フクイチ(福島第一原発)の排気筒は次の大地震に耐えられるのだろうか。三陸沖から千葉県沖にかけては、今後も大地震発生が危惧されている。東北地方太平洋沖地震を引き起こした日本海溝のプレート境界では、福島県沖を震源として発生した一〇月二六日の地震のように、海溝軸の外側での「アウターライズ地震」が繰り返し起きており、今後も発生するだろう。
一九三三年に発生した昭和三陸地震はM(マグニチュード)8・1の大地震だったが、これは一八九六年に起きた明治三陸沖地震(M8・5)に連動した「アウターライズ地震」であった。揺れそのものは震源が沖合二〇〇キロメートルの太平洋プレートだったことで最大震度5程度だが、大津波が起き、気仙沼市や宮古市を中心に三〇〇〇人以上が死亡した。
同様のアウターライズ地震が発生するならば、福島第一原発は再度、大きな揺れと津波に襲われる可能性がある。これまでの例を見ると、数年から数十年のどこかで巨大地震が再来、または、プレート境界型地震が起こる可能性があると考えられている。二〇一〇年の耐震性の確認、「耐震バックチェック」時に想定していた「塩屋埼沖地震」よりさらに原発に近い震源域を持つM8級の地震が発生する可能性もある。
アウターライズ地震も境界型地震も、M8級だと大きな破壊面積を持つので震動継続時間が長く、遠方に伝わる長周期揺れが襲う。長周期揺れは高層建築物の長い固有震動周期に共振しやすく、耐震設計で予測された力よりも大きな力が構造物にかかる。
東北地方太平洋沖地震でも、東京タワーが長周期の大きな揺れにより先端部を破損した。遠く離れた大阪府庁舎さえ被害を受けた。福島第一原発の排気筒は高さが一二〇メートル以上あるが、大きな揺れに遭遇すると高さ六六メートル付近に力が集中。その結果、主排気管を支える構造材が破損した。
東京電力が望遠鏡で排気筒を調べたところ、排気筒の鋼鉄材のうち八本までが破損するか、その疑いが強い状態だとわかった。八本の破損が全て耐震機能を発揮できない前提で再計算をすると、想定地震動に対して「0・98」という数値が出た。これが1・0以上になると破損し始めると考えられる。ぎりぎりの強度しかないわけだ。
【排気筒のすさまじい汚染】
この排気筒は事故当時、格納容器ベントを行ない大気中に放射能を放出したため、内部が激しく放射能汚染されていることは事故直後からわかっていたが、汚染度があまりに高く、今まで手を付けられないまま放置されてきた。周辺作業どころか通行も困難で、半径一二〇メートルは作業禁止区域、二八メートルでは立ち入り禁止措置が取られているという。
排気筒の一番下では最大で一〇シーベルト以上のきわめて高い放射線を出しており、接近するだけで大量被曝する。この事実は以前から認識されていたが、排気筒に大きな損傷があることがわかったのは今年八月。二年半も実態をつかんでいないことになり、これまで崩落しなかったことは奇跡的だ。
排気筒と、それにつながる配管の高濃度汚染は、重大な問題を各電力会社に課すことになった。
規制基準で要求している格納容器ベントを設置して稼働させた場合、その系統全部が高濃度汚染を免れない。取り付けたベントラインや減衰タンクそのものが高濃度汚染されるため損傷が見つかっても接近して修理できない。事故後の復旧作業にも大きな影響が出るなど問題は多岐にわたる。解体撤去するにも莫大な費用と人手が必要になる。ベントラインがない原発の場合は格納容器の排気系統が同じ問題を持つことになる。
いったいどうやって後始末をするのか。その方針もないままの再稼働の審査は成り立たない。
(山崎久隆・たんぽぽ舎、11月1日号)