2013年11月5日(火)

「反米」めぐり揺れるイラン

髙尾
「長年にわたり、アメリカを敵視してきたイラン。
そのイランが『反米』を掲げるきっかけの1つとなったアメリカ大使館占拠事件から、34年がたちました。」



鎌倉
「欧米との関係改善を目指すロウハニ政権の誕生で、イランでは、今年(2013年)は例年とは違う11月4日を迎えました。」

“アメリカに死を” 反米スローガンは今

デモ隊
「アメリカに死を!
アメリカに死を!」

禰津記者
「あちらが、かつてのアメリカ大使館です。
周辺には、『アメリカに死を』と叫びながら、多くの参加者が集まっています。」

4日、イラン各地で行われた反米デモ。
アメリカとの対立を決定づけた大使館占拠事件の日、11月4日に毎年、繰り返されてきました。

34年前に起きた、アメリカ大使館占拠事件。
当時の最高指導者、ホメイニ師を支持する数百人の学生が大使館に突入し、大使館員50人以上を人質にとりました。
学生たちはその後、444日間にわたって大使館を占拠。
アメリカは人質救出のための軍事作戦を試みますが、失敗に終わります。
この事件をきっかけに、両国は国交を断絶。
イランは「アメリカに死を」というスローガンを掲げ、対立の歴史が始まったのです。

反米スローガンに変化の兆し

34年たった今年。
イランの反米ムードに大きな転機が訪れました。
ロウハニ大統領の就任で、イランはアメリカとの関係改善に向けて、かじを切ったのです。

イラン ロウハニ大統領
「イランはアメリカとの緊張状態が、これ以上続くことを望んでいない。」




対立の火種となってきた核開発問題についても、先月(10月)、初の共同声明がまとめられ、イランの歩み寄りが見られる形となりました。
ロウハニ大統領の後ろだてで穏健派の重鎮、ラフサンジャニ元大統領も先月、みずからのウェブサイトに、こんな書き込みを…。




“ホメイニ師は「アメリカに死を」のスローガン廃止を検討していた”

反米のスローガンは、もはや廃止すべきだという持論を展開しました。
欧米から制裁を受け、苦しい生活を余儀なくされてきた市民たちも、「アメリカに死を」というスローガンに、違和感を覚え始めています。



市民
「アメリカと交渉しながら、“アメリカに死を”と言うなんておかしいよ。」




市民
「こんなスローガン、根本的に間違ってるわ。」




街中では、こんな変化も…。

タクシー運転手
「あの電光掲示板の隣にあった、米を批判する看板が数日前に撤去されたよ。」



反米に批判的な機運が高まる中で、意外な人物もアメリカとの関係改善を訴えています。
アメリカ大使館占拠事件を主導した元実行犯、アッバス・アブディ氏です。

米大使館占拠事件の元実行犯 アッバス・アブディ氏
「これは事件当時の私です。」

アブティ氏は、イランに対するアメリカの政策に変化が見られるとして、今こそ、アメリカとの関係を改善すべきだと主張しています。

米大使館占拠事件の元実行犯 アッバス・アブディ氏
「今は、アメリカとイランの緊張を緩和させる最大のチャンスだ。
両国は、もっと共通の国益を重視するべきだと思う。
相違点でぶつかり合うよりも、共通点で協力していくべきだ。」

“アメリカに死を” 巻き返し図る強硬派

一方、こうした穏健派の台頭で、アメリカに急接近していることに強い警戒感を抱く人たちもいます。
反米デモが行われる2日前、旧アメリカ大使館には、保守強硬派の人たち600人以上が集まっていました。
これから新たなキャンペーンを展開しようというのです。
その名も、『“アメリカに死を”キャンペーン』。
反米の歌を作って歌ったり…。

“初代指導者のホメイニ師は アメリカが敵だと言った
我々は死ぬまで 妥協してはいけない”

“アメリカに死を!”

アメリカ情報機関による、通信傍受の問題を批判する熱弁をふるったり…。


イラン革命防衛隊幹部
「ヨーロッパの国々は34年たってようやく、米大使館がスパイの巣窟だと気づいたのだ。」

保守強硬派が巻き返しを図っているのです。



そして迎えた、11月4日。
警戒感を強めた保守強硬派が、デモ隊の動員を強化。
例年にない盛り上がりを見せ、数万人が集まりました。
ロウハニ氏と大統領の座を激しく争った保守強硬派のジャリリ氏は、国内に広がる対話ムードに対して、強い口調で引き締めを図りました。


保守強硬派 ジャリリ氏
「“アメリカに死を”のスローガンは、我々の象徴そのものだ。」




デモ隊
「アメリカに死を!
アメリカに死を!」

アメリカに対する立場の違いをめぐり、二極化が進むイランの国内世論。
どちらに向かっていくのか。
今、まさに岐路にさしかかっています。

“反米”と“関係改善” 揺れるイラン市民

髙尾
「ここからは、テヘランで取材にあたっている禰津記者に聞きます。
ロウハニ政権とアメリカとの接近ぶりが、このところ目立っていたわけですけれども、4日の反米集会の勢いなどを見てみますと、強硬派の方もここにきて、巻き返しを図ろうと懸命だという印象なんですが、いかがですか?」

禰津記者
「私も、4日の反米集会が盛り上がりを見せたのは、正直、驚きました。
この日の集会は毎年、行われており、私も取材するのは今回で3回目ですが、これまでで最も多くの人が集まったのではないかと思います。
ただ、今回、集会に集まった人たちの多くは、巻き返しを図ろうとする『民兵組織バシジ』のメンバーなどの動員によるものと見られ、反米意識の高まりが、一般の市民にもそれだけ広がっているかといえば、そうとは言えません。
すでに事件からは34年たち、革命を経験していない国民も6割を越えています。
また、長引く対立による閉塞感、経済の落ち込みで、アメリカとの関係改善のほうが現実的という声は高まっており、これまでの反米一辺倒が、実態に伴わなくなってきているのです。
とはいえ、国民の心情の根底には、アメリカに対しては、関係改善を進めても、すぐに裏切られるのではないかという不信感が根強いのも事実で、ロウハニ大統領としては、アメリカとの関係改善をめぐって、非常に難しいさじ加減が求められていると言えます。」

核協議 間近 ロウハニ政権の出方は

鎌倉
「国民の間に根強く存在している反米の感情、決して無視はできないロウハニ政権にとって、アメリカとの関係で、やはり大きな課題となるのは核問題ですけれども、ロウハニ政権の今後の戦略は、どう見ていますか?」

禰津記者
「ちょうど今週、7日からスイスのジュネーブで欧米との核協議が予定されています。
前回の核協議で、イランは『新たな提案』を行いましたが、これについて、国内の強硬派からは早速、『アメリカに安易に妥協しているのではないか』といった批判が上がっています。
こうした中、今月(11月)3日には、最高指導者ハメネイ師がロウハニ政権を擁護するような演説を行いました。」

イラン最高指導者 ハメネイ師
「ロウハニ大統領らは困難な重責を担っており、全力を尽くしている。
彼らを“妥協者”とみなすべきではない。」



禰津記者
「ロウハニ政権の核交渉姿勢については、国民の75%が支持しているという世論調査の結果もあり、ロウハニ氏の外交姿勢はこれまでのところ、おおむね支持されているようです。
最高指導者ハメネイ師の発言は、こうした世論を考慮したものと見られ、当面はロウハニ大統領の外交政策を見守る方針と見られます。
ただ、ロウハニ政権にとっては、交渉で制裁の大幅解除といった有利な成果が出せなければ、強硬派が勢いを吹き返して、国民の不満は高まり、最高指導者からの後押しも一気に失いかねないリスクもはらんでいます。
7日からの核協議では、いよいよ欧米側との具体的な条件をめぐる交渉が始まります。
ロウハニ政権としては、国内の強硬派から『安易な妥協』との批判をかわしながら、かつ欧米側にも納得が得られる、絶妙な落としどころを見い出すことができるのかが焦点となります。」

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