抗精神病薬 減薬指針…多剤大量処方の改善急務

 統合失調症患者に複数の抗精神病薬を大量に処方し、強い副作用をもたらす「多剤大量処方」を改めるため、厚生労働省研究班は10月、抗精神病薬の減薬指針を公開した。薬漬け精神医療からの早急な脱却を図る必要がある。

 統合失調症は幻聴や妄想に苦しむ病気で、患者数は約70万人。多くは10代後半から20代で発症する。治療は、抗精神病薬による症状の緩和が中心になる。

 抗精神病薬は、適切に使えば幻聴や妄想を軽減できる。だが、量と種類が増えると手足の震えや意欲低下、高血糖など様々な副作用が表れ、致死的な不整脈で突然死することもある。

 PET(陽電子放射断層撮影)を使った研究では、抗精神病薬の効果は比較的少量で発揮されることが分かった。一定量を超えると体への副作用だけでなく、興奮や妄想など精神的な症状までもが強まることも知られてきた。

 このため、抗精神病薬は薬の切り替え時を除いて1種類(単剤)のみを使うのが原則で、欧米やアジアの主要国では70~90%前後の患者が単剤による治療だ。

 ところが日本では、薬の力で患者の行動を鎮めることが優先され、深刻な副作用が軽視された結果、多剤大量処方が横行した。

 国立精神・神経医療研究センターの調査では、統合失調症の入院患者の42%が精神科医療機関で3種類以上の抗精神病薬を処方されており、単剤で治療する患者の割合は30~40%前後にとどまると見られている。

 今回の減薬指針は、日本で販売される41種類の抗精神病薬を一覧表にし、週あたりにどの量まで減らせるかなどを示した。処方されている複数の抗精神病薬の1種類を段階的に減らし、飲まなくても大丈夫なら次の薬を減らす。最終的には単剤だけの使用を目指す。

 指針をまとめた同センターの山之内芳雄室長は「服薬量を急に減らすと反動で症状が悪化する恐れがある。ゆっくり安全に減らせる速度を示した」と語る。

 だが、この指針は多剤大量処方に苦しむ全患者に対応しているわけではない。

 指針の元となった研究は、「大量処方」と定義される処方量(抗精神病薬クロルプロマジンに換算して1000ミリ・グラム相当)を少し上回る患者が主な対象で、2000ミリ・グラム超の大量処方患者にも指針のような減らし方でいいのかどうかは、はっきりしない。

 抗精神病薬は、量が増えたり、服薬期間が長引いたりするほど減薬が難しくなる。薬漬け状態で何年、何十年と入院する人は多く、こうした患者を対象とした指針作りが求められる。

 2007年に北海道の総合病院に入院し、9日後に心肺停止した38歳の男性患者は、1日最大7種類の抗精神病薬を投与された。クロルプロマジン換算で計6000ミリ・グラムに上り、「呼吸中枢まで抑制されたのでは」との指摘もある。

 男性は意識が戻らぬまま翌年死亡し、現在も民事訴訟が続く。地裁は「心肺停止は抗精神病薬の作用によって生じたものと認めることができる」としながらも、「日本では他の医療機関でも行われてきた処方内容だ」などとして請求を棄却、高裁での棄却を経て、家族は最高裁に上告した。

 多剤大量処方の弊害は、日本でも10年以上前から指摘されていた。しかし、精神科関連学会は明確な指針を示さず、司法や行政が被害者を救うことはなかった。

 今回の減薬指針は、単なるマニュアルにとどまらない。減薬が必要な患者が多く存在し、早急な対応が必要であることを厚労省研究班が明確に示したことに大きな意味がある。学会も国も司法も、もう見て見ぬふりは許されない。減薬の推進と被害状況の調査に全力を傾けるべきだ。(医療部 佐藤光展)


2013年11月13日 読売新聞)

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