比翼連理なんて言葉、異世界にあんの? という突っ込みは無しでプリーズお願い。更新ペースが遅い! とお叱りを受けるかもしれませんが、多分これが通常ペースですのでその辺りはご勘弁を。あと、今回は経済あんまり関係ないっす。
第十九話 比翼連理のだ~りん♡
「……宜しかったのですか、陛下?」
浩太を、半ば引き摺る様な形で自室に引っ張り込んで行ったソニアを横目で見ながら、フィリップはカルロス一世に話しかけた。その声に、カルロス一世は驚いた様な顔を浮かべる。
「……何でしょうか?」
「……おったんかい、自分」
「おったわ!」
「え? マジで? 全然気付かんかったやけど?」
「結構シリアスな場面やからそっと壁の花をしてたんやって!」
出来た臣下なのに不憫なフィリップである。
「……コホン。勿論、冗談やで?」
「嘘言えや! 完璧忘れとったろ!」
声を荒げるフィリップをまあまあと手で宥めるカルロス一世。その姿に思いっきり肩を落とし、それでも言いかけた事を思いだしたフィリップは口を開いた。
「……それで、本当に宜しかったのでしょうか?」
「何がや?」
「ソニア様の事です」
ちらりと、浩太と連れだって……或いは浩太を連行して出て行った扉を見つめる。その表情に少しだけの憂いと、それ以上の諦観を浮かべて。
「聞かんでも分かるやろ? コータを手に入れる為や」
「手に入るとは思えませんが?」
「俺かて、そんなに簡単に手に入るとは思ってへんよ」
「では、何故? こう言っては何ですが、ソニア様でも無くて良かったのでは?」
ソニアは齢十歳。対して浩太は二十六歳だ。十や二十の年の差、珍しくは無いとは言えないが、それでも政略結婚ではままある話。
「……陛下はソニア様を殊更愛していらっしゃると思っていましたが?」
一を聞いて十を知る、という言葉がある。物事の一端を聞いて全体を理解する、非常に賢く理解力のある事の例えである。
「自分の子供は皆可愛いわ」
「そうでしょうか?」
自身も頭の回転が早く、若い頃から他国に名が知れた英邁な君主であったカルロス一世は何より『知』を愛した。貧乏貴族の三男坊であったフィリップ自身、その智謀によってカルロス一世に召し抱えられたクチである。だからこそ、自身の幼い頃に良く似た聡明なソニアを、カルロス一世は誰よりも愛していたとフィリップは見ていたが。
「……まあ、確かにソニアは可愛いで? あんな賢い子、そうおらへんし」
カルロス一世の言葉にフィリップは不敬と知りながら頷く。カルロス一世の子供達はその容姿は間違いなくカルロス一世より受け継いでいたが……才能の方は残念ながら母方に似たのか、容姿以上の評価を得る後継者は居ない。
「……よろしいのですか?」
だからこそ、勿体ない。あれほど聡明な姫ならば、何も他国の、それも辺境の……しかも、領主でも何でも無いただの風来坊にやってしまうなど、正気の沙汰とは思えない。もっと良い縁談だってあったはずだ。
「……ええんよ、あれで」
「……そうなのですか?」
「そうや。よう考えてみ? それこそアロンソ辺りは可も無く不可も無く、まあ発展はせえへんけど、今よりソルバニア悪くする事はないやろ?」
柔和な笑みを浮かべる、第一王位継承権を持つアロンソ王太子を思い浮かべたフィリップ。なるほど、『王』と言うよりは『官吏』な雰囲気を持つ彼であればソルバニアを巧く回す事は出来るだろう。
「ソルバニアは守成の時期や。守成の時期はアロンソみたいなボンクラでも十分やっていける」
「……ええ」
「ほいでも『乱世』や『創業』の時は、どうや? コータは、『魔王』は、余計な演者や。折角の『守成』の時期に、『乱世』を巻き起こしかねない余計な、な?」
……せやから、と。
「賢いソニアなら分かるやろ。自分が『何処』に『何』の為に向かったか」
「……何の為、ですか?」
「『鈴』や」
そう言って、ニヤリと『嗤』う。
「今日、俺は『魔王』の首に鈴をつけたんや。動く度に、チャリチャリ鳴ってくれる、鈴を」
その姿は、正に蛇。
「……ほんまに、自分の子供は皆可愛いで? アロンソにしてもソニアにしても……勿論、他の子だってそうや」
「……」
「俺の意思をしっかり汲んで動いてくれる子は……ほんまに、可愛いわ」
「……自らのお子様すら、道具にしますか?」
「当たり前やん。俺は確かにソニアの父親やけど、それでもソルバニア王や。王は民の為に、国の為に、その為に動くんや。使えるモンは何でも使う」
敵でも、味方でも。
「勿論……身内でも」
「……それでこそ、蛇」
カルロス一世の言葉に同様に『嗤』う、蛇がもう一匹。
「……人の事、言えるかいな」
そう言って、二人で嗤う。可笑しそうに、楽しそうに、二人で。
◇◆◇◆◇◆
「恐らく父はわたくしに期待しているでしょう」
『さあ、行きましょうコータ様!』と、半ば引き摺られる形でソニアの私室に連れ込まれたコータは、そこで先ほど同様、年齢に見合わない表情を浮かべるソニアを見た。
「……何を、でしょう?」
「わたくしがコータ様から情報を掴みだしてくる事を」
ポン、とベッドにその小さなお尻を投げ出し無垢な瞳で浩太を見つめるソニア。その姿に思わず肩を竦める。
「別に珍しい話でも無いでしょう?」
政略結婚にも幾つかのタイプがある。同盟、経済支援、王位もしくはそれに準ずる地位の継承権獲得などなど。
「政略結婚は言わば公然のスパイ行為です。嫁ぎ先の情報を収集するのは努めの一つ。別段、珍しい話ではありません」
その中の一つがこれ、スパイ行為である。お市の方の袋の話ではないが、当時の政略結婚の奥方は別段セレブで左団扇の生活を送っていた訳では無い。言わば情報局の局長であり、外交官であり、勿論人質でもあった。
「……面白く無い方ですわね」
「貴方が仰られたのですよ、ソニア様」
「『ソニア』と、どうかお呼び下さい。貴方の伴侶になる女ですよ?」
「『女』ではありませんよ。精々『少女』です、貴方は。そして私は少女を伴侶にするつもりは御座いませんよ、ソニア『様』」
「……連れないお方ですこと。随分嫌われたモノですね、わたくしも」
「別に嫌ってる訳ではありませんよ?」
頬をぷーっと膨らませて見せるソニア。その姿は年相応に見えて微笑ましいが、如何せん先ほどの聡明さを見ている浩太としてはそのままで受け取る訳には行かない。
「どうしたのですか?」
そんな浩太の視線に気付いて『こくん』、と小首を傾げて見せるソニア。関係無いが女の子は自分が最も可愛く見える姿を心得ている。それが例え少女、もしくは幼女であろうとも、だ。
「……化かし合いは少々食傷気味ですよ」
「あら? それが『少女』に言う言葉ですか?」
「……」
「……冗談です。これ以上貴方に嫌われたくありませんし」
そう言って、年不相応に溜息一つ。
「……正直に申しましょう。わたくしはソルバニア王国より人質として、スパイとして貴方様の下に参ります。貴方様のお考え、貴方様の想い、貴方様の描く未来、その全てをお父様であるソルバニア王、カルロス一世に伝えます。それがソルバニア王国の姫、ソニアとしての努めですから」
「ええ。そうでしょうね」
「ただ……『何時までも』と言う訳ではありません」
「……どういう意味でしょうか?」
訝しむ浩太に、視線をちらりと向け、その視線を床に落とす。
「……どうされたので?」
あまりにも不自然なその態度に、声をかけてみるも反応なし。しばし無言の時間が流れた後、ソニアは口を開いた。
「……カトレアのお伽噺はヤメートにまで伝わっていますか?」
「いえ、存じ上げませんね」
そうですか、と少しだけ微笑んで。
「……ソルバニアに昔から伝わるお伽噺です。カト出身の少女カトレアは、その美貌と聡明さで皆に愛された少女であったと伝わっています。誠実で純情で一途な、決して才溢れる訳ではないけれど、それでも真面目な幼馴染である男性と幸せな結婚をして、幸せな家庭を築いていましたが……ある日、その幸せな生活は終わりを迎えます」
「……」
「カトレアの聡明さと美貌に目をつけた神がカトレアを誑かしました。『カトレア、君に神の座を用意しよう。君の望むモノ、君の叶えたい願い、君が欲する、その全てを君に与えよう。だからカトレア、私の伴侶にならないか?』と」
一息。
「……カトレアは『神』の妻となる事を選びました。幸せな結婚も、幸せな家庭も……その全てを捨てて、彼女は神の妻となりました」
ソルバニアに古くから伝わる『カトレア姫の強欲』伝説である。一農家の出身であるカトレアに、『姫』と敢えてつける所が悪意を露わにしていると言ってもいい。
「カトレアに裏切られた男性は悲観し、涙し……そして、激怒した。神より愛する妻を取り戻す為、長い長い旅に出て……そして、道半ばで力尽きたと言われております」
愛するカトレアを連れ去られ、悲劇の中でその生涯を終えた男。その男を憐れみ、とある女神が彼を星にしたと言われる。真夏に、東の空に小さく輝く星。派手では無いが、存在感を放つその星は『此処に居る』とカトレアに自らの存在をアピールするかのように。
「……なるほど。勉強になりました」
話自体は良くあると言えば良くある話である。聡明な少女が、神に愛され召される話。「ですが、何故それを?」
解せないのは、そこ。
「わたくしは、カトレアが男を裏切り神の下に嫁いだのは……きっと、カトレアが『退屈』だったからだと思っております」
「……退屈?」
「誠実? ええ、確かにそれ自体は素晴らしいでしょう。純情? ええ、確かにそれ自体は可愛らしくも映るでしょう。一途? ええ、確かにそれ自体は女の身として生まれた以上、何よりも男性に望みたい一事であるでしょう。ですが……」
誠実で、純情で、一途。対した才能もない、取り柄と言えば真面目なだけの。
……あまりに、『退屈』な男。
「……聡明な少女であったカトレアに、ただ誠実で、ただ純情で、ただ一途な真面目なだけが取り柄の男など、さぞ退屈な男だったでしょう」
「……『浮気された方にも問題があった』と? 個人的にはあまり好きな理論ではありませんが」
裏切った方と裏切られた方。事情があるにせよ、九割方裏切った方が悪いに決まってる。カトレアの話でいえば、退屈な男だと思うなら結婚しなければイイのだ。
「わたくしもカトレアを擁護する気持ちはありません。ありませんが……思うのです」
わたくしもまた、『カトレア』だと。
「……」
「……自分で言うのもおこがましいですが、わたくしは聡いです。我がソルバニア王国の子女の中でも群を抜いて……年上にも負けない程に」
「そうでしょうね。正直に言いましょう、少しだけほっとしています。貴方がスタンダードだったら、今頃テラは無い」
「わたくしは『異質』です。そして、恐らくカトレアも『異質』だったのでしょう」
だから……『異質』であったカトレアは『普通』の男に耐えきれなかった。異質が惹かれ、共に歩み、並び立つ事が出来るのは同じ『異質』のみ。
「……テラで出回った引渡証書の話をお聞きした時、わたくしは衝撃を受けました。金貨に代わる取引の手段、画期的です」
「そうでしょうか?」
「均一の価値を白金貨が担保するなど考えもしませんでした。引渡証書自体はタダの紙切れです。それが『白金貨』と同じと考え、同じものとして取引に関わる全ての人が見ている。そんなの……」
まるで、『魔法』です、と。
「魔法、ですか?」
「ええ。だってそうでしょう? 誰があの引渡証書を見て白金貨と同一だと思うのでしょうか? ああ、勘違いしないで下さいませ? 『引渡証書自体』が魔法なのではありません。『引渡証書を白金貨と同一の価値と見出させた』、そう信じ込ませた、それ自体が『魔法』なのです」
『紙幣』ではなく、『紙幣システム』自体が魔法である、と。
「『魔法』は文字通り『魔』の『法』です。お父様はテラの発展を見てコータ様を『魔王』と称しましたが、わたくしは違います。偽造対策など、随分お金はかけておられるのでしょうが……引渡証書自体は全く価値の無い、タダの紙切れです。それを白金貨と同等の価値であると皆を……騙した、と言うと言い方は悪いかも知れませんが。皆がそれを『信じた』、いえ、皆にそれを『信じさせた』そんな事、到底出来る物では……少なくとも、わたくしは思いつきもしなかった」
そこに『無い』モノを、『ある』と信じ込ませる。それは正に、神か悪魔の所業。故に、『魔王』
「……わたくしはソルバニアの姫です。ソルバニアの利益を優先する為には望まぬ婚姻もせねばなりません。そして、それは覚悟をしていた事でもあります。ですが……」
叶うのであれば、『幸せな結婚』という、『女の子の夢』もみたい。
「『私』は『カトレア』になりたくありません。私は私。ソニアです。ですが、同時に私はソルバニアの姫であるソニアでもあります。ですから……」
退屈な、家柄しか取り柄が無い男の下に嫁ぎ、『カトレア』になる。勿論、ソニアは『カトレア』の様に自由な立場では無い。無いが故に、ソニアはカトレアよりも不幸だ。どんなに苦痛でも、どんなに辛くても……どんなに『退屈』でも、それに耐え続けなければいけないから。
「……そんな私が見た『ユメ』です。コータ様は」
きっと、『魔王』の下ならば。
彼が、『魔王』が見ている『高み』に昇れたとしたら。
「……それはきっと、とても『幸せ』ですわ」
ソニアは聡明である。
「『ユメ』なのです、貴方様は」
聡明で有るが故の孤独。そんな『退屈』な彼女に、差した一筋の希望の光。
「……私がカトレアの幼馴染でしたらどうします?」
そうではない、と。自分は『退屈な』男である、と。そんなコータの言葉に。
「ですから……努力をして下さいませ」
彼が『退屈』なら、『退屈』で無くなれば良い。
「知識を、寵愛を、私に下さいませ。今後のテラの発展を、それを私の眼に焼き付けて下さいませ。ソルバニアなど忘れてしまう程、情熱的に愛して下さいませ。貴方が他の女性に話しかけるだけでこの身を焼かれる嫉妬を覚える程、私に愛させて下さいませ。貴方が、魔王が……コータ様の描く未来が魅力的であればあるほど、私は貴方を狂おしい程愛し、そして――」
ソルバニアを捨ててでも……魔王に尽くします、と。
そう言った後で、はっと気付いた様に慌てて言葉を継ぎたす。
「こ、コータ様だけではありません。わたくしも勿論、努力いたします! 聡明で在り、綺麗であり、コータ様の隣にならんでも恥ずかしくなく、コータ様が何時までもわたくしを愛して下さいますよう、精一杯努力します! ですから……」
どうか、お側に、と。
にっこりと。
年齢に合わず大人びた表情を見せるソニアに、コータは大きな溜息をつく。
「勝手におしかけ、勝手に妻になると言い、裏切られたくなかったら努力しろ、と? 我儘が過ぎますよ、お姫様?」
「あら? 我儘は女性の特権ですわよ? それを巧く捌いてこそ、殿方の器量が問われるというものです」
「……本当に我儘ですね」
まあ世の中、そんなもんであるが。歌にもあるではないか。
「どの道、お父様が『こう』と決めたのならテコでも動きませんわ。それなら、ここら辺りで折れておくのが得策ですわ。さあ、コータ様?」
私を末永くお側に置いて下さいませ、と。
「いや、流石にそれはちょっと……」
「何故ですか? わたくしでは不満だと?」
「いえ、不満も何も……」
魔王、なんて呼ばれてみた所で、基本浩太は常識人だ。そして、浩太の世界での『一般常識』では、二十六歳の男性が十歳の少女を嫁に貰うなど正気の沙汰を疑う程の常識外の行為である。
「年の差ですか? その、こう言っては何ですが政略結婚では決して珍しいものではございませんよ?」
「政略結婚自体が珍しいんですよ、平民には」
「今更コータ様が平民などと、その様なお戯れを」
「いや、別に戯れている訳では……」
「……それとも」
上目遣いにコータを見やるソニア。その瞳は少しだけ潤んでいる。
「……わたくしでは……ごふまん、ですか?」
「いえ、不満とか不満で無いとかではなくですね?」
「その……胸、ですか?」
そう言って、ソニアは自身の胸部……大草原の小さな胸に手をやる。先ほどまで潤んでいた瞳は、既に決壊寸前である。
「何言ってるんですか、貴方! いえ、胸では無くてですね?」
「お父様は『ええか、ソニア? 女の魅力は胸や! 胸が大きい方がええんやで?』と言っておりましたが――」
「何を教えてるんですか、あの人は!」
最悪である。元々低かったソルバニア王の評価は浩太の中で地に落ちた。
「では……小さくても宜しいので?」
うるうる瞳で上目遣い。期待を込めたその眼差しに、思わず浩太は目を逸らす。
「……」
……つい、押し黙ってしまった浩太を一体誰が責められよう。浩太だって健康な男性である。『大は小を兼ねる』ではないが、無いよりはあった方が良いのだ。まあ、そうは言っても十歳のソニアには些か酷であったようだが。
「やっぱりイヤなんですね! 大きい方がいいんですね!」
ソニアの瞳ダム、決壊。慌てて浩太がフォローに入る。
「そ、そんな事はありません! 私は決して胸の大きな女性が好みな訳ではありませんよ!」
「……ほ、ほんとぉですかぁ?」
「え、ええ! 大体、胸の価値は大きさではなくですね? その、やはりかたち――って、何を言ってるんですか、私は!」
色々、泥沼である。先ほどまで丁丁発止、カルロス一世と渡り合った人間とは思えない程に。
「その……ま、まだ小さいですが、形は自信があります!」
「ソニア様? ですから、貴方まで何を言っているんですか!」
「え? え? で、ですが! やはりコータ様好みの女性になる以上ですね!」
「いや、ですからね!」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「……」
「……」
「……疲れました」
「……わたくしもですわ」
二人揃って、溜息。あの後三十分以上二人でわーわーぎゃーぎゃー言っていたのだ。流石に疲れる。
「……とにかく、ソニア様はどうあってもテラに来ると……そういう事ですね?」
「ええ」
「しかし……テラにはソルバニア王家の姫を迎えれる様な立派な邸宅はありませんよ?」
精々、エリカの邸宅ぐらいだが、ソレにしたっておよそ王族が住む程の大豪邸ではない。むしろ仮にも『王姉』であるエリカがあんな邸宅に住んでる事自体、異常なのだが。
「構いませんよ? コータ様と一緒に暮らせるのであれば」
にっこり微笑むソニアに、先ほどよりも大きな溜息をつく浩太。
「……分かりました。それではソニア様、今後ともよろしくお願いします」
「……宜しいのですか?」
「何がです?」
「その……お供させて頂いても、です」
「……駄目と言っても、付いて来られるのでしょう?」
人間、諦めが肝心である。パワーバランスを考えれば、浩太がどう足掻いた所でソルバニア王の娘を無碍にする訳には行かない。一見、政略結婚は女性蔑視に見られがちだが、男性だって大変なのだ。別に欲しくも無い奥様を貰うのだから。浩太にだって選ぶ権利はある。
「……但し、ソニア様? 貴方は十歳とお若いです。ですので『結婚』というのはまだ早いでしょう」
「そうでしょうか?」
「私の中ではそうなのです。ですので……そうですね、『花嫁修業』程度にお考え下さい」
幸い、カルロス一世は『婚約者』で良いと言ったのだ。言質は最大限に生かせ、である。
「妻、と言う訳には行かないのですか?」
「……勘弁して下さい」
割と、本気で。
「勘弁して下さいと言われると少し不愉快ですが……分かりました。でしたらそう致しましょう」
そう言ってにこりと微笑み、言葉をつぐ。
「但し、『ソニア様』はやめて下さいませ。どうか、ソニア、と呼び捨てでお願いします」
「いえ、流石に王族を呼び捨てにする訳には……」
「王族の前に貴方の『婚約者』です」
「……それは順番が逆でしょう?」
「そんな事はどうでも良いのです」
ぐいっと身を乗り出し、浩太の胸にもたれかかる。口と口がくっつきそうな距離に、思わず浩太は顔を逸らす。
「……さあ、コータ様」
「……」
「……コータ様!」
「……ああ、わかりました! 様は辞めます! 辞めますが『さん』! ソニアさん! これが譲歩の限界です!」
浩太の言葉に、少しだけ頬を膨らませるソニア。が、聡い子である。その後にっこりと微笑み直し、コータの胸から離れる。
「……わかりました。これ以上迫っても嫌われそうですし、それで結構です」
そう言って。
「願わくば、比翼の鳥の様に。願わくば、連理の枝の様に」
先ほどよりも、綺麗な、綺麗な笑みを浮かべて。
「貴方様の下で永遠を過ごせる事、期待しておりますわ……『魔王様』」
「……そうですね」
あと、十歳。
「……善処は、します」
ソニアの年齢があと十歳ほど上だったら、きっとイチコロだったろうと思う程綺麗な笑みに、逸らした頬を少しだけ浩太は朱に染めた。
経済マメ知識⑬
不換紙幣
信用紙幣でも可。要は本位貨幣との交換が義務付けられていない紙幣の事。今の日本銀行券はこれ。金と交換は出来ません。しているのは金の『購入』です。
信用紙幣はその価値を国家が担保にして生まれますが、あんな紙切れで色んなモノが買えるって、良く考えたら結構トンデモ無い事だと思う。まあ、テラは兌換紙幣なんですが。
+注意+
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