メモ帳の片隅:/12 美しくもけなげなまんじゅう /福島
毎日新聞 2013年11月07日 地方版
「まんじゅうみたいでかわいい」。この春から見て歩いてきた県内の裏山の印象だ。郡山勤労者山岳会の人に言うと「そんな感じかね。いつも見てっからな」と興味なさそうだ。まんじゅうの側面に垂れる藤の花を「きれいですね」と言っても、「うん?」という調子だ。よそ者には類を見ない美が、地元の人には何てことのない原風景なのだ。
北海道、鹿児島、長野で暮らし、山野には慣れているはずの私にとっても、福島の山、裏山は独特に見える。まんじゅうと言っても単に半球ではなく、頂上部分が平たく斜面がストンと落ちている。もっこりという表現が似合うが、月餅に近い形もある。文献に当たると地理学者の中村嘉男氏が著書「ふくしまの地形」でこう捉えていた。「阿武隈山地と奥羽山脈の傾斜分布の特徴」として「なだらかさは稜線(りょうせん)や山頂付近に限られ、山腹斜面とその下端はかなり急」で、それは「第四紀の初め頃の日本列島全体の大がかりな隆起運動の結果」だという。
地質年代の第四紀の始まりはおよそ260万年前。人類の先祖がアフリカで二足歩行を始めたと言われる頃、まんじゅうは生まれたわけだ。時は流れ、列島にたどり着いた人類は2列のまんじゅうの古くて低い方を阿武隈、西にある新しく高い方を奥羽と呼んだ。
それから何千世代も後、原発事故で放射性物質が空に向け放出された。風が内陸に向いた2011年3月15日以降、物質はまず阿武隈の断崖に当たり、一部は山へ、一部は海岸線に流れた。経路には幾説あるが、環境省の除染担当者は「放射性物質を含んだ大気が山越えで霧状になり阿武隈の山々にかなり沈着したはず」と言う。福島登高会作成の山岳線量マップを見ると、阿武隈の線量は奥羽よりはるかに高い。実際に山を歩いてみると、東側と南東側で標高が高くなるほど線量も高い傾向がみてとれる。
風を運び、時に壁の役割も果たしたまんじゅうは、今いる人類が消え幾世代を経ても、そのままの形で残る。とてもけなげに映る。【郡山支局長・藤原章生】