特集ワイド:安倍政権のNHKでいいの? 経営委員会、「お友だち」人事に批判
毎日新聞 2013年11月14日 東京夕刊
今回の人事案については「特定の立場、首相との関係に異常に偏った人選になっている」(共産党)などと野党4党が反対した。元NHK記者で元財務相の安住淳衆院議員(民主)は、8月に小松一郎・駐仏大使を内閣法制局長官へ起用したのと同様の「お友達人事」で、問題が大きいと指摘する。「例えば、内閣法制局は年間100本もの法案を審査し、集団的自衛権の解釈だけが仕事ではない。門外漢の外務官僚を起用して何の役に立っているのか」としたうえで「経営委員は本来、国民目線でNHKをチェックする。恣意(しい)的な人選では当然それは果たせない」とする。
元総務相の片山善博慶応大教授は「一般論として、首相が自らの考えを理解する人物を要職に就けるのはあっていい。米国では政権交代のたびに行われ、政治任用や猟官制といわれる」と説明。同時に「政治任用は縁故採用の面もある。縁故で実力が伴わなければ組織内で不満が強まり、結局組織の力が落ちてしまう」と警鐘を鳴らす。
「NHKの重要な価値は公正、中立を保つこと。だから権力者はNHKに対し謙抑的であらねばならない。『李下(りか)に冠を正さず』というが、あえて近親者を外す見識があってもいい。身内中心では慎みに欠ける。それは政治家の品格の問題につながる」と語った。
安倍首相とNHKの間には因縁がある。いわゆる番組改変問題だ。2001年1月、従軍慰安婦についての番組放送前に、NHK幹部が安倍首相(当時は官房副長官)と面会したとされ、取材に協力した市民団体が「政治家の介入で番組が改変された」とNHKなどを相手取り提訴した。
武蔵大の永田浩三教授(テレビジャーナリズム論)は「放送法は経営委員について『公共の福祉に関し公正な判断』ができる人物と定めているのに、今回はあまりに露骨な人事。安倍首相の『NHKの勝手は許さない』という姿勢を感じる」と語る。永田さんは慰安婦を取り上げた番組の統括プロデューサーだった。以後、製作現場を追われ09年に退職した。「NHK幹部が安倍氏らに『公正中立な立場で報道すべきだ』と指摘され、その直後に番組の内容が変更されたのは東京高裁判決で認められた事実。政府の高官が『公正にやってくれ』と求めること自体、NHKには圧力となった」と話す。