騎士団の練習場として使用されているこの広場は、普段なら、騎士やその見習いが、たとえ演習の予定がなくとも、少なくとも数名は汗を流しているはずだ。しかし、呼び出された僕がその場所に訪れてみると、僕を呼び出した将軍以外に人影はない。おそらく、人払いをしているのだろう。
 その将軍はというと、いつもながらの軽装で、広場の中央に、大きな箱の上にどっしりと腰を下ろしている。僕に気がつくと、左手を軽く挙げ、…そもそも彼には右腕が無い…僕を手招きをした。
 僕は、人間の言葉を話すことができない。そのため、手話で意志を伝えることになるのだが、その手話を理解できる者はあまりおらず、もちろん、将軍も解らない。そのため僕は、はいいいえくらいの相づちをうつ程度しかできないし、将軍も、僕に、一方的に話すしかない。とはいえ、彼とは、僕が幼い頃からの付き合いなので、何かを警戒しなければならないような事は何一つない。
「とりあえず、今日の用件は、これだ」
 彼は、先ほどまで座っていた木製の箱を、ぽんぽんと叩いてみせた。
 長さ200センチくらい、幅60センチくらい、高さ40センチくらい。箱の両側には、取っ手がそれぞれ3対取り付けられている。
 飾り気の無い、棺桶のようだ。あの時の記憶が、ふと頭をよぎる。
 僕自身、棺桶を見たことは、まだ、あの時一度きりだけれど。その棺桶より、一回り小さいと思う。人間が入るには、ちと小さいだろう。もちろん、僕も入らないはずだ。
「開けてくれ」
 将軍のその言葉に我に返った僕は、蓋を、丁寧に、横にどけた。そして、その箱の中を覗くと、そこには、一本の剣があった。
 その剣は、不思議な色をしていた。
 剣そのものは、全長160センチほどの、両刃の剣。握りは、両手で持てるほどの長さになっていて、何かの動物の皮が巻かれている。刃渡りは140センチくらいだろうか。見た目からも、かなりの重量がありそうだ。
 そして。その剣は、青い色をしている。はじめは、青い色が塗られているのかと思ったのだが、しかしよく観察してみると、その剣に使われている金属そのものが青いのだ。もちろん、そんな色の金属なぞ、今までみたことがない。それと、この剣の、柄の上部に、小さく、文字が書かれている。それも、人間の文字ではない。それに、この文字には、見覚えが。でも、どうして。