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京大・山中教授にノーベル生理学医学賞−iPS細胞(万能細胞)を開発

掲載日 2012年10月08日
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ノーベル賞受賞の知らせを受け会見する山中教授(8日、京大で)

 スウェーデンのカロリンスカ医科大学(ストックホルム)は8日、2012年ノーベル生理学医学賞を、iPS細胞(万能細胞)を開発した京都大学の山中伸弥教授(50)に授与すると発表した。日本出身のノーベル賞受賞者は19人目。生理学医学賞では1987年の利根川進氏(現理化学研究所脳科学総合研究センター長)に続き2人目の快挙となる。授賞式は12月10日にストックホルムで行う。賞金800万スウェーデンクローナ(約9500万円)が贈られる。
 山中教授は06年にマウスの皮膚細胞から、07年にヒトの皮膚細胞からiPS細胞を作り出すことに成功した。iPS細胞は体のさまざまな細胞に分化できる能力を持つ。皮膚細胞など採取しやすい細胞からiPS細胞を作り出し、通常は再生できない心筋細胞や神経細胞に分化させ、患者に移植する再生医療への応用が期待されている。また、難病患者の細胞をiPS細胞で再現することで、病態を解明する研究にも応用されている。  山中教授は大阪市出身。神戸大学医学部を87年卒業後、外科医勤務を経て研究者に転身した。米グラッドストーン研究所博士研究員、奈良先端大院助教授などを経て04年から京大教授。
 iPS細胞を開発した功績で09年にラスカー賞(米国)、12年にミレニアム賞(フィンランド)などを受賞している。

「喜びと大きな責任」(会見要旨)

山中教授は8日夜、京大本部(京都市左京区)で記者会見し「感謝しかない。喜びと 同時に大きな責任を感じている。難病で苦しむ患者や家族に一日も早く(研究の成果 を)届けたい」と語った。主なやり取りは次の通り。
―受賞について
「受賞の数時間前に知らせを受けた。心の底から思ったことは、受賞できたのは国、 多くの人に支えてもらって、その支援が無かったら受賞できなかったこと。一言で言 うと感謝しかない。喜びと同時に大きな責任を感じている。iPS細胞は役立つのは これから。1日も早い社会還元を目指したい」
―iPS細胞の倫理面については
「iPS細胞研究所も今後、倫理の専門家を教員として迎えたい。倫理、知財など本 当の意味での実用化に向けた対策を進める」
―研究者、患者に対しては
「研究はアイデアひとつで、いろいろなモノを生み出せ、成果や知財は無限に出せ る。どんどん参加してほしい。私も短い間だが臨床医をしていた。iPS細胞の研究 は難病患者さんの顔が見える。苦しむ人の1日1日を大切に思いながら仕事をした い」

人工多能性幹細胞(iPS細胞)の顕微鏡写真
(山中伸弥京都大教授提供)

iPS細胞とは

 iPS細胞は「induced Pluripotent Stem cells」の頭文字を採ったもの。開発者の山中教授は世界的な人気商品となった米アップルの「iPod(アイポッド)」にネーミングのヒントを得ている。
 山中教授がマウスのiPS細胞をつくったのは2006年。胚性幹細胞(ES細胞)で特異的に発現し特性の維持などにかかわっている「Oct3/4」「Sox2」「c−Myc」「Klf4」という四つの遺伝子を組み合わせ、レトロウイルスベクターを用いてマウスの成体皮膚や胎児由来の線維芽細胞に導入、iPS細胞を樹立した。次いでこのiPS細胞が体外で分化して神経細胞、心筋細胞、肝臓細胞の三つの細胞に分化誘導できたことを確認した。
 ES細胞にある初期化因子は、万能性や高い増殖能を維持する因子と同一との仮説に立って24遺伝子を選定。体細胞を初期化できるかを検討した結果、単独の遺伝子では初期化できないが、四つの遺伝子を組み合わせることで初期化ができることを突き止めた。この方法は卵子や胚を使わずに直接、多能性幹細胞を作り出すもので倫理的な課題をクリアできる。
 iPS細胞ができる前に再生医療への道筋をつけた存在だったのがES細胞だ。ただ、ES細胞には大きな問題点が二つある。一つはヒト胚や胚由来のES細胞を利用するもので倫理的問題をはらむ。もう一つは拒絶反応だ。いずれもES細胞は、受精卵から作製される多能性幹細胞株で、その作製時に生命の萌芽(ほうが)である受精卵を消失してしまう。また「他人の受精卵由来」のため、細胞移植医療に応用しようとしても、患者個人と遺伝子型が一致することはなく、どうしても拒絶反応が起こる。
 一方、iPS細胞は患者自身の細胞から作製できる。脳の深部の細胞や心臓の細胞など、通常、生きたままサンプリングすることが難しいような組織の細胞でも患者から取得したiPS細胞から分化誘導することで、多量に獲得できる。
 この細胞を使って薬の毒性を検査したり、個人に合った薬を探索したり、病気が発症する機構を調べて病因を探るなど創薬や病態解明、再生医療への応用ができる。
 iPS細胞の応用で、具体的には理化学研究所網膜再生医療研究チームの高橋政代チームリーダーが来年にもiPS細胞を使った網膜再生の臨床試験を始める計画で、そのほかにも心筋梗塞に応用する研究を大阪大学の澤芳樹教授、脊髄損傷に関する研究を慶応義塾大学の岡野栄之教授らが研究している。まさに今までにない、全く新しい医学分野への道が切り開かれつつあるといえる。

iPS細胞の今後は

 山中伸弥教授が開発したiPS細胞(万能細胞)の基本技術に関する特許が9月、新たに日本で1件、米国で3件成立し、京大が取得した特許は日本で計4件、米国で計6件となった。欧州でも特許取得が進む。京大の松本紘総長は「知財獲得の成果が大きく進展した」とiPS細胞を巡る国際的な懸案事項にひと区切りをつけたとの認識を示している。
 iPS細胞はこれから、薬剤候補物質のスクリーニング(ふるい分け)に使用する手法など創薬や臨床試験に向けた動きが加速する。その際に特許の有無が事業化への大きなカギとなる。
 山中教授も「知財確保に関しては着実に進んでいる」と安堵(あんど)感をみせる。
 知的財産権の管理・活用をする「iPSアカデミアジャパン」(京都市上京区)も2008年に設立されている。iPS細胞の実用化に向けた産業界への技術移転を促進する。  日本の研究機関のiPS細胞関連特許の実施権を扱う「オールジャパン体制」を早期に固めることが重要だ。4月にiPS細胞研究所を視察した平野博文文部科学相(当時)は研究助成について「わが国の画期的な国家プロジェクトに該当するテーマと認識している。しっかりとサポートしていきたい」としている。
 一方、あらかじめiPS細胞を保管する「iPS細胞バンク」の設立も今後、視野に入っている。バンクは、iPS細胞は作成や培養には時間がかかるため、事前に皮膚などの体細胞からiPS細胞を作成した上で培養し、冷凍保存する仕組みだ。

山中教授の横顔-フルマラソンも走る名ランナー

 山中教授は「名ランナー」として知られる。フルマラソンにも年に数回参加している。昨年始まった「大阪マラソン」、今年3月の「京都マラソン」も走った。11月25日に開催の「大阪マラソン2012」にもすでにエントリーしている。
 京都マラソンでは、ナンバーの代わりに「山中伸弥」と書かれた特別仕様のゼッケンをつけたこともあり、多くの一般ランナーから声援を受けた。自身も苦笑しながら振り返るように「先生、走るより研究がんばって」と声をかけられながら走ったという。  京都マラソンではiPS細胞研究基金を募りながら走っている。総額1000万円以上集まり、山中教授も感謝する。
 マラソンランナーだけに、iPS細胞の研究にも「10−20年かからないと完成しないと技術だから、ペース配分を最後まで守り、できれば段々と加速してゴールでは全力疾走できるように、いろんな仕組みも含めて努力していきたい」と話す。

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