福島市長選新人圧勝:放射線対応 住民「裏切られた」
毎日新聞 2013年11月17日 23時15分(最終更新 11月18日 00時39分)
東京電力福島第1原発事故の放射線被害に苦しむ福島市民の選択は「変革」だった。17日投開票された市長選で、地盤も組織も持たない新人の元環境省東北環境事務所長、小林香氏(54)が、自民、公明などが支援する現職の瀬戸孝則氏(66)をダブルスコアで破った。市民一人一人の現状への不満が大きなうねりとなり、地滑り的な勝利をもたらした。
福島市東部の山あいに位置し、市内でも放射線量が高い大波地区。瀬戸氏にとって出身地の近くにある地盤だが、沿道には小林氏のキャッチフレーズ「変えよう!福島」と書かれたのぼり旗が目立つ。「表立っては言えないが、今回は瀬戸さんには入れない」。住民の一人は声をひそめて話した。同地区では事故後、子育て世帯の自主避難が相次ぎ、児童が二十数人いた市立大波小は6年生1人だけに。来春には休校の見込みだ。しかし、市から地区振興策が具体的に示されたことはない。このままでは地区が消滅しかねず、避難自治体の「仮の町」誘致を模索する動きもある。
瀬戸氏を支持してきた農業の男性(64)の自宅は、除染で毎時1.2〜1.5マイクロシーベルト程度あった放射線量が同0.2〜0.3マイクロシーベルトに下がった。しかし、裏山で採れるキノコからは基準値(1キロ当たり100ベクレル)の20倍以上の放射性セシウムが検出され、放射性物質への不安から沢水も使用できなくなった。「被害は無い」「安全」と強調する市の姿勢に「実態を調査しようとしていない」との不信感が生まれた。変化を求めて小林氏に投票した。
大波地区に隣接する渡利地区で中学2年と小学5年の子ども2人を育てる会社員、菅野吉広さん(45)も現市政に失望していた。放射線量が局所的に高いとして「特定避難勧奨地点」に指定されれば、避難費用や月10万円の精神的賠償を受けることができる。しかし、市は「避難よりも除染を優先する」として国に指定を求めなかった。菅野さんは「住民の側に立って政府に何を要望してもらえるかに期待していたが、裏切られた」と話した。【深津誠、蓬田正志、喜浦遊】