鳥取県と岡山県を結ぶ、ＪＲ因美線の美作滝尾駅。
昭和３年に開業し、今も当時のままの姿を残す木造駅舎です。

これは出札口。切符売り場です。
歳月が作り出した風合いは、独特の侘（わ）びを醸します。

改札口。
駅舎の中には、かつて駅員がいたことを感じさせるものがあふれています。

こうした昔ながらの駅舎を愛する牛山隆信さん。

牛山「ここは無人駅ではあるんですけど、あたかもそこに人がいるような雰囲気。会えないんだけど会ったような、幸せな気分になれる場所なんじゃないかと思います。」

今日は、昔懐かしい「駅の美」を日本全国に訪ねます。

まずは、明治の名駅舎に会いに行きましょう。
ＪＲ肥薩線、鹿児島県にある嘉例川駅です。明治３６年に開業、１１０年の風雪に耐えてきました。

出入口からホームまで回廊のように続く庇（ひさし）や、太くがっしりとした柱や梁（はり）。
明治の職人の確かな仕事を思わせる風格ある造りです。

手荷物窓口の台を支える持ち送り板。
目につきづらい部分にほどこされた装飾にも、職人の遊び心を感じます。
こうした凝った装飾が、ベンチの支えや窓の庇にも施されています。わが家のように駅舎を飾ったのでしょうか。

１つ目のツボは、
「駅舎に家のぬくもり」

駅舎が重ねてきた年月によって生み出された美しさもあります。
木製の改札口の側面には、乗客の荷物がすれてできた無数の傷跡が残ります。
そして上部は長年大勢の人の手が触れてきたことで、ツルツルに磨き上げられています。
名も無き人々が造り出した輝きです。

鉄道一家に育った鉄道写真家の米屋こうじさん。
とりわけ気になる場所が、宿直室です。

米屋「駅員さんがここに宿直して寝泊まりしていた。駅は生活空間の場でもあったということです。昔僕が遊びに行くと駅員さんが『よう来たな』と声を掛けてくれて、あったかい空間といいますか、家庭的な空間があると思います。」

明治の木造駅舎にわが家のようなぬくもりが宿っています。

ＪＲ五能線、青森県にある驫木駅は、映画「男はつらいよ　奮闘篇」の舞台になりました。
日本海の前で、冷たい風の中ひっそりと佇（たたず）む無人駅です。

映画で、放浪を続ける寅次郎から妹さくらの元に遺書を思わせる手紙が届き、心配したさくらが兄を捜して降り立ったのが、この駅でした。
鉄道好きタレントの小倉沙耶さんは、この映画を見て驫木駅に行きたいと思いました。

小倉「不安な気持ちを持っているさくらを駅舎が守ってくれているという印象があった。そのとおりの駅ですね。」

小倉さんには、どうしてもこの駅でやってみたいことがありました。
映画の場面を自分で再現してみることです。
さくらが駅舎に入り、列車が駅舎から離れ、駅舎から出たさくらが寒さに震えてスカーフを巻く。

駅は、訪れた人を物語へと誘（いざな）ってくれます。

２つ目のツボは、
「駅は人生を物語る」

ＪＲ日豊本線、大分県にある上臼杵駅。
この駅舎は、大林宣彦監督の映画「なごり雪」の舞台になりました。
大分の小さな町を舞台にした青春ストーリー。
上臼杵駅はふるさとを象徴する場所として映画の中に何度も登場します。

また、主人公とヒロインの別れの場面は、同じく日豊本線の重岡駅のホームが使われました。
線路の先には山が立ちふさがり、列車の行く先が見えないことが、この駅が選ばれた決め手となりました。

大林「輝かしい都会なんていうのは見えないわけです。でも見えないものを信じてみんなが乗っていった。その駅というのが、まさに象徴的なあの駅だったんです。」

出会いと別れ、旅立ちと再会。いつも駅は見守ってきました。

大林「駅では必ず人生の節目が行われているわけでしょ。駅は侵し難い尊厳を持っていますよね。人の大切な一生がそこに封じ込められているから、記憶として。」

鉄道マニアの中で駅にこだわる人を「駅テツ」といいます。
日本全国およそ１万もの駅すべてに降り立つという、とんでもないことを成し遂げてしまった横見浩彦さん。

横見「僕がＪＲの全駅下車を達成したときに、列車にヘッドマークをつけて走ってくれた。」

そんな横見さんと共に、ひと味変わった駅巡りへ出発！
群馬県と栃木県を結ぶ「わたらせ渓谷鐵道」の駅を堪能します。
旅のパートナーは、鉄道アイドルとして活動中の山本紗由美さん。

３つ目のツボ、
「駅巡りもまた 極上の旅」

まず最初に降り立ったのは、瓦屋根に漆喰（しっくい）の壁、日本家屋風の駅舎がある花輪駅です。

ここで、横見さんが見せたいのは、ウサギとカメの石像。
童謡「ウサギとカメ」の作者がこの土地出身なんだそうです。

次は本宿駅。
崖にホームだけあります。そして階段を上がると･･･。

なんと道路に出てしまいます。
駅舎がないんですね･･･。

横見さん、最もテンションが上がったのが上神梅駅。
昔ながらの木造駅舎です。

駅舎の正面を見るときは、全体が見渡せる距離まで離れてから振り返るのがポイント！

旅の締めくくりは、終着駅の間藤。
この先にはかつて足尾銅山の製錬所があり、貨物専用列車の足尾本山駅がありました。

横見「もうちょっと先に行きたいな。ここが終着か、ちょっと惜しい、みたいな･･･。」

皆さんも駅を味わう旅に出かけてみてはいかがですか？