『お前なら城島と渡り合えるだろう───。』
俺を呼び出した上司は、開口一番そう言った。
俺の名は【篠岡幸人(しのおかゆきと)】。
【巳浦(みうら)銀行】の金融事業部部長を務めるエリート社員であり、これでも金融業会ではそこそこ名の知れた男のつもりだ。
城島というのは、投資系ファンド【ワールド・クリエイティブ・パートナーズ】代表、【城島博(じょうじまひろし)】のことである。
いわゆるバイアウトファンドと呼ばれる類の会社だ。
城島は以前この【巳浦銀行】で共に仕事したこともある、因縁浅からぬ男だった。
ヤツはその後ちょっとしたトラブルから会社を退職し、しばし職を転々とした後姿をくらましていたが、突如金融業会へと舞い戻り、この【巳浦銀行】の抱える不良債権を初めとして、様々な企業を買い叩いては売り捌いていた。
そんな中、ある大手老舗料亭を経営している会社の株を城島が買い漁っているという情報が入った。
この料亭は長年『一見さんお断り』のスタイルを貫いてきたが不況の煽りを食らって経営が傾いており、城島はそれを立て直した後に株を売り払えば莫大な儲けが出ると考えているようだった。
一方、この料亭の経営会社のメインバンクである我が【巳浦銀行】もある事情により建て直しを自ら行おうと躍起になっていた。
───そこで呼び出されたのが俺である。
『なんとしても城島を出し抜け』との命を受けた俺は、ヤツと対峙することになった。
かつて肩を並べた男が、俺の出世の障害として立ち塞がろうとしている───。
───面白い。
受けて立とうじゃないか。
俺も出世の機会を伺って少々手をこまねいていたところだ。
さっさと上層部の老人共にはご退場願って、頭取の椅子を空けてもらわねばならない。
これはいいチャンスと見るべきだろう。
俺の得意な方法で、お前を出し抜いてやろうじゃないか。
『女』という武器を使ってな───。
俺は不敵な笑みを浮かべ、さっそく資料を手に取った───。
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