第12回 |
<やおい女の困った習性 〜 ゲイ知人自慢> アメリカ人でも日本人でも同じだなと呆れることがある。それは、 「自分の身近な本物の方々(ゲイの)を自慢すること」 である。 先日も、「自分には昔、ゲイの親友(しかもハンサム)がいた」というアメリカ女性からメールをもらった(スラッシュ君が若い頃はあんまり身近にゲイの学生はいなかったな。羨ましい)。 すると、 「え〜、ぜんぜん羨ましくなんかないよ。だって、私は彼のこと(まずどんな人かの具体的な外見描写から始まる。あちらの方なので髪の色はどうとか、目の色は何だとか、東洋系と西洋系のハーフだとか……ああ、想像するだに羨ましいぞ!)好きだけど、彼は私ほど私のことを好きじゃないんだよ。で、学生の頃は同好の士がなかなか見つからなかったから私とつきあってくれたけど、社会人になると相手がいっぱいみつかって、今は彼と3年越しのラブラブ状態なんだよ〜」 と嘆く(でも本気で嘆いているようには全く見えない)。 若い日本女性は本物の方に声をかける行為などとても憚られるのだろうが、スラッシュ君のように薹の立った腐女子は身近に3人は本物の知り合いがいるものだし、ネット上で本物の方を見つけるとついメールを出してしまう。で、返事が来たりすると、下手なアイドルからもらうよりも嬉しかったりする(やおい系の友人100人くらいに自慢しちゃう)。 アメリカにもこの手のいわゆる「おこげ」はいるが、日本と違うのは、 「若い女性でも気軽にゲイの方に声をかけられる」 「学校内でのいじめが少ないので学生でもカミングアウトがしやすい」 から本物の方がより身近に存在しているという点である。従ってアメリカ人女性からのほうがこの手の「自慢メール」をもらう機会が多くなる。 やおい漫画をよく読む若いアメリカ人女性の一人は、アメリカの日本書専門店で、日本の漫画本のしかも、やおい漫画本のコーナーの前で買おうか買うまいか迷っているゲイカップル2組を目撃し、思わず声をかけたという。そしておせっかいにも、いかに日本のやおい漫画が素晴らしいかを一通り講釈し、一緒に食事をし(う、羨ましい)、その後、そのうち一組を自宅に招き、自慢のコレクションであるやおいアニメビデオを見せてあげ、とても感謝されたそうだ(いいなあ〜)。 どうして女はゲイの方々に親切にしたい、世話を焼きたいのだろう。 <女性がゲイに親切なのはうしろめたいから> アメリカ人の一人は、 「彼らの世界に興味があるからじゃない? 女性にとっては永遠に謎だから」という。 まあ、そうなんだろうなあ。なんだかんだ(社会的に差別されている同志とかなんとか……)言いながらも、親切にする理由は、結局のところ、 「下心」 なわけだ。程度の差はあるものの「オカズ」として利用しているわけよ(すまん)。 女性にとっては本物の人の一挙手一投足が興味深い。もう、何をされてもカワイイという「孫に対するジジババ状態」だ。 男の二人連れを女ばっかりのクレープ屋などで見かけると、とりあえずやおい女は、 「あの二人はホモだったりして」 と想像し、次第に 「いや、そうに違いない」 と想像を発展させ(野放しにし)、 「きっと居酒屋ではノンケの男に迫害されるからこういうところに来ているんだわ。暖かく見守ってあげなきゃ……(以下どんどんファンタジーが入る)」 と結論づける。その間とても幸せな気分に浸るのだが、それが高じると、「黒部ダム」(男ばかりが何百人も山にこもって作業……)「CVCCエンジン」(マスキー法をクリアできるエンジンを作ってアメリカに殴りこみをかけようというプロジェクトを当時の開発チームが硫黄島作戦に例えた=>セイシをかけた戦い……多分『決断』を見ていたにちがいない)と聞いただけでもヌケるようになったりする(あまりエバれたものではありません)。 そう宿主なんですよ。私たちにとって、あなた方は〜(あなたがたにとっては天敵かもしれないでしょうけど)。 褐虫藻に対するサンゴ、イソギンチャクに対するクマノミ、メバルやメジナに対するホンソメワケベラみたいなもの(注:一応、後者がおこげのつもり。褐虫藻は光合成を行い酸素や栄養を提供し、サンゴは燐や窒素、二酸化炭素を与える。ホンソメワケベラは掃除魚と呼ばれ、メバルやメジナの周りにはべり、他の大型魚から守ってもらう代わりに表面の寄生虫を食べる。イソギンチャクの毒に耐性を持つクマノミはフエフキダイなどから身を隠す住みかとして利用する代わりにイソギンチャクの敵、チョウチョウウオとかをやっつけるらしい。でもどうしてフエフキダイ苦手なくせにチョウチョウウオならやっつけられるのかな?)。 そんな宿主にせめて恩返しがしたい! というのが女心なのだ。 だから、本物の方々はこの際、遠慮は捨ててどんどんやおい女の好意に甘えてほしい(いや、せめてこのくらいしないと申し訳なくて……)。 と言ったら別のアメリカ人はこんな指摘をした。 「女の人は想像するしかないから、『本物の人は●●なのよ』って言うと(同類から)尊敬してもらえるからじゃない?」 と。 確かに「やおい」は女性を喜ばせるためにあるのであって、それには実際のゲイの方がどうしているのかなどといったリアリズムは必ずしも必要はない。だけど、あまりに現実からかけ離れたことばかりやっているのも恥ずかしいもので、つい、「現実は●●なのよ」っていう声を聞くと、作品もそれに引きずられたりする。 やおい漫画においても二丁目のショップでビデオを買ったと喜んでいる作者のあとがき(先日も山川純一という男性作家の書いた80年代のゲイ向け漫画をアメリカに送ったところ、「きゃ〜あ(悲鳴)!」とばかりにエラく喜ばれた)をしばしば目にするようになった昨今、やおい漫画の性表現も徐々にではあるが、本物さんたちの影響を受けて徐々に変化しつつある。 だが、あまり「リアリティー」という点にこだわると困ったことも起こる。夢想派(映画『プリックアップ』が苦手だったりする)が、しばしば現実派と口論になるのだ。 夢想派のやおい女がファンタジーにつっぱしると、「現実ではありえない」「け、素人」「あなたのは所詮絵空事」「いかにも女が考えそうなロマンチックな世界観」などと現実派が冷や水を浴びせる。 逆に現実派の方が「相手を特定しない奔放なゲイ性生活」のリアルな描写について語ると、「不道徳すぎる。一夫一婦制を守っている保守的なゲイの方への差別につながる」「私はその場限りの不誠実は関係は嫌い」などと夢想派が非難するのである。 この議論、両者が合意点に達することはありえないが、どちらも「私こそゲイの真の理解者」=「私こそがゲイの方の味方」と主張している点では全く同じ。ゲイへの深〜い愛は勝るとも劣らない(相手にとってはありがたメイワクなのかもしんないってとこが多少虚しいんだけどね)。 アメリカでも、現実のゲイの人には、「世の中のスタンダードに対抗したい」、「自由に生きたい」、「保守派なんてクソくらえ、あいつらに理解なんて死んでもされたくない」っていう前衛の方々もいるし、「普通にパートナーと誠実に愛し合いたい」、「差別はされたくない」っていう人もいるし、いろいろだ。 やおい女の一方的な理想を、生きているゲイの方々に押し付けることには無理があるし、現実社会では自分と違う人、いろんな人がいることに寛容になることは現代人として心得ておきたいマナーかなって気はする(浜辺でナマコを踏んだとき、「一体全体、何だねこれは?」と素直に驚き、自分と異質のものを面白がるようなスタンスが平和でよろしいようで……)。 <若い女が本能的にホモを選ぶ生物学的謎> さて、最初に出てきた「ホモを好きになってしまった自分」に酔っているだけのアメリカ人であるが、スラッシュ君はふと、安野モヨコの漫画「ハッピーマニア」を思い出したよ。 主人公の重田加代子(通称シゲカヨ)はいつも自分には手の届かないような理想的?な男を好きになるんだが、男が自分のことを好きだと知るやいなや、途端に興味がなくなるというすんごくメイワクな女なのである。で、ホモ好きな女もこれと同じではないかと。 そんでもって、女性が「自分のことを好きになってくれる身の丈の合った男が嫌い」なのは、自分と釣り合う男だと「カップルになる」のを拒否する理由がなくなり、いきおい「結婚」を余儀なくされ、そうなるとまだ自我が確立していない若い女性は、十分な自我を完成するチャンスを失ってしまう場合が多いからではないかと。それが嫌な若い発展途上の女性は自己防衛本能から「自分とはカップルになりっこないホモ」の側が居心地がいいのである。 こういう女性に限って、非常に前向きで向学心旺盛で自分のことをちゃんと大事にできる。それは彼女が親や同性の友人からの健全な愛に十分恵まれて育った証拠であって、もし、恵まれていないような不幸な女性だったら、たちまち自分を愛してくれる男性に身も心もすべて捧げ、依存してしまうことだろう。 アメリカ人にそう言ってやったら、 「そうなのよ。私はまだまだ結婚したくないの。だけどウチの親ったら『お前はいつするんだ』ってうるさくて」 だって。おいおいアメリカ人よお前もか〜い。 若い女は自我を完成させるまでの話相手として、中年女は「おかず」としてゲイを利用すると……。ああ、どう転んでもゲイの方々はやおい女に利用されるのね。 あ、一応親切にはするから「共生関係」かな?(いや、そう思いたい……せめて) まあ、寄生虫だって役に立っているっていう説も最近は支持されていることだし(体内でサナダムシを飼っているという『笑うカイチュウ』の著者、東京医科歯科大学教授の藤田紘一郎氏は、それによって血液中のIgE 値が高くなり、花粉症などのアレルギーにかかるのを防止できるし、体中の免疫状態がTh2状態なるため、マラリアにもかかりにくくなるという)、おこげだっていつの日かゲイの方々に役立っているという学説も発見されるかもしれないよねえ(ないない)。 (参考楽曲:本川達雄先生作詞・作曲「二人は仲間」「棘皮動物音頭」) (次号へ続く) [文:スラッシュ君 000822] |
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