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この話には少しばかりグロテスクな描写と以下の要素が含まれます(ただ、直接的な表現は避けておりますが)観覧するときは覚悟を決めてください

┌(┌^o^)┐ホモぉ…ホモぉ注意ぃ……
第二章:二度目の奇跡をこの手に(金稼ぎ編)
エピローグ:これにて、ラビアン・ローズ編完結

「……なあ、いったい、何が起こったんだ?」

 昼を少し回った頃。ダンジョンに潜る前に立ち寄った龍成たちは、満面の笑みでカチュの実を収穫しているビルギットに尋ねた。実に珍しい姿に、思わず胸をときめかせている龍成を他所に、くるりと振り返った時には、ビルギットの顔は無表情になっていた。

「一言で言ったら、横取りしようと企むふとどき者がやってきた」
「……ふとどき者……ねえ。もしかしなくても、あいつらか?」

 チラリと、龍成たちは……農作業の合間に出たゴミやら何やらをまとめて置かれている場所へと目を向ける。そこには、もはやまともな顔に戻れるのかと心配になってしまう程に痛めつけられた、複数の男女が転がっていた。
 一言で状態を表すのであれば、ボロ雑巾である。男も女も一切の衣服を身に纏っておらず、全員があられもない恰好になっている。けれども、彼ら、彼女らは恥じらう気力も無いのか、痣だらけの腫れまくった顔から流血しているのがこの距離からでも分かった。

「うん、そうだよ。今朝方押しかけてきたんだけど、マリー君たちがサンドバックにしたんだ。人が縦に一回転する様を見るのは初めてだったから、とても貴重な体験だったよ」

 成人男性を縦に一回転……想像は出来るが想像したくない光景に、龍成は頬を引き攣らせる。あっけらかんとした様子で話すビルギットに、龍成は「……そ、そうか、良かったな」としか言えなかった。
 そもそも、あの小さな体でそんなことが出来るのかとか、そんなのはもはや疑問にすらならない。半分成り行きと暇つぶし感覚で付き合ってきたおかげか、そういった非常識がここでは『マリーだから』で済ませられることを、ここ数十日の日々で龍成たちは学んだのだ。

 とはいえ、人が目の前で枯れ葉のように飛ぶ光景は、男であっても心に来るものがある。しかし、さすがはこういう世界に足を踏み入れた女たちというべきか…荒事を見たのは初めてではないということなのだろう。意外と度胸が据わっていることに、龍成たちは関心の眼差しを向けた。

(……なんというか、こいつらけっこう図太かったんだな。立ちんぼのやつらでも、アレを見たら少しぐらいは怖がったり怯えたりするもんなんだがなあ)

 ビルギットから視線を外して、よくよく周囲を見回してみれば、どの女たちの顔にも、血や暴力に怯えた様子も気落ちした様子も見られない。もはや、そこらに転がっている石ころ程度の感覚でしか捉えていないのかもしれない……そう、龍成は思った。

「ところで、そのマリー君たちはどこへ言ったんだい?」

 龍成の後ろでぼんやりと女たちを眺めていたトミーが、思い出したようにビルギットに尋ねた。

「マリー君とサララは、お金持ちを専門に相手している商人を呼びに行ったよ。イシュタリアちゃんの知り合いらしくて、ちゃんと取引してくれるから……だってさ」

 ふうん、納得に頷いた。確かに、コネも何も無いやつらがいきなりカチュの実を持って行ったところで、信用されずに追い返されるか、足元を見られて不当に買い叩かれるかのどちらかだ。イシュタリアの判断は、妥当だと言える。

「それじゃあ、そのイシュタリアと、ナタリアちゃんは?」
「そっちは知らない」

 返答のロスが一切ない、即答であった。あまりの即答に呆気に取られる三人を他所に、ビルギットは「正確に言うとね」手袋を脱ぐと、カリカリと頭を掻いた。

「今はナタリアちゃんの部屋に二人とも籠っているみたい」
「部屋に? なんでまた……どこか、怪我でもしたのかい?」

 途端に心配そうに表情を曇らせたクリストが、キョロキョロと周囲に視線を向ける。ここに通うようになってから、子供好きなことが発覚したクリストは、懐に余裕が出来たらナタリアにお菓子を持ってきたりしている。本人曰く『心が癒されるから』らしいのだが、今の所女たちの警戒網に引っかかってはいないので、微笑ましく見守られているのが現状だ。

「いやいや、別にそんなんじゃないよ。幸いなことに、こっち側の被害は一切無しさ」

 当然、それを知っているビルギットは、クリストを安心させる為に、わざと大げさに手を振って否定した。

「ただ、イシュタリアちゃんがちょっと開発した魔法術を試したいとかで、そこの男を一人部屋に連れ込んでいてね……ナタリアちゃんは、そのお手伝いってわけ」
「え、魔法術を開発!?」

 クリストは、ギョッと目を見開いた。

「あの子、魔法術士だったのか!?」
「らしいよ。マリー君に付いて行くぐらいだから、腕前はけっこう凄いみたい……まあ、何をしているかは秘密らしくて、私達でも部屋に近づけさせても貰えないけどね」

 そう続けたビルギットの言葉に、龍成は驚きに声が出なかった。特に、クリストに至っては大きく口を開けたまま、半分意識を遠くに飛ばしてすらいた。
 それも、無理は無かった。チームで唯一の魔法術士であるクリストだが、魔法術を習得するには素質と、『魔法術が記された本』を購入する為の金が必要不可欠とされている。
 素質はもう先天的な要素が多いので仕方がないが、厄介なのは、この『魔法術が記された本』……通称『魔本』と呼ばれているのだが、この本……実は、ダンジョンから手に入るアイテムの一種なのである。
 当然のことながら、値段は超高価であり、かつ、一度使うと消滅してしまう。滅多な事では市場に出回って来ない貴重なものである。なので、単純に素質に恵まれているからといって、より多くの魔法術を修めらている……ということは、決してない。

 ただし、習得すること自体は容易とされている。本を開いて魔力を送り込むと、使用者の脳に直接、その本に記された魔法術の扱い方を刻み込まれる仕組みになっているからだ。なぜそんなものがダンジョンにあるかは不明ではあるが、身体に害は無いとされている。
 いちおう、人類は魔本を元に『教本』と呼ばれる複製された魔本を作り出してはいるので、昔よりはずっと魔法術を習得しやすくなってはきているのだが……それでも、魔法術士の数は少ないのが現状だ。
 魔本よりは低価格ではあるものの、教本自体も高いことには変わりないからだ。ピンキリなので値段の範囲を付けにくいが、平均して一般人の年収に相当するとされている。魔法術を習得しているということは、つまり、それだけの金を用意出来たということなのである。

 ちなみに、魔本に書かれた内容は魔術文字式でも理論上は再現できると言われており、実際に魔術文字式を用いて、新たな魔法術を開発する強者も居たりする。
 しかし、そんな人など世界に数えるぐらいしかいないので、やっぱり大多数の魔術師(志望)は、教本を手に入れる為に辛い極貧生活を余儀なくされる……。

「……この域に達するまで、俺は何年も極貧生活を送って来たんだ……朝から晩まで金を溜めて溜めて溜め捲って、ようやくこの年になって中級ぐらいにまで来たっていうのに……なあ、龍成……俺は今、泣いても許されると思うんだ……」

 声を震わせるクリストの肩を、龍成とトミーは無言のままに叩いた。付き合いの長い二人は、当時の話をクリストからよく聞いている。自分たちもあんまり恵まれた道のりでは無かったが、群を抜いて酷いクリストの修行時代を思って涙したことは、一度や二度では無い。

「あんな、あんな小さな子が魔法術を開発するって……お、俺のあの苦労はいったい何だったんだ……」

 なので、クリストの落ち込みといったら、ある意味仕方がないことである。魔法術を開発するということは、つまり、それだけの知識があるということ。そして、あのブラッディ・マリーに追随出来ると言うことは、それだけの魔法術を有しているということ……理不尽なまでの生まれの差が、そこにはあった。

「何も言うな。あの子が悪いわけじゃないし、お前が悪いわけじゃないんだ。昔は昔、今のお前には、あの子には無い絶対的な経験があるじゃねえか!」
「そうだよ。僕たち、なんどクリストの魔法術で助けられたか分からないんだ……クリストは、自身を持って胸を張ればいいんだ!」
「龍成……トミー……ありがとよ……」

 グスッ、と鼻を啜ったクリストは、顔をあげて二人に笑顔を向けた。それを見ていたビルギットは、突然目の前で始まった喜劇に何かを言うでもなく、「まあ、頑張ってください」と励ましの言葉を送った。
 ちなみに、館の中でイシュタリアの正体を知っているのは、マリーたちを除けば、マリアとシャラだけである。もし、クリストがイシュタリアの正体を知ったら……。

「おお、お主らも来ておったのか」

 ふと、掛けられた聞き覚えのある声に、ビルギットと三人は振り返った。そこには、鼻歌を歌いながらご機嫌な様子で手を振るイシュタリアの姿があった。
 見た目は美少女であるので、笑顔で手を振る姿は実に可愛らしい。少しばかり複雑な気持ちもあったクリストも、だらしなく頬を緩ませて手を振り返し……イシュタリアの、振り上げていない左手に引きずられた男の姿を見て、ピクリと動きを止めた。
 同じく、龍成もトミーも頬を引き攣らせる。唯一気にも留めていないビルギットを他所に、イシュタリアはズルズルと男を引きずったまま、四人の傍まで来た。自然と、後からやってきた三人の視線が、引きずられている男に向けられ……。

(……うわぁ)

 龍成たちの心が一つになった。どのような実験を行ったかは知らないが、男の顔には全くと言っていい程血の気は無く、ともすれば息絶えているようにすら見える。
 全身の至る所に殴られた痕があり、その半分近くは内出血を起こして青くなっている。それだけでなく、よくよく見てみれば、下腹部が血と白濁液でべったりと汚れている。

(え、えげつねえ……玉が潰れているのか? に、しては出血はそこまでじゃねえし……ん、尻の方は白いやつでひでえ有様だな……潰された睾丸が内側にでも潜り込んだのか……)

 男の股間なんぞ直視したくも無いので、はっきりと確認するつもりは無い。辛うじて、ひゅう、と掠れた呼吸音が聞こえてくるので、生きていることは分かるが……息絶えるのも、時間の問題だろう。いったい、どんな魔法術という名の拷問を掛けたらこうなるのだろうか……ごくりと、三人は唾を飲み込んだ。

「……むむ、ビルギット。手を休めておる場合では無いのじゃ。事前に話は通してあるから、商人たちは到着と同時に実を持っていくはずじゃぞ」

 そんな男たちの畏怖の視線を受けているイシュタリアは、気づいているのかいないのか……気にした様子も無く、ビルギットを注意していた。

「え、本当?」

 ビルギットも大概な反応である。うむ、とイシュタリアは頷いた。

「……無駄話をしている暇は無いのじゃ。商人たちもそれに合わせて色々と動いているようじゃし、下手に遅らせたら商品を値切られるかも分からんのじゃ」
「――ご、ごめん、急いで行ってきます!」

 慌てて傍に置いてあったカゴを注意深く手に取ると、一目散にカチュの木へと走り出して行った。ビルギットにとって、男の所存よりも実の方が大事なのだろう……まあ、仕方が無い事だ。
 小走りで駆けて行くビルギットの背中見つめていたイシュタリアは、すまなそうに三人へと頭を下げた。

「せっかく来てもらったところで悪いのじゃが、今日は特に手伝ってもらうことはなくてのう……無駄足をさせて申し訳ないのじゃ」
「……え、あ、ああ、いや、必要じゃなかったらいいんだ」

 心を彼方に飛ばしていた龍成たちは、ハッと我に返った。けれども、その視線はイシュタリア……というよりも、その手に引きずられた男へと向けられてい。

「……ああ、コレか。ちょっと魔法術の実験に使ったのじゃ」

 その視線の意味に最初は気づかずに首を傾げていたイシュタリアであったが、すぐに思い立って、グイッと男の足を頭上へと引きずり上げた。改めて露わになった男の形相に、うっ、と男たちは一歩退いた。

「少しばかり魔法術の調整を誤ってのう……上手く治癒が出来ず、締まりが悪くなってしまったらしいのじゃ。もうすぐあいつも駄目になりそうじゃし、新しいやつを引き取りに来たところなのじゃ」

 笑顔でそう言うイシュタリアであるが、言っている内容に、不穏な要素があり過ぎてどこから気になればいいのか分からない。というか、笑顔が怖い。

「そ、そうか、それは邪魔をしちまったか?」
「なに、様子を見に来てくれただけでも有り難いのじゃ。その気持ちだけで十分じゃよ」

 調整って、締まりって……凄まじく聞き捨てならない単語に、背筋に悪寒を走らせている龍成たちをしり目に、イシュタリアは片手で大の男を倒れている男女の辺りへ投げ捨てる。地面を転がった拍子に、ごきり、と嫌な音が響いたような気がしたが、誰も何も言わなかった。

「ふむ……本当はマリーのやつに試してみるつもりだったのじゃが、逃げ出してしまったからのう……よし、お前にするのじゃ」

 そして、倒れている男たちの全身を順々に見回してから、中でも一番年若い肌を持っている男の腕を掴んだ。

「それじゃあ、私はもう行くが、お前たちはどうするのじゃ? マリアたちであれば、もっと奥の方で作業をしておったぞ」
「あ、ああ……と、とりあえず挨拶ぐらいはしていくよ……」
「うむうむ、そうするがいいのじゃ。それじゃあ、また」

 ふりふりと手を振られて、龍成たちは反射的に手を振り返した。背丈だけを見れば龍成よりも頭一つ分以上低いイシュタリアが、龍成よりもデカいのではないかと思う裸体の男をズルズルと苦も無く引きずっていく。

(……まあ、マリーたちのやることだから……)

 シュールを通り越して異様としか思えない光景に、龍成たちは、考えるのを止めた。何が怖いって、この死体同前のやつらを見ても、館の女たちが一人も見向きもしないというところが……なんというか、言葉に表せられない。

「お、そうじゃった」

 けれども、少し行った先でピタリと足を止めたイシュタリアに、ビクリと肩を震わせる。「別にこれは強制ではないのじゃが……」クルリと、イシュタリアは龍成たちへ振り返った。

「実験に使うのは男だけじゃから、欲しいのであれば、そこに転がっている女たちは好きにして構わんのじゃ。どうせ後で町はずれに捨ててくることには変わりないしのう」

 いや、そう言われても、こんな状況でどうしろと。その言葉を、三人は無言のままに飲み込んだ。好きにしろと言われたところで、女たちの身体は例外なく青痣だらけで、見ているだけで萎えてきそうな姿だ。
 それに、さすがにそこまで落ちぶれたわけでもない三人は、引き攣った笑顔で首を横に振った。

「そうか……それは残念なのじゃ。使い道が無くて、どうすればいいか困っているのじゃ……」

 本当に困ったようにため息を吐くイシュタリアの姿に……三人は『絶対にマリーたちに喧嘩を売らない、騒動は持ち込まない』ということを心に決めた。




 ふと、男は全身に走る痛みに意識を取り戻した。けれども、痛みの度合いがあまりに酷く、男は最初、自分の身に何が起こったのか考えることすら出来なかった。

(こ……こ……は……?)

 頭が重い。ズルズルと、何かに擦られている部分が酷く痛む。脱臼しているのではないかと思ってしまう程の肩の痛みに、男は己が何かに引きずられているのだと悟った。
 瞼が重い。目に何かゴミでも入ったのか、目を開けることが出来ず、非常にムズムズする。無理に開けようとすると、途端に刺すような痛みが脳奥に走った……男は諦めて、力の入らない身体をどうにか動かそうとした。
 途端、ピタリと引きずるものの動きが止まった……ような気がした。目は全く開けることが出来ず、分かるのは何かに触れた……おそらく床なのだろうと推測する部分の摩擦が無くなったので、男はそう判断したにすぎなかった。

「おや、起きたようじゃな。若いだけあって、回復が早いのう」
(誰だ……この声……女の子?)

 女性と言うには若すぎる、軽やかな声。けれども、それにしては爺や婆が話すような口調だ。いったい、誰なのだろうか……男は該当する記憶を探ってみたが、思い至らなかった。

「うむうむ、ナタリアのやつも横たわっている肉袋に突っ込むよりは、生きの良いやつの方が楽しいじゃろ」

 けらけらと、少女が笑っている……ような気がした。おそらく笑っているのだろう……上手く頭が回ってくれない。ともすれば、すぐにでも意識が飛んでしまいそうだ。
 ずるりと、再び少女が動き出した。突如引っ張られたせいで、肩の関節が嫌な音を立てたが、少女は気にも留めていない。ううう、と腫れぼった唇から呻き声があがっても、少女は足を止めようとしなかった。
 男は気づいていなかったが、男が感じている痛みは、少女が行った魔法術によって、いくらか軽減されたものである。そのおかげで、男は幸いにも……いや、不幸にも、気絶することが出来なかった。

「安心せい。いくら血を流したところで、早々はくたばらないようにしておくからのう……しっかり励むのじゃぞ」
(……何を、言っているんだ?)

 いまいち、少女の言っていることが理解出来ない。同じ言語を話していることは分かるのだが……ふと、そんなことを考えていると、再び少女の足が止まったのが分かった。

「ナタリア、私じゃ。入るぞ」
(ナタリア……?)

 またも、聞き慣れぬ単語だ。がちゃり、扉が開かれた音……引きずられて、後ろの方で扉が閉まる音が聞こえた……どこかの部屋に、連れ込まれた?
 そう理解すると同時に、ぬちゃぬちゃと妙に耳に障る異音を聞いた。ぬちゃ、ぬちゃ、ぬちゃ、ぬちゃ、ぬちゃ……粘着質な音だ。臭いは、血が鼻を塞いでいて、分からない。
 けれども、なんだろうか……異音の間に隠れるようにして、何かの息遣いがあるのが男には分かった。

 はっはっはっはっはっはっはっ……。

 息遣い……なのだろうか。粘着音と比べると、かなり小さい。ふとした拍子に気づかなければ、おそらく今も気づいていなかっただろう程の、小さな呼吸音だ。

(もしかして、この息遣いの正体が……ナタリア?)

 少ない情報で想像していると、少女の方が答えを教えてくれた。

「ナタリア、そいつの具合はどうじゃな」
 はあはあ、はあはあ、う、うん、けっこう締まってていいわよ。

(――っ、え、お、女の子の声? ナタリアって、女の子なのか!?)

 消え入るように聞こえてきたナタリアらしき人物の声に、男は目を見開いた……気持ちになった。今、自分を引きずっているのは女の子だ。そして、この異音を生み出しているのも女の子……いったい、何が起こっているんだ?

「ううう、ううう……」
「んん、これこれ、そんなに暴れるではないのじゃ。すぐにお前の番が来るからのう」

 本能的に覚えた恐怖に、男は精一杯の力を振り絞って身悶える。けれども、普段ならいざ知らず、痛めつけられた今の男の力では、掴まれているであろう少女の手からは逃れられそうにない。

(ち、ちくしょう……いくら力が入らないからって、び、びくともしねえぞ、どうなってやがるんだ!?)

 男が知ることは無いだろうが、例え男が全快であっても、少女の拘束から逃れることは不可能だっただろう。それ程に、少女と男の力の差は大きく、単純な腕力だけでも、少女の拘束を緩めることすら出来ない程であった。

「ほれ、ナタリア。息の良いやつを連れてきたのじゃが、どうする? 新しいやつに変えるか?」
 ……ま、待って……あとちょっとでイキそうだから。それから、あ、あたら、しいのに……う、くう、ああ、だ、だめ、もうだめえ!

(イキそうって……な、なんだ、音が変わったぞ!)

 ぬちょ、ぬちょ、ぬちょ、規則的に聞こえてきていた異音が次第に、ぱん、ぱん、ぱん、とまるで張り手をしているかのような異音に切り替わり始めた。

(なんだ、何が起こっているんだ……!)

 はあはあはあはあはあはあ……ああ、ああ、く、ほ、ほら、締めなさい! もっと締めなさいよ! ほら、もっと!

 ぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱん……。

 ナタリアと言う人物の声もそれに合わせて次第に大きくなり、いつの間にか、異音は部屋の外に漏れるのではないかという程なまでに大きくなっていた。

「……まあ、先に下ごしらえを済ませておくのじゃ」

 だからだろう。いつの間にかすぐ傍まで少女に近寄られていたことに気づかなかった彼は、(あっ)抵抗する間もなく身体を反転させられた。混乱のままに四つん這いの姿勢を取らされた男は、強かに顔面を床にぶつけてしまった。

「おう、お……お主、もう少し身体を身綺麗にしておかぬか。臭くて堪らんのじゃ」
(は、はあ!? な、なにを言っているんだお前は――っ!?)

 声の位置からして、おそらく尻を少女に向ける形になっているのだろう。いまさら異性に裸を見られたところでどうこうなるわけでもない……が、だからといってそんなところを見られて、露骨な態度を取られれば、いくら彼でも羞恥心を刺激されずにはいられなかった。
 ひやりと、冷たい何かが尻に触れた。それに対して思わず鳥肌を立てる男を他所に、少女はぐい、と尻たぶを広げると。

「ほいっとな」

 ぶすりと、何かを突き刺した。どろりとした何かが体内に入ってくる異様な感覚と、ぶすぶすと内臓を直接火で焼かれたかのような激痛に、男は呻き声をあげた。

 はああ、はああ、ああ、イクわよ、もうイクから、ほら、締めなさい、もっと、もっと、もっと……はああ、イク! 出るぅ!

 けれども、その呻き声はナタリアの上げた甲高い嬌声によって、かき消されてしまった。男の身体を駆け巡っていた痛みが薄れた頃には、ナタリアの荒い喘ぎ声が、訪れた沈黙の中で妖しく響いていた。

「……こんなこと私が言うのもなんじゃが、ナタリア……お主、些か出し過ぎじゃろ。半分以上逆流したように見えるのじゃ」

 こつ、こつ、こつ……少女が離れて行くのを、男はぼんやりとした意識の中で聞いていた。

「うわあ……これは酷いのじゃ。ほれ、見てみるのじゃ……口から滝のように滴り落ちておるではないか……ああ、やっぱり……死んでおる。ナタリアよ、楽しむのは構わんのじゃが、もう少し加減は出来ぬのか?」
 だ、だって……我慢しようと思ったけど、最後がものすごく締まって、出る寸前で緩んじゃったから、変な締まり方のせいで堪えられなくって……。
「息絶える寸前に筋肉が硬直したから、締まるのも当然じゃろうて」

(……え、息、堪える……って)

 耳から入ってきたその言葉に、男の意識は瞬時に我を取り戻した。だが、それは誤った判断であった。

「……というか、よく折れなかったのう。普通だったら血管が破裂してもおかしくないのじゃが……ナタリア、痛いところはないか?」
 全然。それよりも、中途半端に止められたから、ムズムズしてきちゃった……ねえ、そっちのやつ、もう使っても大丈夫?
「……今更の話じゃが、マリーはよくもまあ、その凶器を受け入れられたものじゃな。ある意味尊敬するのじゃ……っと、そっちの具合じゃな。まあ、もう処理はすんだから使えぬことは無いが……潤滑油をまだ差し込んで無いのじゃ」
 いいわよ。そういう滑りの無いのを抉るのも、また乙な味だもの。

(そっちのやつ……お、俺の事なのか!?)

 ぶわっ、と汗が噴き出るのが、男には分かった。そして、どうやってかは知らないが、誰かを死に追いやった何かを……自分に試すのだということも、男は理解させられた。

 逃げなければ!

 その一心で、男はそれまで肉体を蝕んでいた痛みを振り払って立ち上がった……が、すぐに力尽きてその場に尻餅を付いた。

(――っ、あ、足が……)

 生存本能で痛みを消すことは出来ても、物理的に負傷した肉体を治すことは出来ない。それに、焦った男は忘れていたが、男の両目は腫れて塞がっているのである……動けたとしても、どの道逃げ切ることは出来なかったのだ。
 グイッと、両足を後ろから引っ張られる感覚……あっ、と思う間もなく、男は強かに背中を打ち付けた。股を広げた状態で、尻を高々とあげさせられている……自らの姿勢を悟った男であったが、そのときにはもう、遅かった。

「ほほう、殊勝な心がけじゃな。よし、ナタリアよ。もう綺麗になっておるから、景気づけに強烈なやつをかましてやるのじゃ」

 その言葉と共に、男は熱くて固い何かが肛門に触れたのを知覚した。

(――ま、まさか……おい、まさかそれって――!?)

 そして、その時になって初めて、自分がこれから何をされるのかを理解した直後……ブチブチと皮膚が千切れて行く音を聞きながら、男は絶叫をあげた。

「ほれ、いっぱい出すのじゃ。スッキリして、まずはまともに会話して貰えるまで頑張るのじゃぞ」
 はあはあ、うん、頑張って一か月分……う、くう、し、締まるわね……出すわよ! う、受け取りなさい!

 その言葉と共に放たれた熱液が、裂傷した内臓を焼いていく。もはや言葉でも文字でも言い表せられない、激流が如き痛みに……男は、考えるのを止めた。




 数日後。予定していた以上の収益となったラビアン・ローズは、手に入った金を使って税金を支払い、本当の意味で肩の荷を下ろすことが出来た。
これにて、探求大都市のマリー第二章(金稼ぎ編)は完結致しました

いやあ、四か月もかかってしまいましたねえ……まあ、長かった

そもそもの元凶であった彼女たちが辿った未来は、まさしく因果応報
境遇は同情こそあれど、越えてはならない一線があるわけで……美味い話に乗ってしまった男たちは不運にも巻き込まれてしまったわけです

いやあ、悲しい結末だなあ(棒)

でも、そのおかげでナタリアちゃんは心行くまでスッキリできたんだし、実にいい話だな(白目)




次回、探求大都市のマリー『第三章』、気長にお待ちください


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