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将棋ソフトがプロ棋士を制圧する日 対局ごと進化が加速
ジャーナリスト 新 清士

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2013/11/8 7:00
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 将棋ソフトの強さは、次の手がどれだけ最善手なのかを読み切れるかで決まる。現在の戦況を、過去の対戦記録である膨大な量の棋譜データベースに照らし合わせ、今後の指し手として最適と思われる手をうまく発見できるかがポイントなのだ。

■なぜAIが強くなるのかはナゾ

 最善手を見つける場合、1手先から2手先、3手先と増えれば増えるほど選択肢はどんどん膨らんでいく。場合によっては何億通りもの膨大な指し手を組み合わせ、善しあしを判断する必要がある。磯崎氏によると、1手先を将棋ソフトが思考し、うまく成功するごとにソフトの頭脳であるAI(人工知能)はR200ほど強くなるという。

将棋電王トーナメントの会場の様子
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将棋電王トーナメントの会場の様子

 将棋ソフトが人間に匹敵する実力を持つようになった大きな要因は、コンピューターの性能向上により膨大な量のデータ処理が短時間で可能になったことだ。非常に複雑な思考や判断を、ハードウエアとソフトウエアの“力業”でこなせるようになり、読める手数が飛躍的に増えたのだ。

 ところが磯崎氏によると、将棋ソフトのAIが対局で1手先を読み、最善手を検索することでなぜ強くなっていくのか、その原理的な説明は今のところ誰もできないという。データ処理というデジタルな理由だけでは説明できない不思議な状況にある。将棋ソフトは根幹の考え方を理解するには難易度が高く、また深い世界でもあるといえるだろう。

 実は、磯崎氏は将棋ソフト開発に関して3年間のブランクがあった。しかも今回、やねうら王を改善・強化する時間はわずか半月余りしか確保できなかった。そこで大会で勝つためには、ソフトをうまく活用する作戦を練る必要があった。正面からまともに勝負を挑めば、すでに高い実力を持つ他の将棋ソフトには勝てないと考えたからだ。

■序盤の雑な戦い方が弱点

 今の将棋ソフトは序盤に弱点があるといわれている。プロ棋士からみても将棋ソフト開発者からみても、序盤は必ずしも良い手ばかりではなく、雑な戦い方をするソフトが多いというのだ。ところが中盤から終盤になるに従い、先の手を読むために必要な計算量が減り、将棋ソフトの分析精度がどんどん高まっていく。終盤にある程度形勢が決まると将棋ソフト同士の争いでも、もはや逆転は難しくなってしまうのだ。

 そこで、磯崎氏はこうした将棋ソフトの弱点を突き、序盤で優位に立って一気に押し切るという作戦をいくつか用意した。その一つが「やね裏定跡」という方法論だ。これは、可能性のある指し手すべてに総当たりして次の手を考えるという現在主流の方法ではなく、将棋ソフトの対戦結果の「時間」に着目する考え方だ。

 やね裏定跡は過去の棋譜データベースの記録のうち、ある将棋ソフトが次の手を指すまでに要した思考時間に着目する。思考時間が長いということは、局面を有利にしようと最善手を探し、より多くの思考を重ねたからと考えることができる。

 つまり、時間をかけて将棋ソフトが差した手こそ優れた手であると考え、同じ局面が盤上に登場するとそれを定跡として捉える。そして序盤の定跡を独自に生みだしていく。こうして序盤を優位に進め、定跡をなぞるように展開することで一気に勝ちパターンに持ち込もうという作戦なのだ。

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