同原発の事業母体である南カリフォルニア・エジソン社(SCE)は再稼働を目指したが地元住民らの反発で断念。今年6月に2基の原発の廃炉を決め、損害賠償を三菱重工に求める方針を通告してきた。10月半ばに明らかになったSCEの賠償請求額は40億ドル(約3900億円)。三菱重工は「不適切な内容で根拠がない。契約上の責任上限は1億3700万ドル(約135億円)だ」と反論しており、双方は国際的な仲裁機関である国際商業会議所(パリ)で争う構え。
三菱重工のみならず、原発メーカーにとって衝撃だったのは、契約で定めた賠償の上限を超えた金額を請求されたことだろう。この件では米原子力規制委員会(NRC)も今年9月、三菱重工が細管の摩耗を予測するシミュレーションで使用した「コンピューターモデルが不適切だったことが、蒸気発生器の設計の欠陥につながった」と文書で指摘している。海外の原発プロジェクトでいったんトラブルや事故を起こせば、国民の関心が強いだけに、官民そろって責任追及に動くという現実を原発メーカーは見せつけられた。
サンオノフレのケースは原発先進国の米国が舞台であり、交換用部品の納入がトラブルの端緒だったが、昨今の日本勢が受注活動に熱心な欧州やアジア、中東の原発市場では事業母体に出資を余儀なくされたり、数十年間の運転保証を求められるなど、各社が背負うリスクは膨らむ一方だ。
インドでは9月に法務長官が原発事故による損害賠償の請求権について「行使を希望するかどうかは原発の運営者が決められる」との法解釈を示し、同国での原発推進のネックになっていた「厳格な製造物責任の追及」が緩和されたと歓迎する声が世界の原発関係者の間に広がった。ただ、この発言がインドでの原発ビジネスのハードルを下げることになるというのは早計かもしれない。いったん深刻な事故が起き、多大な犠牲者が出れば、責任追及は“政治”の色彩を帯びてくるからだ。
■「原子力事業、商業的には成り立たない」
運営者がトラブルや事故を起こした原発のメーカーに寛大な対応をすることは考えにくい。国民感情を考慮するなら、メーカーが外国企業の場合は特にそうだろう。サンオノフレのケースでいえば、運営者は巨額の賠償請求を突きつけたSCEであり、監督当局のNRCも同調している。三菱重工の責任追及には地元カリフォルニア州選出の上院議員も暗躍した。
原発ビジネスはセールスからリスク管理に至るまで政治の関与がますます不可欠になりつつある。
「いまの原子力は『国家事業』だ。つまり商業的には成り立たない」(10月10日付日本経済新聞朝刊「真相深層」)
米ゼネラル・エレクトリック(GE)のジェフ・イメルト会長兼最高経営責任者(CEO)のこの指摘は確かに的を射ている。日本政府や原発メーカーの経営者はどう解釈するだろうか。
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