秘密保護法案:レーン・宮沢事件遺族 過ち繰り返さないで

毎日新聞 2013年11月18日 08時00分

 特定秘密保護法案の国会審議が進む中、72年前に秘密漏えいの疑いで北海道帝国大(現北海道大)学生、宮沢弘幸さんが逮捕された「レーン・宮沢事件」への注目が高まっている。終戦から約40年後に初めて判明した秘密の内容が、旅行での見聞や公知の内容だったからだ。宮沢さんの妹、秋間美江子さん(86)=米国在住=は、法案について「秘密がどんどん広がるのではないか。政治家は過去の歴史を直視して危うさを感じてほしい」と話している。

 宮沢さんが軍機保護法違反容疑で逮捕されたのは太平洋戦争開戦当日の1941年12月8日。秋間さんは、特高警察が東京都内の自宅の捜索に来たのを覚えている。横文字の本やレコードを片っ端から運び出した。兄がなぜ逮捕されたのか分からなかった。宮沢さんは戦後釈放されたが、肺結核で47年、27歳で亡くなった。

 約40年後に「秘密」の内容を知った。事件について「ある北大生の受難」(87年刊、花伝社から今年4月復刊)にまとめた上田誠吉弁護士らの調査によると、樺太(現ロシア・サハリン)などへの旅行で見聞きしたことや根室に海軍飛行場が存在すること▽中国・上海に日本軍が多数駐屯し憲兵隊本部が存在する−−など一般にも知られている内容ばかりだった。

 事件に詳しい札幌弁護士会の郷路征記(ごうろまさき)弁護士(70)は「宮沢さんは好奇心旺盛で行動力があり、排外主義の空気の中でも外国人教員と交流を続けた。特高の目に留まりやすかったのだろう」と話す。「軍機保護法は何が秘密かを国民に知らせないまま、秘密が無制限に拡大した。特定秘密保護法案が成立すれば、官僚や政治家は必ず法律の適用範囲を拡大しようとする」と危惧する。

 秋間さんは最近、70年前の「沈黙」をよく思い出す。兄の逮捕後、東京から数日かけて北海道の網走刑務所に数回差し入れに行き、帰りの列車が遅れて女学校を無断欠席したことがあった。「『スパイ容疑で逮捕された兄に会いに行った』と言えば、誰かに殺されてもおかしくない」。女学校の中庭に一日中立たされたが、本当のことを言えず、唇をかんで耐えた。「もっと多くの人に歴史を知ってほしい。同じ間違いを繰り返さないように」。そう願っている。【伊藤直孝】

 ◇ことば【レーン・宮沢事件】

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