社説[検定に新基準]事実上の国定教科書だ

2013年11月15日 09時30分
(1時間49分前に更新)

 文部科学省は、小中高校の社会科分野の教科書検定基準を見直す方針を決めた。近現代史の歴史的事実について、政府見解の尊重を求める規定を明記するという。

 検定基準に新たに盛り込むのは(1)政府見解や確定判決がある場合は踏まえた記述にする(2)諸説ある事柄については多数説や少数説をバランスよく取り上げる-との内容だ。南京事件の被害者数や「慰安婦」への日本軍関与の実態、尖閣諸島や竹島など領土に関する問題が念頭にあるとみられる。

 ただ、文科省が新たに検定基準に加える項目は、これまでの検定でも運用で実行されてきたものだ。

 今年3月に結果が公表された高校の日本史教科書検定でも、南京事件について「少なくとも十数万人が殺害された」との記述に対し、「犠牲者数について諸説あることが理解できない」との検定意見がつき、「犠牲者については、約20万人や十数万人、またそれ以下など諸説ある」の記述に修正された経緯がある。

 あえて検定基準に明記し、国の統制を強化する必要があるのか疑問だ。教科書会社が萎縮し、論争のある問題についての記述を避けたりしないか懸念は消えない。

 教科書を使って政府見解を学ばせよう、というのであれば、事実上の「国定教科書」に他ならない。行きすぎた「政治介入」だ。愛国心教育を重視した復古主義的な教育改革を推し進め、歴史の軌道修正を図りたいという思惑が透けて見える。

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 第1次安倍内閣の2007年に公表された高校日本史教科書検定では、沖縄戦の「集団自決(強制集団死)」から旧日本軍強制を示す記述が削除された。県民の怒りは、検定意見の撤回を求める大規模な県民大会につながり、「軍命」「強制」記述の復活を求める運動は今なお続いている。

 こうした状況のもと、さらに政府見解の反映が強く求められることになれば、「学術研究レベルで検証されてきた説が、政府に都合のいい説に置き換えられる可能性が出てくる」(山口剛史琉球大准教授)。歴史が恣意(しい)的にゆがめられる可能性があるとするなら、極めて危険だ。

 07年の県民大会で、高校生代表は「私たちは真実を学びたい。そして次の世代の子どもたちに伝えたい」と訴えた。学びの場で使われる教科書には、子どもたちのこうした思いこそ尊重すべきだ。

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 文科省は八重山地区での中学公民教科書一本化に向け、統一採択に従うよう法改正で明文化する方針も決めた。

 そもそも同地区の混乱の元は、地方教育行政法と教科書無償措置法という二つの法律の矛盾にある。政府が無償措置法に照らし、竹富町を「違法状態」とする解釈は乱暴だ。

 自民党教育再生実行本部の特別部会で、「ルールを破っても開き直る子が育つ町になってはならない」とスポーツと絡め竹富町を批判した萩生田光一総裁特別補佐の発言も到底容認できない。

 教育の主役は子どもたちだ。主役を置き去りにした教育改革はあり得ない。

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