大阪市:防災無線の更新延期 都構想の余波で安全後回し
毎日新聞 2013年11月14日 15時00分
災害情報などをスピーカーで伝える大阪市の「防災行政無線」が老朽化し、市が今年度から4年間かけて設備を一新する計画を立てたものの、大阪都構想の行方を見極めるため延期したことが分かった。9月の台風18号の際、市は防災無線などで避難を呼びかけたが、「聞こえにくい」などの苦情が数十件あった。専門家は「政治の都合で市民の安全対策を後回しにするのは許されない」と批判している。
大阪市は1989〜91年度に防災無線を整備。小学校や公園など市内約440カ所にスピーカーを設置し、市役所から災害情報や緊急地震速報などを流している。しかし、20年以上が経過し、老朽化などで音が聞こえにくくなるトラブルが続発している。
このため市は2011年、今年度から4年間で計22億円をかけて設備を一新し、現在のアナログ無線をデジタル化する計画を立てた。しかし、市危機管理室は今年度の運営方針に「市の統治機構が確定するまでの間、再整備を行うのではなく、改修工事を行う」と明記し、今年度は凍結して保守費用だけを計上した。大阪都構想では15年に市を都と特別区に再編する計画で、危機管理室は「構想が実現すれば、都と特別区のどちらが無線を発信するか分からない。整備後にシステムを変更する必要が生じて、投資が無駄になる可能性がある」と説明する。
大阪市では9月16日、台風18号の接近で大和川が危険水位に達し、市南部の住吉区など4区の約13万世帯に避難勧告を発令した。しかし、市には防災無線への苦情が相次いだ。住吉区の主婦(58)は「台風の朝、スピーカーから放送が流れたが聞き取れなかった。避難勧告が出ていることは町内会の役員に聞いて初めて知った」と話す。危機管理室は「放送が聞こえやすくなるよう、来年度にスピーカーの方向などを調整する。携帯メールなどを活用して情報発信に努める」と話す。ただ、計画延期の方針は変えないという。
兵庫県立大防災教育センターの室崎益輝センター長は「無線設備の交換はいずれ必要で、都構想は計画を遅らせる理由にならない。災害が起きてからでは取り返しがつかない。大阪府と協力するなどして一刻も早く整備すべきだ」と指摘している。【茶谷亮】