虚構の環:第3部・安全保障の陰で/4 弱まる「核の潜在的抑止力」

毎日新聞 2013年06月29日 東京朝刊

 ◆虚構の環(サイクル)

 ◇経産文書に「六ケ所不要」

 4月26日の内閣府原子力委員会。鈴木達治郎委員長代理が「核燃サイクルは潜在的核抑止力につながるという指摘についてどう考えるか」と安全保障に詳しい中西寛・京都大教授(国際政治学)に尋ねた。潜在的核抑止力は日本が「持とうと思えば核兵器を持てる」状態であることが、他国の核武装や核攻撃を抑止するという考え方。核燃サイクルは使用済み核燃料から軍事転用可能なプルトニウムを抽出するため、保守系議員らが過去にも有効性を強調してきた。

 中西教授は「1960年代、70年代、確かにそうした議論があった。しかし今効果的な軍事技術は、通常兵力やサイバー(分野)の整備にシフトしている。『潜在的核抑止力を保持するため再処理技術を持っていた方がいい』ということは言えない」と述べた。

    ◇

 60年代、政府は核武装を極秘裏に研究していた。

 内閣の情報機関である内閣調査室(現・内閣情報調査室)主幹、志垣民郎(しがきみんろう)氏(90)が日記を残していた。68年1月30日、志垣氏は国際政治学者と科学者を東京・紀尾井町の高級料亭に集め、核武装の可能性を研究するよう依頼した。中国が64年に原爆実験、67年に水爆実験に成功したことを受けたもの。志垣氏は取材に対し「発覚すれば内閣が吹っ飛んだかもしれない。保秘を徹底した」と証言した。

 メンバーは▽垣花秀武(かきはなひでたけ)・東工大教授(原子核化学)▽永井陽之助・同(国際政治学)▽前田寿・上智大教授(同)▽蝋山(ろうやま)道雄・国際文化会館調査室長(同)。氏名の頭文字から「カナマロ会」と名付けた。自衛隊のミサイル専門家や、唯一営業運転が始まっていた東海原発(茨城県東海村)を運営する日本原子力発電の技術者らの意見も聞き、68年9月に報告書「日本の核政策に関する基礎的研究その一」、70年1月に「その二」を佐藤栄作首相の秘書官に提出した。再処理で取り出したプルトニウムで「原爆を少数製造することは可能」だが、核武装した場合の▽外交的孤立▽国内政治不安の高まり▽開発実験費用の巨額さ−−などから「核兵器を持つことはできない」とした。

 外務省も極秘で研究した。69年9月の「わが国の外交政策大綱」には「当面核兵器は保有しないが、核兵器製造の経済的・技術的ポテンシャル(潜在能力)は常に保持する」と記載され、再処理を軍事面から重視する姿勢がわかる。

 「安全保障上、青森県六ケ所村の再処理工場は必要だ」。原子力委員会関係者によると、今もそう主張する保守系議員は多い。

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