[フォーデイズ株式会社代表取締役社長]和田佳子氏[大人の寺子屋 縁かいな主宰・感動CSコーチ]上田比呂志氏
和田:今日は注目の和の心のコーチングのお話をうかがえるとワクワクしながら参りました。上田さんは東京・四谷のお生まれで、お家は料亭をなさっていたそうですね。大学を卒業されて就職なさったのは三越。三越を志望されたのはディズニーランドで働くチャンスがあるからだったというのはほんとうですか。
上田:そうなんです。三越にはディズニーと提携業務があり、ディズニー大学へ研修に行く制度がありました。入社してみたら研修生になるのは大変な難関で、3度目の挑戦に合格したときは年齢制限ぎりぎりでした。ディズニーがなぜ日本のデパート三越と提携していたかというと、ウォルト・ディズニーは日本の行き届いたおもてなしの心をサービスに取り入れたかったからです。私は三越の接客のすばらしさとディズニーの徹底したサービスのしくみのなかで働いて、私の祖母や母が料亭で行っていたもてなしや気づかいがすごいものであることに改めて気づいたのです。
和田:私は事業を起こして15年目になりますが、人間として信頼されなければお勧めする商品も信頼されないという信念のもとに、ネットワークビジネスの形をとっています。おかげさまで会員さんが27万人を超え、リーダーとして組織を引っ張る人も多くなりました。しかし最近は意思疎通の難しさを痛感しています。上田さんはグアム三越の社長兼ティファニーブティック支配人も務められたそうですね。海外で外国人スタッフを束ねて成功に導くことは並大抵ではなかったのではありませんか。
上田:グアム赴任はピンチヒッターでした。行ってみると、スタッフの気持ちはバラバラ、社員同士のコミュニケーションも全然うまくいっていない険悪なムードです。これはダメだとすぐに私は、自分も1日2時間、店頭に立ってお客様の把握とスタッフへの声掛けを開始しました。スタッフがいったい何を考えているのか、自分の目で確かめようと思ったのです。ディズニーで学んだ方式を取り入れて、2人1組のペアを組ませ、ひとりはお客様のお相手をして、もうひとりは品物を包んだり入金したりとサポートに回る。そして何につけても互いに「サンキュー」と感謝の言葉をかけあい、互いのよいところを見るように指導しました。ふしぎなもので、よいところを見るようにしていくとコミュニケーションが円滑になります。
和田: 日本人同士でも考え方の異なる大勢の人が働く職場ではコミュニケーションが大事ですが、そこに外国人が加わるとさらに大変でしょうね。
上田:グアムの職場ではチョモロ人、アメリカ人、フィリピン人、そして日本人が働いていました。言葉も違うし、考え方も異なります。私は「私たちは何によって給料を貰っているかを考えて、一緒にがんばっていかなければいけない」という話を、繰り返し伝えました。
和田: 相手を知ることも大切なのではありませんか。私どもフォーデイズのビジネスに参加なさっている会員さんは、人それぞれ違う目的をお持ちです。人によって感じ方が異なるので、その人の目的を認めて、またその人の性格や状況に合わせてこちらが臨機応変に対応することを私は心がけています。
上田:ひとつのチームに所属している以上、チームの目標がありますよね。個人のチームへの参加目的と、チームの目標をどうリンクさせてあげられるか、そして、それに気づかせてあげられるかも上司の手腕だと思います。これが実はコーチングなのです。
和田:ラフティングの全日本チームをコーチングなさったそうですね。
上田:はい。ラフティングは川の急流をボート(ラフト)で下るスポーツで、6人1組で行うチームプレイです。日本代表チームは世界大会でいつもいいところまで行くのですが、銀メダル止まり。金メダルが悲願だったのです。その代表チームのキャプテンの池田拓也さんのコーチングをしました。初めてお会いした池田さんは、指名されたばかりでキャプテンとして何をすべきかがわからない様子でした。そこでチームの心をひとつにすることに私たちの目標を定めました。池田さんにはチームメイトみんなで映画を観たり、読書会をして、互いを深く知り合うようになることを勧めました。互いが互いの人間性に触れ、認め合うようになることで、絆が深まります。そしてチームワークをつくっていく池田キャプテンにみんなが尊敬の念を抱くようになる。元料亭のスペースで作務衣を着て、8か月セッションしました。
和田:その結果、金メダルを取ることができたのですから、よかったですね。
上田:有難うございます。得難い経験でした。コーチングは人に磨かれることです。企業の売上高の達成という目標でも、企業と個人ではアプローチの仕方が違います。どの部分を共有化していくかは、マネジメントの役割だと思います。
和田:私どもの主力商品は核酸ドリンクという健康飲料で、働く大目的はその普及で一致しているのですが、目標設定では個人差が大きく出ます。自分がこれを利用してよかったから機会があれば人にもそれを伝えたいという方もいらっしゃれば、効率よく普及を図るしくみを作りたいという方もいらっしゃる。上田さんはお仕事にどんな目標を置いていらっしゃいますか。
上田:人間は自分の存在が認められたとき、人の役に立てたときに喜びを感じ、「生きててよかった」と素直に思うものです。三越にいたときには、接客したお客様から「いい買い物ができた。あなたから買えてよかった」といわれると幸せを感じました。その前に、お客様が楽しそうに品選びをなさっている姿を見るのが大好きでした。現在は講演の後で「よかった」と声を掛けられたりすると、心に花束を戴いたような高揚した気持ちになります。
和田:喜ばれる喜びですね。それはお育ちになった環境も関係しているのではありませんか。
上田:確かに子どものころの生活環境はその後の人生に大きく影響していると感じます。実家は財界人や政治家がお見えになるような料亭でした。私も小学生のころから手伝いをさせられましたので、みんなで仕事をする楽しさ、接客の喜びを肌で覚えました。
また、三越時代には「喜びはみんなで分かち合うことで掛け算になり倍増する。問題はみんなで分解することで割り算になる」という言葉に学びました。誰にでも通らなければならないいばらの道も、そこを通った誰かがくぐり抜け方を教えてくれる。「情けは人のためならず」というすばらしいことわざがありますが、人のために尽くせば、結局は自分に返ってくると思います。
和田:ほんとうにそうですね。私もダイバーシティというのでしょうか、いろいろな価値観を認めて相手を思いやることが大切だと思います。みなさんそれぞれの体験や事情があって、考え方もおひとりおひとり違いますから、こちらの思いを押し付けないように気をつけています。
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上田比呂志氏うえだ ひろし
1982年三越入社。三越多摩センター店副支配人、グアム三越社長兼ティファニーブティック支配人、フロリダディズニーワールドエピコッ トセンター・ジャパンパビリオンディレクターなどを務め、2005年三越退社。生家の料亭を改装した「大人の寺子屋 縁かいな」を拠点に コーチング業を起業。著書『ディズニーと三越で学んできた 日本人にしかできない「気づかい」の習慣』(クロスメディア・パブリッシング)。
和田佳子氏わだ けいこ
明治大学政経学部卒。化粧品会社ノエビア勤務13年等を経て、1997年フォーデイズ株式会社を創業。「ナチュラルDNコラーゲン」の商品開発と、既存のネットワーク系ビジネスとは一線を画す独自の販売システムにより、2011年まで12期連続増収を達成。年商350億円を超える企業のリーダーとして現在に至る。著書に『なぜ9割もリピーターになるのか』(ダイヤモンド社)。