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年間1Sv被曝しても健康被害は出ない

今週のGEPRでは、ちょっとおもしろいデータを紹介している。

まず放射線影響研究所の最新レポート。これは広島・長崎の被爆者12万人を追跡調査している、世界でもっとも権威ある放射線の影響についてのレポートだ。今回は今までに比べて全線量で余剰癌死亡率(ERR)が上がり、特に500mSv(0.5Gy)以下では線形関係を上回るデータが出ている(有意性は低い)。

rerfこの解釈はむずかしいところで、英語の原論文でも明快な結論を出していないが、もっとも自然な説明はホルミシス効果だろう。今までの研究では500mSvぐらいまでは放射線量を増やすと発癌率が減少するというデータが得られているので、上の図とほぼ整合的だ。放影研も「低線量の関係は線形というより凹型」だとしている。

いずれにせよ、このデータで確実にいえるのは、瞬間100mSv以下の被曝による余剰癌死亡率は5%以下だということである。このリスクは受動喫煙や野菜不足とほぼ同じで、塩分の取りすぎや運動不足より小さい。

しかもこのリスクは瞬間被曝によるもので、持続的な被曝のリスクはよくわかっていない。これについても今週のGEPRでMITのレポートを紹介している。それによると、マウスのDNAに放射線を照射した実験では、毎時120μSv(年間1.05Sv)を5週間にわたって照射しても、DNAの切断は見られなかった。

この数値がICRPの定める年間線量に対応する。現在の基準は「平時」で年間1mSvだが、MITの実験ではこの数値の1050倍でも遺伝子に影響は出ていない。どれぐらいの被曝量で影響が出るのかは未知だが、年間260mSvのラムサールでも影響は出ていない。サンプルは少ないが、時計職人で累計10Svで影響が出たというデータがある。

だから科学的にいえることは、保守的に見積もってもICRP基準の1000倍の被曝でも健康被害は出ないということである。年間1Sv(毎時120μSv)という線量は福島県の平均線量の100倍以上なので、今回の事故の放射線による発癌リスクはまったくないと断定してよい。瞬間100mSv被曝すると受動喫煙ぐらいのリスクがあるが、同量の持続的照射の影響はそれよりはるかに低い。

低線量被曝についてはGEPRで多くのデータを公開しているが、世界の科学的研究の結論はほぼ一致している。科学的な批判は歓迎する。

追記:ERRの桁を間違えていた。失礼。

池田信夫
経済学者。株式会社アゴラ研究所代表取締役

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