地球温暖化防止の有力な手段として、世界で再評価の機運が高まる原子力発電。技術力と実績で世界有数の実力を自負してきた日本だが、最近の商談では韓国、ロシアに連敗。思わぬ苦杯をなめた。新興勢力の台頭に身構える日本勢にとって、ライバルは韓国、ロシアだけではない。本当の脅威は、今や世界最大の原発建設国となった中国だ。
中国・浙江省の三門原発。建設現場では、米ウエスチングハウスの新型加圧水型軽水炉(PWR)「AP1000」の建設が着々と進む。巨大なドーム形の格納容器がクレーンで据え付けられ、徐々に姿を現し始めた。
中国は1980年代から原子力の導入に着手。日本原子力産業協会によると、現在、運転中が11基。26基が建設中で、世界全体の建設案件(66基)の半分に迫る。計画中のプラントも10基あり、世界最大の原発建設国だ。
原発について「適度な開発」を掲げてきた中国が、「積極的開発」にカジを切ったのは2005年。背景には急速な経済成長でエネルギー消費量が急増したことがある。中国は08年に世界最大のエネルギー生産国となり、同2位のエネルギー消費国になった。エネルギー消費の7割を石炭に頼る構造を変えないと、温暖化ガスの排出も増え続ける。
そこでクローズアップされたのが原発と再生可能エネルギーだ。胡錦濤国家主席は昨年9月、ニューヨークで開かれた国連気候変動サミットで、「1次エネルギー消費に占める非化石燃料の割合を20年までに約15%に引き上げるべく努力する」と発言。エネルギーミックスの改善に全力を挙げる姿勢を打ち出した。
中国の原発は外国からの技術導入で始まったが、自動車など他の産業と同様、国産化が基本戦略だ。原子炉容器、蒸気発生器、炉内構造物、冷却材ポンプなど主要機器は国産化のための研究開発(R&D)を独自に推進。大型機器の生産拠点3カ所、重機の生産拠点2カ所をすでに設立している。中国核能行業(原子力産業)協会の揚岐副理事長は「現行の第2世代の原子炉の国産化率は80%を上回り、第3世代の『AP1000』も国産化が加速している」と、技術力は急速に向上していると語る。
日本にとっての問題は、技術力を身に付けた中国がいつ原発輸出に本腰を入れるかだろう。揚岐氏は「我々はすでにパキスタンに原発を輸出している。将来も輸出を計画している」と語り、原発輸出に意欲的だ。
日本はアブダビ首長国の商談で韓国に敗退。ベトナム第1期の商談でロシアに受注をさらわれた。企業経営者出身の李明博(イ・ミョンバク)大統領による強力なトップセールスや、軍需品とセットに原発を売り込んだロシアの手腕に話題が集まるが、経済産業省の幹部は「韓国やロシアとの競合は局地戦にすぎない。本当の戦いは中国が世界市場に本格参戦してきたときだ」と警戒する。
これに対して、あるメーカー幹部は「中国は自国の原発建設で手いっぱい。輸出に目を向けるのは当面先だろう」と語る。それは事実だが、国内の建設ラッシュが一段落すれば、巨大な生産能力を抱える中国企業が海外に市場を求めるのは間違いない。豊富な建設実績は、機器だけでなく、エンジニアリングやプロジェクト管理の能力も飛躍的に高めるはずだ。
目下のところ、世界最多の104基が稼働する米国は、東芝―米ウエスチングハウス(WH)連合、日立製作所―米ゼネラル・エレクトリック(GE)連合、三菱重工業、仏アレバといった先進国企業が新設案件をすべて押さえ、韓国など新興国に立ち入るすきを与えていない。欧州も同じで、先進国市場における日米仏メーカーの優位は簡単に揺るがないだろう。
だが、新興国に目を向ければ状況は一変する。東南アジアや中近東、アフリカなどでは、雨後のたけのこのように原発の新規導入計画が相次いでいる。こうした国々は、世界経済で存在感を増す中国との関係強化も視野に、「メード・イン・チャイナ」を選択する可能性はある。
アブダビ、ベトナムでの敗戦を受け、日本は官主導で巻き返し策を練っている。電力会社とメーカーが一体になって海外受注を目指す「オールジャパン」の新会社構想もその一環だ。原子力産業の国際競争力強化を目指すなら、中国が原発の輸出大国になる日を見据えた議論が欠かせない。
(産業部 鈴木壮太郎)
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