トルコ国内にも当然、原発反対運動がある。シノプ地区は1986年のチェルノブイリ原発事故で小麦や生乳に放射能被害が及び、黒海産の水産物も風評被害に遭遇した経緯があり、地元の農業、漁業関係者を中心に根強い反対運動がある。原発建設で生まれる雇用や地元への助成金、さらに高い経済成長などで反対運動の広がりは限定的だが、その抑制効果もエルドアン首相率いる現政権の指導力に左右される。
■地震国トルコ、原発反対運動も
今年5月末にイスタンブールで起きた反政府デモは五輪誘致をにらんで進められた都心の再開発計画に対する環境活動家らの抗議(公園の樹木伐採に反対する座り込み)がきっかけであり、そこに現政権の強権政治に不満を持つ世俗派市民が合流して規模が拡大した。高速道路や原発の建設にも批判の矛先が向いており、エルドアン政権のリーダーシップが揺らげばこれらのプロジェクトの先行きが不透明になることは十分考えられる。
さらにトルコの原発プロジェクトで懸念されるのは度重なる計画変更やシビアな契約交渉。シノプ原発を巡っては2010年以降、最初に優先交渉権を持っていた韓国が受注に際してトルコ側の政府保証を求めたために同年11月に決裂、次に東芝や東京電力を中心にした日本勢が交渉相手となったが、11年3月の福島第1原発事故で東電が撤退したため受注活動は白紙に戻った。
12年2月に韓国の李明博大統領(当時)がトルコを訪問して韓国との交渉が再開したが、これも首尾よくいかず、同年4月にはエルドアン首相が訪中して原子力協定を締結。一時は原子力関係者の間で「シノプは中国で決まり」とまでいわれたが、昨年末から年明けにかけ、三菱・アレバの日仏連合が新たに浮上。今年5月には受注内定にこぎ着けた。背景には、サルコジ前政権時代には欧州連合(EU)加盟問題などを巡って悪化していたフランスとトルコの関係がオランド政権になって劇的に改善したことに加え、日本でも原発輸出に前向きな安倍政権が誕生したことがあると解説されている。原発プロジェクトの政治色の濃さを象徴するエピソードといえる。
相手を目まぐるしく替える交渉術は条件面のどん欲さの裏返しでもある。一部報道によると、ロスアトムが受注したアックユ原発は建設費がロシア側の全額負担で電力供給計画の保証義務も負わせた。トルコ電力卸売公社が原発稼働後15年間の電力購入契約を結び、建設費相当額を支払っていく。スマートフォンやタブレット(多機能携帯端末)の分割払いの仕組みに似ており、トルコ側の資金負担(調達コストなど)は大幅に軽減される。これから本格化するシノプ原発のファイナンス交渉でも同様の要求があると見て間違いなさそうだ。
こうした原発セールスをめぐるディスカウント交渉はトルコだけの専売特許ではない。欧州やアジア、中東などの各国の原発市場にフランス、ロシア、日本、中国、韓国、それに米国のメーカーがひしめき、それぞれ政府を巻き込んで熾烈(しれつ)な受注競争を繰り広げている。昨今、受注獲得が目立つのはロシアと中国でいずれも国ぐるみの手厚い資金支援を売り物にしている。例えば、今年8月に決まったパキスタン南部カラチの原発計画(100キロワット級2基を建設)は中国核工業集団(CNNC)の受注が見込まれ、1兆円近い建設費の7割強を中国が融資すると報じられている。
トルコへの原発輸出が注目を集めている。三菱重工業などが参加する国際コンソーシアムが10月30日、トルコ政府と原発建設のフィージビリティースタディー(FS=事業化可能性調査)の枠組みについて正式合意に…続き (11/11)
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