茨城県東海村の原子力関連施設が立ち並ぶ一角に、ポツンと芝生の原っぱが広がる。
<マル調>
「一面に芝生が植えられた、このだだっ広い空間。実は今から50年前、日本で最初の原子力発電所が建てられた場所です。ちなみに鉄パイプの置かれているこの空間は、原子炉があった場所だということです」
日本原子力研究開発機構の動力試験炉「JPDR」の跡地だ。
「JPDR」は、1963年に日本最初の原子力発電所として稼動を始めた。
1976年に運転を終えると、原子力機構は研究を兼ねた「廃炉」、「解体」に取り掛かった。
原子炉の心臓部である圧力容器は最も放射能レベルが高く危険なため、
ロボットアームを用いて大電流で溶かす。
また原子炉を取り巻く頑丈なコンクリート壁は、ダイヤモンドの刃や高圧の水で切断された。
さらに、比較的放射能レベルが低い外側の部分は、爆破処理が行われた。
そして1995年、「JPDR」は国内で最初の「廃炉措置」を終えた。
しかしこの後、日本で「廃炉」を終えた原発はない。
その理由は何なのか。
まず「廃炉」にかかる費用が莫大だ。
小型の「JPDR」でさえ、230億円かかった。
大型の原発では、1基あたり900億円かかると見られている。
少しでも長く原発を運転した方がコストを回収できるため、「廃炉」について積極的に語られることはなかった。
そして「JPDR」のすぐ近くにあるもう1つの原子炉が、「廃炉」で抱える最も大きな問題を象徴している。
<マル調>
「分厚いアルミニウムに覆われた巨大な物体。中には『廃炉』の途中段階の原子炉が、およそ9年間にわたって閉じ込められているのです」
こちらは1996年に運転を終え、周囲の機材は撤去されたが、肝心の原子炉はアルミで密閉されたままだ。
<原子力機構 白石邦生課長>
「最終的な処分をどうするか決まらないと、『廃炉』しても廃棄物の持って行き場がない」
日本では「廃炉」に伴い生じる放射性廃棄物の処分方法が、まだ決まっていない。
<小泉純一郎元首相>
「原発ゼロにしろという一番の理由は“処分場がない”ということですよ」
原子力発電を導入している30か国のうち、高レベル放射性廃棄物の処分方法を決めたのはフィンランドだけだ。
最終処分場の「オンカロ」は、地下400メートルに核のゴミを10万年間埋めて、毒性がなくなるのを待つ。
早ければ、2022年に処分が始まる予定で、費用の総額は3,150億円に上る。
現地視察した小泉元総理を「脱原発」に転向させたほど、途方もない事業である。
しかも日本で発生する核のゴミを処分するには、この「オンカロ」の規模でさえ全く足りない。
とはいえ、東日本大震災以降、福島第一原発はもちろん、稼動後40年を経た原発は原則的に「廃炉」せざるを得なくなった。
待ったなしの「廃炉時代」。
それに向けた取り組みとは・・・
国内で最も多くの原発がある福井県。
県庁には先月、全国で初めて「廃炉」を専門とする部署が発足した。
<福井県廃炉・新電源対策室 五島雅彦室長)
「具体的には『廃炉技術』の問題、『廃炉』に伴ってどういうビジネスを創出できるかとか、当面は情報収集とか知見の収集」
「廃炉」のための人材育成もようやく始まった。
こちらの研究所は、原子力分野の技術者を多く生み出している。
<福井大大学院2年生>
「関西電力に内定させていただいてます。現場に入って安全性の向上をしっかり果たして、エネルギーの安定供給に努めていきたいなと」
<福井大大学院2年生>
「僕は『JAEA(原子力機構)』に内定しています。僕の家族は、僕が原子力にすすむならべつに良いと思ってますけど、世間体を気にしているところがあるのがちょっと嫌ですね。例えば親戚が集まっているときに就職の話になっても、あまり触れたくなさそうな感じなんですよね。それがちょっと僕は気にくわないと思っているところで」
大学院1年の松橋和也さんは、日本で唯一の「廃炉研究室」に所属している。
滋賀県出身で、大学では全く異なる分野を学び、就職先も内定していた。
<福井大大学院1年生 松橋和也さん>
「福島事故後、『UPZ(緊急時防護措置準備区域)』の30キロ圏内に滋賀県も関係することになった、それで興味がわきまして、『廃炉』を研究している人いないと気がついたんですよね。けれど『廃炉』は将来的には絶対必要。だったらこのままいったら非常にまずいのではないかなと思いまして」
この日のテーマは「福島第一原発の『廃炉工程表』に無理はないか」。
<福井大学 柳原敏客員教授>
「最初に粒子状のデブリ(溶解した核燃料)を取り出して、そのあとに塊状のデブリを取り出そうと(東電は計画している)」
指導する柳原教授は、国内で唯一、「廃炉」を終えた東海村の「JPDR」処理にも携わった「廃炉のプロ」だ。
しかし、福島第一原発は未曾有の事故を起こしたため、「廃炉」には不確定要素が多いという。
<福井大学 柳原敏客員教授>
「解体作業は必ず作業員が入ってくる。作業員としての被曝リスクを考慮して・・・」
松橋さんは「廃炉」の難しさを実感しながらも、研究を進めている。
<福井大学大学院 松橋和也さん>
「今の世代だけでなく、次の世代までかかるもの。まずはその第1陣として僕らからどこまでできるのかやっていかないなと思ってます」
<マル調>
「人生とか生涯かけての仕事ですよね」
<福井大学大学院 松橋和也さん>
「そうですよね。『廃炉』とはそういう仕事になるんじゃないかなと」
原子力発電が始まって50年、これまで、ほとんど省みられなかった「廃炉問題」。
しかし、大事故を経験した今、目を背けることは許されない。
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