特集ワイド:安倍政権のNHKでいいの? 経営委員会、「お友だち」人事に批判
毎日新聞 2013年11月14日 東京夕刊
放送法は、経営委員が個別の番組編集に介入することを禁じている。しかし07年6月まで2期6年間経営委員を務めた小林緑・国立音楽大名誉教授は「経営委員会は最高意思決定機関で、年間予算や事業計画など重要事項を議決する役割があるが、委員がNHKの番組の大きな方向性や、あり方に言及することはできるはずだ」と指摘する。つまり、安倍首相の意向をくんだ経営委員が報道や番組製作側に影響を与える可能性がある。
さらに今回の経営委員人事は、来年1月に任期が切れる現在の松本正之会長を交代させたい首相側の布石だ、という見方が強い。会長は経営委員が選出し、12人中9人の賛成が必要。松本会長が続投を希望しても4人が反対すれば否決される。言うまでもなく、経営方針や番組内容は、組織トップの会長の姿勢によるところが大きい。首相の「お友達」や考えの近い会長が誕生すれば、原発や歴史認識問題など、政権が知られたくない情報や番組が発信されにくくなるのだろうか。
永田さんによると、番組の製作現場からはすでに不安の声が出始めているという。「今回の経営委員人事の次に来るのは、会長の人事。もし政権の意向をそんたくするような人物が会長になれば、良心的な番組や地道な調査報道が冷遇され、さらには排除されるかもしれない。そういう恐怖感が広がっています」
上智大の田島泰彦教授(メディア法)は、会長人事に直結する経営委員人事の根底には、特定秘密保護法案と共通する考えが横たわっていると指摘する。
「1980年代の国家秘密法の提案以降、自民党政権には外交と防衛情報に加え、治安に関する情報を制限しようという流れがあり、安倍政権もその延長にあります。自ら提出した特定秘密保護法案の内容からわかるように、安倍政権は『国の情報は国民のもので、国民には知る権利がある』という認識が薄い。むしろ、国民を重要な情報から遠ざけようとする。経営委員や会長に身内を送り込む人事には、この考えが表れています」
元経営委員の小林さんは「今後は新委員の発言内容を注視しなければならない」と警告する。「安倍首相のNHK」だけは避けねばならない。
==============
◇「特集ワイド」へご意見、ご感想を
t.yukan@mainichi.co.jp
ファクス03・3212・0279