ジョジョに引用されるモダン・ホラー群
『ジョジョ』に見られる引用といえば、主にロックのアーティスト名が有名です。僕も中学の時に塾の講師にそのことを教わりました(ちなみにその塾講師はロック歌手が本業でした)。登場人物あるいはスタンド名のほとんどが実在するアーティスト名からまかなわれています。
しかし荒木飛呂彦のある時期以降の作品には、ストーリーの構成や発想の着眼点などの面でアメリカのモダン・ホラーの影響が色濃く現れてきます。これもちょっとしたホラーファンならばジャンプ掲載時から敏感に感じ取ってきたことで、別に僕だけが気づいたことではないはずです。大学時代のホラー小説も好きでジョジョも好きという某友人も早い時期に気づいていました。モダン・ホラーというと裾野は広いのですが、ジョジョには主にキング・オブ・ホラーの名を冠されるスティーヴン・キングの作品が多いようです。
そもそもが「スタンド」の由来は、その人のそばに立って現れる(すなわち"stand by me")だと明言されています。"stand by me"とは言うまでもなく彼の作品の中では異色の、あの映画化された作品「スタンド・バイ・ミー」(『スタンド・バイ・ミー:恐怖の四季・秋冬編』所収,新潮文庫)です。はじめは僕もあの名曲"stand by me"からの引用かと思いました。何しろアーティスト名を乱用するのが大好きな作者のすることですから。しかし後に数多く引用されるモダン・ホラーのかけらから判断すると、キング作品の方が妥当だと考えます。また第3部から登場する、空条一族の名もキング作品『クージョ』(永井淳訳,新潮文庫)を宛てたものかと考えられます。
僕がはっきりと気づいたのは第4部、杜王町の物語になってからです。あのあたりから作品内で起こる事件も凄惨さを増しましたし、リンク元がはっきりと特定できるスタンドも現れはじめました。コミックス29巻のアンジェロ、スタンド名アクア・ネックレス。彼は殺人を犯していますが、その殺しっぷりは「少年はすでに死んでいたが、局部は切りとられ、死体のそばの柱に針でうちつけてあった」という少年誌では通常考えられない残虐さです。また登場した回にアクア・ネックレスは仗助に攻撃され、下水に逃げ込みますが、その道路脇にある下水の穴からこちらがわを覗くヒトコマがあります。これは、キング作品『イット』(小尾芙佐訳,文芸春秋)にインスパイアされたように感じられます。地下深く潜み下水道を通って待ちの人間を襲うit。このようなシーンがどこかにありました。そしてアンジェロは仗助の自宅に自分のスタンドを仕込んだ牛乳を届けようとします。牛乳配達人を装ってです。このシーンはもう完全に「ミルクマン」(『スケルトン・クルー3:ミルクマン』所収,矢野浩三郎他訳,扶桑社)です。微笑みを浮かべて青酸カリやベラドンナ、あるいは毒グモ入りの牛乳を配達する姿とモロに重なります。
さて、その一つ一つの確認ですが、とりあえず現在気づいている分だけ記しておきます。
(登場人物、スタンド名:リンク元作品)
01.アンジェロ、アクアネックレス:『イット』『ミルクマン』
アクアネックレスが下水道からこちらを覗くシーン。
牛乳配達人が家庭のポストにスタンド入り牛乳を届けようとするシーン。
02.虹村形兆、バッドカンパニー:「戦場」(『深夜勤務』所収,高畠文夫訳,扶桑社ミステリー)
おもちゃのG.I.ジョー・ベトナム戦闘セットが主人公を襲う。これはもう、まんまパクリ。
03.虹村形兆のオヤジ、スタンド名?:「箱」(『SFマガジン』'87.4月増刊号に収録)
古い木箱に潜んでいた正体不明の怪物がもたらす恐怖。ジョジョでは屋根裏部屋が舞台になっているようだが、キング作品では地下室となっている。
04.山岸由花子、ラブ・デラックス:『キャリー』(永井淳訳,新潮文庫)あるいは『ファイア・スターター』(深町眞理子訳,新潮文庫)、『ミザリー』(矢野浩三郎訳,文芸春秋)
女性の髪の毛が自然発火。
広瀬康一が監禁されるシーン。元看護婦のアニーが作家ポール・シェルドンを監禁し拷問(?)されていくのと、由花子の異常さが暴走していくあたりは完全に重なる。
05.スタンド鼠、スタンド名?:D.R.クーンツ「罠」(『罠』所収,扶桑社ミステリー)
遺伝子工学で高度の知性を持った農家に忍び込んだ鼠との戦い。家の中や農地での追跡劇、残りの銃弾数を気にしながらの戦いはジョジョと重なるところが多い。「罠」からストーリーの骨子を参照している。
06.猫草、ストレイキャッツ:『ペット・セマタリー』(深町眞理子訳,文春文庫)
吉良吉影が自分の庭に死んだ猫を埋めるシーンと『ペット・セマタリー』で愛猫チャーチルを埋めるシーン。降雨、スコップ、レインコートなど一致する装置も多い。
などといくつか検証をしていくうちに第3部にもネタバレしてそうなストーリー、スタンドがあるような気がしてきました。車のスタンドはキングじゃないけど『ザ・カー』あるいは『クリスティーン』から、とかね。だいたいが空条が出てきたことがすでに端緒となっているのだから当たり前か。
また、深読みをすれば岸辺露伴を通して作り手である自分を登場させるといった手法は、『シャイニング』『ダーク・ハーフ』及び『イット』『スタンド・バイ・ミー』『呪われた町』あたりからの影響は見逃せないように思います。他にも第4部の舞台であるS市の杜王町は、荒木飛呂彦の生育地である仙台市がモチーフとなっており、スティーブン・キングがメイン州を舞台に数々の作品を書いていることと重なります。
あと直接は関係ないけど、スーパージャンプとオールマンに読み切りで掲載された二作品。これも後日アップ。どこにしまったか思い出せないので。いずれにしてもとっといて良かった。
(98/08/12)
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