「お前が使えるかどうか、試してくれ」
 僕がこくりとうなずくと、将軍は、僕と距離を置いた。
 念のために言うと、僕は、どちらかというと、剣術は、そこまで得意じゃない。僕は、人間よりもはるかに力が強く、そして、早さも、人間の比ではない。そのため、徒手空拳での戦闘が主だ。また、普段使っている剣も、刃渡りで言うと30センチほどの長さしかない。そもそも、こんな長い剣の場合だと、必ず大振りになってしまい、隙ができる。ほとんど単独で行動している僕にとっては、このような大剣は、むしろ邪魔になってしまうのだ。
 それは、人間でも、同じ事が言える。確かに、大剣を大きく振り回し、敵を寄せ付けないようにするという効果はある。が、それは集団での戦闘を想定した場合だし、それに、そもそもそのような戦闘が行われるような機会そのものがない。
 なので、どちらかというと、こうした大剣は、何らかの儀礼の為に使われるのが常なのだ。が、しかし儀礼用に使用される剣ならば、何らかの装飾が施されているはず。その剣には、それが、例の文字以外、一切ない。
 そうした、ただの飾り以外に何の意味もない細工がなくとも。その剣は、美しい。
 無駄のない形状。完璧な左右対称の両刃。刃こぼれも全くない。切っ先の鋭い角度。そのすべてが、洗練された美しさを持っている。
 そして、この、独特の、青。この剣は、何でできているんだろうか。
 まあ、いいや。ともかく、将軍の注文を聞いておかなきゃ。
 まず、右手で柄を握り、切っ先を軸に剣を起こそうとしてみる。
 う…
 剣の重みが、ずっしりと伝わってくる。見た目以上に、重そうな感じだ。
 一端、剣から、手を離す。いけそうか、という将軍の問いかけに、手のひらを将軍に向け、ちょっと待っててと合図を送る。
 目を閉じ、大きく、ゆっくりと、深呼吸をはじめる。
 呼吸以外の事を考えず、呼吸のみに意識を集中しする。息をゆっくりと、肺の中にあるすべての空気を、口から追い出していく。そして、肺の中に、新鮮な空気を、今度は鼻から、できるだけ時間をかけて吸い込んでいく。それを三度ほど繰り返し、精神と身体を同調させていく。
 ゆっくりと目を開ける。
 腰を曲げ、まず右手を。そして左手を柄にかける。
 剣をくるりと回し、刃の片側が僕に向ける。
 柄を握る両手に力を入れ、そして、持ち上げる。…あれ? 軽い? なんで?
 納められた箱から離れた剣から、重さが、消えた? いや、重みそのものは確かに感じる。でも、すごく軽い。