〔クロスマーケットアイ〕イエレン氏原稿でムード好転、急な株高・円安進行には歪みも
[東京 14日 ロイター] - イエレン次期米連邦準備理事会(FRB)議長の証言原稿が予想以上にハト派的な内容だったことで流動性相場色が強くなってきた。10月米雇用統計で強まったテーパリング(緩和縮小)観測が後退する一方、米景気は底堅いとの認識はそのまま残っているためだ。景気回復と金融緩和が併存するリスクオン環境となっている。ただ、急激な株高・円安進行には歪みも見え、警戒感を抱く市場関係者も少なくない。 <ハト派色強い証言原稿>
まずイエレン氏の証言原稿が事前に公表されたこと自体がサプライズだった。市場では、実際の質疑応答で、意図していないような受け止め方を市場にされてしまうリスクを警戒したのではないかとの見方が出ている。市場とのコミュニケーションを重視するのがイエレン流であれば、マーケットは安心感を醸成しやすい。
また原稿自体もハト派的な内容だった。失業率について、10月の7.3%は依然高過ぎると指摘。労働市場や経済は潜在能力をかなり下回っているとした。そのうえで、力強い景気回復の実現という条件付きで、最終的にFRBは金融緩和の度合いを縮小することができるとしている。
もともとハト派的な意見を有していたイエレン氏だったが、次期FRB議長就任に関する議会証言であり、量的緩和第3弾(QE3)に批判が多くなっているFRB(米連邦準備理事会)内の意見を組み入れて、中立サイドに寄った認識になるとの見方もあった。それゆえ、もろにハト派の原稿は、想定範囲内とはいえ、市場センチメントを好転させる材料となっている。
三菱東京UFJ銀行シニアマーケットエコノミストの鈴木敏之氏は、原稿内で自動車産業が素晴らしい回復を遂げていると指摘されたことについて、特定産業がこうした証言で取り上げられるのは珍しいと指摘。「民主党の支持母体を念頭に入れてのタカ派意見への抵抗だったのではないか」との見方を示している。
非農業部門雇用者数が上振れた10月米雇用統計などで、米政府機関閉鎖の影響への懸念が後退したものの、同時にテーパリングの観測が強まったことで、積極的なリスクオンを手控えさせていた。イエレン氏の証言原稿が予想以上にハト派だったことで、景気回復と金融緩和が併存する流動性相場色が強まっている。
<急伸するNT倍率>
日経平均 は、これまでの抵抗線だった1万4700─1万4800円を突破し、取引時間中としては5月の急落直後以来となる1万5000円台に接近した。ドル/円も99円台後半まで円安が進行。株高・円安にもかかわらず、円債先物も上昇するなど、流動性が各市場に流れ込んでいる。
ただ、昼休み時間中に株高・円安を加速させた材料とされたのは、麻生太郎財務相が、為替介入という政策手段を有しておくことは大事だと発言したこと。「一方的な円安、急激な円高といった動きにはきちんとしたシグナルを送り、一方的な動きを止める。短期的利益を目的とした投機筋に対抗できるものを持っていないと迷惑をこうむるのは国民だ」と内容はごく一般的で、日経平均とドル円を大台に迫らせるほどの材料とは言いにくい。
日経平均は午後2時時点で約2.5%の急伸となっているが、TOPIX の上昇率は約1.5%と1%の開きがある。日経平均とTOPIXの比率であるNT倍率 は12.2ポイントまで上昇し、6月11日以来の高さとなった。NT倍率は5月に日本株が急落した時も上昇傾向にあったため、「当時を想起させる」(外資系証券トレーダー)との指摘もあった。
実際、日本株の押し上げ要因はもっぱら海外材料で、中身が薄い。
朝方発表された7─9月期の実質国内総生産(GDP)は年率1.9%増と若干ながら市場予想値を上回ったが、「上振れの主因は在庫の増加。消費増税に伴う駆け込み需要に備えた動きの可能性があり、前向きに楽観的にとらえることは難しい」(三菱UFJモルガン・スタンレー証券・シニア・マーケットエコノミストの戸内修自氏)と厳しい見方も多かった。
イエレン氏のハト派原稿でもドル/円ではドル安・円高が進まなかったのは、「株高によるリスクオンの円売りが大きい」(東海東京調査センター・シニアストラテジストの柴田秀樹氏)という。株高基調が止まれば、円安も止まり、相互に見合う展開に逆戻りする可能性もある。 SMBCフレンド証券チーフストラテジストの松野利彦氏は「円安が進んでおり、リスクオンムードが高まっている。日経平均が1万5000円の大台を突破するのも難しくないだろう。ただ、アベノミクスに対する失望感は日々強くなっており、海外材料や為替動向次第の展開は変わらない」との見方を示している。 <東京市場 14日> ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
日経平均 国債先物12月限 国債331回債 ドル/円(12:00) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 14771.48円 145.09円 0.595% 99.60/62円 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
+204.32円 +0.19円 -0.005% 99.21/23円 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 注:日経平均、国債先物、現物の価格は前引けの値。
下段は前営業日終値比。為替はNY午後5時。
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