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【社会】

原爆症認定 拡大せず 被爆者の声 置き去り

有識者検討会の報告書案について記者会見する日本原水爆被害者団体協議会の田中熙巳事務局長(左)ら=14日、東京・霞が関の厚労省で

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 がんや心筋梗塞など被爆者の病気を原爆症と認定する基準の見直しに向けた厚生労働省の有識者検討会が十四日開かれ、最終報告書の原案が示された。国の審査が厳しすぎるとの司法判断が続いたため設置された検討会だが、報告書案は「判決を一般化した基準の設定は困難」として現行制度は変えず、判断基準をより明確に示すことを求める内容にとどまった。 (柏崎智子)

 報告書案は次回にまとめられ、年内に厚労相に提出される。被爆者団体側は「認定の拡大につながらない」と批判。次回に対案を提出する一方、政治解決を求めて全国の被爆者らによる集会を開く。

 現行制度では主に七つの疾病を原爆症とする。がんは爆心地から三・五キロ以内で直接被爆した場合などの基準で積極認定するが、ほかの疾病は「放射線が起因していることが明確である」などと条件があり、認定率が極めて低い。

 また、残留放射線の健康影響は確認されていないとする立場で、原爆投下後に広島、長崎市に入った人への認定も厳しい。

 当時の放射線量の詳しい測定がなく、被爆者の高齢化で放射線起因性の証明が難しい現状から、検討会で被爆者側は、被爆者健康手帳を持つ全員に支給する手当の創設を提案。がんなど一定の疾病にかかった場合は、被爆距離や入市の状況など放射線起因性を問わず、障害の程度に応じ加算するしくみを求めていた。

 報告書は、がん以外の疾病に求める放射線起因性は不明確で分かりづらいと指摘。代わりに被爆距離などの基準を明確に示すべきだとしたが、がんと同程度の基準緩和は適当でないとする意見が多数とした。

 その上で、「他の戦争被害との区別や国民の理解が得られない」と現行制度の維持を打ち出した。

 検討会は、二〇一〇年十二月に設置し、この日で二十五回目。認定を却下された被爆者らが起こした集団訴訟で国が敗訴を重ねたため、行政と司法判断の乖離(かいり)を埋める目的だった。

<原爆症認定制度> 原爆の放射線が原因で病気になり、治療が必要な状態であることを要件に国が月約13万5000円の医療特別手当を支給する。原爆症認定集団訴訟で国側敗訴が続き、2008年に新基準を導入。(1)爆心地から3・5キロ以内で被爆(2)原爆投下後100時間以内に、同2キロ以内に立ち入り−などの条件で、がんや心筋梗塞、白血病など七つの病気を積極的に認定している。だが申請却下が5年間で1万件を超え、取り消しを求める訴訟で個別の事情を総合的に考慮し認定された判決が相次ぐなど、司法と行政の隔たりの解消が課題となっている。

 

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