ドイツ:ナチス略奪絵画 1406点、返還は困難な道のり
毎日新聞 2013年11月14日 21時12分(最終更新 11月14日 21時12分)
【ベルリン篠田航一】ドイツ南部ミュンヘンのアパートの一室から、ナチス・ドイツが1930〜40年代にユダヤ人らから略奪したとみられる計1406点(約1300億円相当)の絵画や版画が見つかった。シャガールの未発表作品のほか、ピカソ、ロートレック、ルノワールらの作品も良好な状態で保存されていたという。略奪被害者側のユダヤ人団体などからは返還を求める声が上がっているが、本来の所有者の特定には時間がかかるとみられ、返還は難航が予想される。
美術品は2012年2月、脱税捜査の過程でアパートを家宅捜索した際に見つかり、その後、鑑定作業が続いていた。部屋の所有者の男(79)の父はナチス幹部ゲッベルスと親しい画商で、男はこうした父の収集品を長年、隠していたとみられる。男は一部メディアに「作品は全て検察当局に渡した」と述べ、その後行方をくらませている。
絵画の処理については「正当な持ち主を探し出すべきだ」(独ユダヤ人中央評議会のグラウマン会長)との声も根強いが、返還は容易ではない。ナチスは1938年、現代的な抽象絵画などを「退廃芸術」と批判し、没収を合法化した。ユダヤ人の所有する多くの絵画も没収の対象になったが、今回発見された作品の中には、公立美術館などの「公共」展示物からの没収品が315点あるなど、没収の時点ではユダヤ人からの略奪とは言い切れない作品も多い。
鑑定に従事したベルリン自由大学のマイケ・ホフマン博士(美術史)も5日の会見で「返還義務が全てにあるとは言えない」との見解を明らかにした。
だが独紙によると、別の194点については、押収書類の分析から、売却を「強制」されたユダヤ人らの所有物と証明できる可能性があり、返還の道も残されているという。
ナチスの略奪美術品については98年、略奪品と証明されれば本来の所有者や相続人に返すよう求める「ワシントン原則」が定められ、40カ国以上が署名した。だが法的拘束力はなく、返還は進んでいない。ナチス政権下の33〜45年にドイツが欧州などで略奪した美術品は推計60万点で、このうち10万点が今も行方不明とされている。