虚構の環:第3部・安全保障の陰で/3 近づく再処理工場の稼働
毎日新聞 2013年06月28日 東京朝刊
◆虚構の環(サイクル)
◇米「大きな懸念」警告
再処理してプルトニウムを取り出すのに、2030年代に原発ゼロを目指す−−。民主党政権のこの政策に米国は「懸念」を表明し続けてきた。軍事転用可能なプルトニウムを使う施設(原発)が無くなるからだ。安倍政権は一転「原発ゼロの見直し」を掲げる。ならば米国の批判は消えたのか? 政府関係者は「ますます逆風が強まっている」と証言する。青森県六ケ所村の再処理工場の稼働が近づいているからだ。
象徴的な場面があった。4月10日、ワシントンを訪れた内閣府原子力委員会の鈴木達治郎委員長代理が「茂木敏充経済産業相が国会で『核燃サイクルの継続』を明言した」と説明するとカントリーマン国務次官補は「米国にとって大きな懸念となりうる」と述べた。
民主党政権にも「懸念」と伝えてきた。一見同じだ。だが関係者は「大きな」という表現に注目した。
カントリーマン氏はさらに警告した。再処理が高コストであることを持ち出し「経済面などの理由がないまま再処理するのは、日本に対する国際社会の評価に『大きな』傷がつく可能性がある」。翌11日に会談した米エネルギー省のポネマン副長官も鈴木委員長代理に「プルトニウムが増えないか『大いに』懸念している」と指摘。同行した大使館員は漏らした。「これまでにない厳しい反応だ」
原子力委は1994年の原子力長期計画で「余剰プルトニウムを持たない」と決めた。フランスに依頼した再処理で生じた約1トンのプルトニウムを輸送船「あかつき丸」で運んだ92〜93年、予想航行ルートにある約30の国と地域から強い反発を受けたからだ。この決定から約20年。プルトニウムを使う本命だった高速増殖炉は実現せず、日本の持つプルトニウムは約44トン(11年末)と約3倍に増えた。一方、六ケ所村の再処理工場は今年10月の完成を目指す。操業が近づくにつれ米国の不信感は強まる。
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日米両国は昨年、外務省外務審議官と米エネルギー省副長官をヘッドとするハイレベル会合「日米2国間委員会」を設置した。東京電力福島第1原発の事故を受け、米国が「日本の政策に関与するため制度化した」(外務省幹部)ものだ。会議は冒頭部分以外は非公開。取材班は昨年7月の第1回会合の議事録を入手した。核燃サイクルや再処理に関して「日米の共同研究開発について可能性を議論していく」と記載されている。米側は日本のサイクル政策への関与を強めようとしているのだ。