次の電王戦では重要なルール変更がある。対戦相手が決まった後、その将棋ソフトを対戦相手のプロ棋士に貸し出さなければならないというルールが新たに設けられたのだ。
■人間に対策機会を与える新ルール
棋士対棋士の場合、事前に対戦相手を研究したうえで対局に臨むのが普通だ。そこで将棋ソフトとの争いでも、棋士側に研究の機会を提供することで、できるだけ互角の条件にしようと考えてのことなのだろう。
このルール変更について磯崎氏は、将棋ソフトの貸し出しによりプロ棋士側はかなりの対策を講じることが可能になるとみていた。棋士側が、プログラム上のミスで将棋ソフトが負けるパターンを発見する可能性が高いからだという。その場合はプロ棋士が簡単に勝ってしまう。磯崎氏は「果たしてそれでいいのだろうか」と疑問を呈していた。
磯崎氏に「コンピューターは人知を越えたのでしょうか?」と質問すると、「穴はたくさんある」との答えが返ってきた。まだまだAIが人間の頭脳を越えたとはいえないと考えているようだった。
電王戦のような機会を通して、プロ棋士は自らの技量に磨きをかける一方、将棋ソフトの開発者もプログラムの改良を繰り返す。今後しばらくはそうした応酬が続くとみられる。磯崎氏のように新しい方法論を試す開発者も出てくるだろう。
チェスがそうだったように、将棋の世界でもいずれコンピューターが人間を完全に圧倒する日が来るのかもしれない。それでも、将棋というゲームは非常に奥が深く、人間の頭脳にもまだまだ未知の可能性があるはずだ。磯崎氏は今大会の対局について、「特に終盤はコンピューターを通じ、人間が多くの新手を見つけて対抗できる余地がある」と断言していた。我々はいつまで「人間対コンピューター」の競い合いを楽しめるのだろうか。
新清士(しん・きよし)
1970年生まれ。慶応義塾大学商学部および環境情報学部卒。ゲーム会社で営業、企画職を経験後、ゲーム産業を中心としたジャーナリストに。立命館大学映像学部非常勤講師も務める。グリーが設置した外部有識者が議論する「利用環境の向上に関するアドバイザリーボード」にもメンバーとして参加している。著書に電子書籍「ゲーム産業の興亡」 (アゴラ出版局)がある 。
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コンピューター、将棋ソフト
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