自民党の「地金」の一端があらわになったということだろうか。「1強多弱」の国会で自民党保守派の動きが活発化し、懸案の処理をめぐる党内調整がごたついている。
自民党は憲法改正の手続きを定めた国民投票法に規定された投票年齢18歳を、当面20歳以上にすることにした。党憲法改正推進本部が条文に沿って取りまとめた改正原案を保守派を中心とする反発で変更した。
最高裁から違憲判断を突き付けられて、政府は遺産相続をめぐる婚外子(結婚していない男女間の子)差別の規定を削除する民法改正案を決めた。保守派から「家族制度が壊れる」などの異論が相次ぎ、難航した。
一方は法の趣旨に背くような形で練り直させ、一方は三権分立の原則などから無理筋の反対を続けた末の容認だった。
考え方が異なるからと、成立時に賛成した法の根幹部分を覆す。家族観をめぐる国内外の変化に目を背けて抵抗する。こうした姿勢は多くの国民の共感を呼ぶだろうか。
国民投票法は投票年齢を18歳以上とし、成人と選挙権の年齢も2010年の法施行までに18歳に引き下げる法制上の措置を講ずる−と規定している。
確かに、付則で成人と選挙権の年齢の18歳引き下げが実現するまで20歳以上に据え置くとしている。成人年齢を20歳と定めた民法などとの整合性確保もないがしろにできない。
それでも07年の法成立以降、関連法改定に努めたようには見えず、説得力に乏しい。
18歳以上の規定には「最高法規」の改正に若い世代の意見を反映させる狙いがある。その趣旨に沿わない上、成人年齢の引き下げ時期も不透明で、長期間、棚上げされる懸念が強い。
公務員による賛否の勧誘や意見表明が制限されないよう法制上の措置を求めた付則についても、自民党案は禁止規定や罰則を設けるなど、制限の緩和は大きく後退してしまった。
公明党は18歳堅持を主張。国民投票年齢の引き下げを先行させる方向で自民党と合意した経緯もある。調整は難航必至で国民投票法改正案の臨時国会提出は困難になったとみられる。
保守派は安倍晋三首相の有力な支持基盤。どのような議案もほぼ成立を見通せる国会の状況が強気にさせているのだろう。
安倍首相が公明党などとの協調を重視し、本来の保守色を抑え気味にしていることへの不満もうかがえる。保守支持層を意識し、首相に原点回帰を促す狙いがあるのかもしれない。
憲法改正を目指す安倍首相が、その前提となる国民投票法改正案提出を難しくする内容の修正案に指導力を発揮しないのは、改憲に向けた取り組みの長期化を想定し、今国会で特定秘密保護法など重要法案の成立を優先する意思表示にもみえる。
国民の視線を軽んずれば盤石の政権も揺らぐ。保守派との間合いを慎重に見定め、丁寧な国会運営に努める。安定した長期政権に向けた勘所だろう。