特集ワイド:「婚外子相続」巡る大混乱で見えてきた、自民党の統制なき保守
毎日新聞 2013年11月11日 東京夕刊
選良−−そんな言葉がどこへ行ったのかと思えるほどの迷走ぶりだった。結婚していない男女間に生まれた子(婚外子)への遺産相続の配分を、法律上の夫婦の子(嫡出子)と等しくする民法改正案を巡り、自民党内で保守系議員の強硬な反発が噴出した。党法務部会は決定延期を繰り返し、大混乱。そこから見えてくる自民党の今とは?【田村彰子】
5日、自民党本部で開かれた5回目の自民党法務部会は大荒れだった。閉め切ったドアの向こうから、ひっきりなしに大声が響く。廊下に詰めかけた報道陣に「よく聞いておけ」と言わんばかりだ。
「子どもの権利の平等だけに目がいき、正妻の地位を脅かしている」「これでは安心して婚外子を産めるようになってしまう」「最高裁の暴走だ」−−ひっくるめると、こんな内容だ。改正反対議員は、婚外子と嫡出子の相続が平等になると「家族が崩壊する」と従来の主張を繰り返す。部会に乗り込んで議論をまとめようとするベテラン議員もいない。結局、改正案を示した法務省と部会幹部が「家族の絆を守るための諸施策を1年をめどにとりまとめる」としたことで、ようやく収束に向かい最終的に了承。開会から3時間近くが経過していた。
現行の民法は婚外子の遺産相続分について、嫡出子の半分としている。今年9月、最高裁はこの規定を「違憲」とする決定を出した。それを受け速やかに民法改正をするはずが、自民党法務部会の了承がずるずるずれ込んだ。反対派の赤池誠章参院議員は「子どもの権利は認めるが、正妻の立場も守るということで、婚外子の相続は嫡出子の2分の1になっている。日本型の仲裁だと思う。国民感情は現状維持を望んでいる」という。
しかし、この問題に詳しい棚村政行早大教授は「婚外子の相続分に格差を設けることで、法律婚が守られるというのは間違いです」と話す。「妻子がいながら別の女性に走り、無責任な状態に置いて遺言もせず、相続の局面で子どもにしわ寄せがくる今の方法のほうがよほど問題です」と指摘する。不倫した本人に慰謝料や子どもの養育費をきちんと支払わせ、離婚後の財産分与をすることが法律婚を守ることになる、と解説する。
法務省は今回、民法と共に出生届に嫡出子かどうかの記載を義務付けた戸籍法の規定を削除する改正案を用意していた。部会では「最高裁は同規定を違憲といっていない」と反対が根強く、あっさり見送られた。