小泉元首相:日本記者クラブでの会見内容
毎日新聞 2013年11月12日 20時36分(最終更新 11月12日 21時56分)
この前、(フィンランドの)オンカロに行ってきた。世界で唯一原発から出る核の廃棄物を処分する場所だ。首都ヘルシンキから200キロ超、地下400メートルの岩盤をくりぬいた場所にある。縦横2キロ四方の広場に、円筒形の筒に入った核のゴミを埋める。容量は原発2基分だそうだ。フィンランドは原発を4基持っている。残り2基分の処分場所はまだ決まっていないとのことだった。オンカロもまだ最終審査が残っている。なぜかというと、岩盤から水が漏れている。10万年もつか調べなければならない。日本はどうか。400メートル掘らないうちに水なんてしょっちゅう出てくる。温泉が出てくる。
放射能には色がない。においがない。10万年後の人間がオンカロに来たときに「何だこれ」と思って(核廃棄物を)掘り出そうとしないように(警告のため)どんな文字を使えばいいのか、考えられている。笑い話ではない。福島事故前にも見つからなかった処分場を、必要論者たちは、早く選定して建設しなさいと言っている。
安倍晋三首相が今、原発ゼロを決断するのに、こんなに恵まれた環境はない。私が首相在任中の郵政解散は「追い込まれ解散」だった。野党も反対、与党も反対で、まさに乾坤一擲(けんこんいってき)。やってみないと分からなかった。比べて今、どうか。野党は全部、原発ゼロに賛成。反対は自民だけではないか。本音を探れば、自民議員も賛否は半々だと私は思っている。もし安倍首相が「原発ゼロにする。自然を資源にする国家を造ろう」と方針を決めれば、反対派は反対できない。必要論を唱えるマスコミも変わる。
国民から与えられた権力を望ましい、あるべき姿に向かって使うことができる。こんな運のいい首相はいない。国家の目標として、ほとんどの国民が協力できる体制ができる。全政党が賛成し、提案だって野党からいろいろ出てくる。識者からいろんな知恵が出てくる。できるんだ。夢のある事業だ。政治の出番だ。首相に期待している。結局は首相の判断力、洞察力の問題だ。うかうかしていると、米国が先を越して脱原発と言い出す。安倍首相には、大きな権力を多くの国民が協力できる壮大な事業に使っていただきたい。