慰安婦問題を考えるときに、いつも思い出すのが平成8年10月、取材に訪れたインドネシア・ジャカルタ郊外で見た異様な光景だ。当時、日本政府への賠償要求のために元慰安婦の登録事業を進めていた民間団体の事務所に、日本人支援者らによるこんな寄せ書きが飾られていたのである。
「反天皇制」「国連平和維持活動 ノー」
民間団体は日本軍政時代に軍の雑用係を務めた「兵補」の組織で「元兵補中央協議会」といい、慰安婦問題とは直接関係ない。インドネシア人がこの問題に取り組むのはまだ理解できるとしても、なぜこんなスローガンが出てくるのか−。
疑問は、タスリップ・ラハルジョ会長の話を聞くうちに氷解し、背景が理解できた気がした。彼が、こんな内情を明かしたからだ。
「東京の高木健一弁護士の指示を受けて始めた。『早く進めろ』との催促も受けた」
ラハルジョ氏は、高木氏自筆の手紙も示した。高木氏といえば、社民党の福島瑞穂前党首らとともに韓国で賠償訴訟の原告となる元慰安婦を募集し、弁護人を務めた人物である。
11年8月には、今度はロシアで高木氏の名前を耳にした。戦後も現地に留め置かれた残留韓国人の帰還事業に関する対日要求について、サハリン高麗人協会のパク・ケーレン会長に話を聞いたところ、こんな言葉が飛び出したのだった。
「東京で大きな弁護士事務所を開いている高木弁護士が、『もっと日本から賠償を取れるから要求しなさい』と教えてくれた」
そして、かつて福島氏と同じ弁護士事務所に先輩弁護士として勤務し、高木氏とは大学時代から続く「友人」であるのが民主党の仙谷由人元官房長官だ。