られるのが道理である。
「テラに出店している商会のほぼ全てがソルバニアにも支店を持ちます。マリアさんの所など本店がソルバニア国内にある。利便性を考えれば、多くの商会はソルバニア証書を使う事になるでしょう」
テラの引渡証書の流通が止まり、今以上の白金貨を集める事が出来なくなれば、テラは引渡証書の新規発行が出来なくなる。出来なくなるという事は、市場に流通させられる貨幣の量が少なくなるという事。貨幣の量が少ないという事は貨幣の価値が上がり、物の値段が下がるという事だ。風が吹けば桶屋が儲かるではないが、順繰りに巡っていって行きつく所はデフレによる不景気の到来だ。
「で、でも! コータの話だと、ソルバニアの証書自体は流通に乗るんでしょ? なら、テラの証書の代わりにソルバニアの引渡証書が流通していれば、『お金』の価値自体は――」
「その結果、テラは通貨主権を失う。ソルバニアの景気に左右され、ソルバニアの政策に左右され、ソルバニアの考え一つで右往左往しなければならない……」
経済的な『属領』に成り下がる、と。
「……な、なら! ソルバニアの証書の流通を止める方法を――」
「無理です。ソルバニア証書の流通を止める事など、今のテラでは出来ません」
テラがソルバニアよりも強国であるなら話は別だが。そもそも、テラの方がソルバニアよりも格が上であるのならば、流通に乗る乗らないの話などは出て来ない。つまり。
「どう足掻いても……テラはソルバニアに『侵略』される」
「……なんで」
「……」
「……なんで、そんな事に!」
その言葉に、浩太は渋面を作る。エリカの言葉こそ、本音で言えば浩太が言いたい所だ。
「理由は二つ、ですね」
「教えて」
「一つは、テラでの成功が思いの外ソルバニア王の目に留まった事です。何時かはこうなると思っていましたが……本来であればもう少し後、せめて二、三年後にと思っていました」
そもそも、浩太のやっている事自体が現代日本でやっている事の焼き直しに過ぎない。テラで出来る土壌があるという事は、余所でも出来るという事。浩太はコロンブスに過ぎず、最初にテーブルに卵を叩きつけただけの話だ。
「……そう」
唇を噛みしめるエリカ。本来であれば、他国の手本となった事を誇るべきであろうが、今は到底そうは思えない。そんなエリカを辛そうに見やり、浩太は言葉を続ける。
「……二つ目の理由は」
――悔しそうに、両の拳を握り込んで。
「……二つ目の理由は私の見通しの甘さ、です。ソルバニアは大国であり、便利と分かっていながらも証書の流通に踏み切る程『足元』が軽いとは思ってもいませんでした」
エリカやエミリ同様、浩太もまた常識人だ。ソルバニア王のやった事を現代日本に置き換えると通貨単位の切り替えであり、具体例を上げるのであれば『日本円は廃止。利便性の高い電子マネーで決済します!』と、いきなり政府が言いだしたのとほぼ同義。浩太の常識の範疇からは大きく飛び出している。
「正直に言えば、『テラだから出来た』と思っていた側面もあります。領地は小さく、比較的何処にでも目が届く。新しい領地であるが為に、しがらみも少ない。ソルバニアではこうは行かないと思っていましたが」
何か新しい事をしようと思うと、意思決定の権限を持つ人間は少ない方が良い。『組織の大きさは意思決定の遅さの言い訳にはならない』とはよく言われる台詞ではあるが、意思決定のスピードはどうしたって組織のサイズに比例して遅くなるものだ。
「だから……申し訳ありません、エリカさん」
貴方は『テラ』を発展させるために頑張ったのに……私は、『テラ』を追い詰めた、と。
「ちょ、こ、コータ!」
「全て……私の、見通しの甘さに起因します」
「頭を――」
「……ですが、このままでは済ませません」
喋りかけた、エリカを制して。
「――コータ?」
「……このままでは済ませません。幸い、ソルバニアの証書が流通するまでにはまだ時間があります。この時間を活かして次の政策を打ちます」
「……え?」
「……若さ、知識量、経験不足。侮られる要素は多々ありました」
嫌になる程に、と。
「交渉も、押しの強さも、切るカードも、切る場所ですら……まだまだソルバニア王に及ばなかった」
だから……これは、自分のせい。
「……申し訳ありませんでした。この様な事は言えた義理で無い事は重々承知しています。承知していますが……エリカさん」
……もう一度、私に『チャンス』を下さい、と。
「……」
頭を下げ続ける、コータに。
「……けるな」
「……エリカさん?」
エリカの、頭の中で。
「……ふざけるな!」
何かが、弾けた。
経済マメ知識⑮
信用創造
銀行の三大業務の一つに信用創造がある。説明がややこしいのですが、ざっくり言えば預けられた100円を他の人に貸し出す事により、100円が200円になるという、まあそんな感じ。本来であれば100円しか無い現金が銀行を介する事により『信用貨幣』として流通する、現代の錬金術です。
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