原爆症認定基準 緩和に慎重な報告書案11月14日 18時25分
原爆症の認定制度の見直しに向けた協議を行っている厚生労働省の検討会は、今の認定基準について「すでに科学的に放射線の影響が明確ではない範囲まで認定範囲を広げている」などとして、基準の緩和に慎重な内容の報告書の案を示しました。
原爆症の認定を巡って、国は、5年前に爆心地の3.5キロ以内で被ばくするなどしてがんや白血病など放射線が原因と認められる病気になった被爆者について、積極的に認定する方針を出しました。
しかし、その後も認定されなかった被爆者が訴えた裁判で国側の敗訴が相次いだため、厚生労働省が検討会を設けて認定制度の見直しに向けた協議を進めていて、14日、報告書の案が示されました。
この中では、今の認定基準について「すでに科学的に放射線の影響が明確ではない範囲まで積極的に認定する範囲を広げていて、これ以上、緩和することは慎重に考えるべきとの意見が委員の間で多数だった」としています。
そのうえで、被爆者側が、がんと白血病以外の病気について認定されない人が多いとして改善を求めていたのに対し「低い放射線量での影響は認められず、がんなどと同じように扱うのは適当ではないとの意見が多数だった」としていて、認定基準の緩和に慎重な内容となっています。
一方で「援護の観点から積極的に認定する範囲をさらに拡大すべきという意見があった」ともしています。
検討会は、年内に報告書をまとめることにしています。
被団協「報告書は改善につながらない」
日本被団協=日本原水爆被害者団体協議会の田中煕巳事務局長は「報告書の案では全く認定の拡大にならないし、改善にもつながらない。被爆者に寄り添う報告書になるよう、次回の検討会でも主張していきたい」と話しています。
国と被爆者の認識の隔たり埋まらず
原爆症の認定を巡っては、今も国と被爆者の認識に隔たりがあります。
国による原爆症の認定を巡っては、各地の裁判で「国は放射線の影響を過小評価している可能性があり科学的根拠をあまりに厳密に求めることは、被爆者の救済制度の趣旨にも沿わない」などとして国の敗訴が相次ぎ、平成20年4月、国は認定基準を緩和しました。
それまでは爆心地からの距離に応じて被爆した放射線量を推定し、さらに性別や年齢を加味して病気の種類ごとに発症リスクを数値化した「原因確率」に基づき認定が行われていました。
例えば、当時14歳の男性で、その後、大腸がんになったケースでは、爆心地から1.5キロの場合、原因確率は30%、2キロの場合、原因確率は7.2%です。
このうち爆心地から2キロで被爆した人は、原因確率が10%未満のため原爆症と認められません。
一方、新しい基準では、爆心地から3.5キロ以内で被爆したり、原爆投下から100時間以内に爆心地から2キロ以内に入ったりした人で、放射線の影響によるとみられる特定の病気になった場合は、格段に反対すべき理由がないかぎり積極的に認定することになりました。
この結果、がんと白血病については、原爆症と認められるケースが多くなりました。
しかし、新しい基準の導入から3年間の審査結果をみると、3.5キロ以内の被爆者を対象にしたケースでは、8466件のうち認められたのは4909件、ほぼ100時間に当たる4日以内の被爆者を対象にしたケースでは、3089件のうち認められたのは1780件と、共に全体の58%となっています。
40%余りが認められなかった理由について、厚生労働省は、病気と放射線との因果関係が認められないことや治療の必要性がないことなどを挙げていますが、国と被爆者の認識の隔たりは今も埋まっていません。
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