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2013/09/26 UPDATE

「生命だけは平等だ」 理事長のぶれない姿勢に惹かれた事務局長 ~医療法人徳洲会 東京西徳洲会病院 石川さん~

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  • 石川 一郎
  • 事務局長
  • 医療法人 徳洲会 東京西徳洲会病院 1973年設立
  • 病院の運営、診療
  • 売上高 / 約3400億円
  • 従業員数 / 約26000名

http://www.tokushukai.or.jp/

学生interviewer

member

私利私欲なく医療をやってきた理事長に心底惚れた石川さん。私も「自分の人生を預けてもいい」と思えるトップを探し、人生を生き切りたいと思いました。

 


知られざる「病院の裏側」。

―石川さんは事務局で働いていらっしゃるということで、具体的にどのようなお仕事をされているのでしょうか。病院内でお医者様と一緒にお仕事をされることが多いのですか。

医師や看護師、技師といった人員の採用から経理まで事務全般をしています。だいたい65%くらいが病院内での仕事で、35%くらいが病院外での仕事となります。もちろん、病院内で医師や看護師、コメディカルスタッフ(検査技師など)と一緒に仕事をすることが多いですが、営業にも出なければなりませんからね。

―営業、ですか?!具体的には、どのようなお仕事ですか?

いわゆる挨拶回りの仕事です。社長とかトップは仕事を取ってきてナンボなんですよね。「収入をあげる構図」を作るわけですよ。病院にとってのそれは、「収入をあげる医師を連れてくる」ことなんですね。医療報酬は、1点につき10円で、医師が手術をしたら何点、という構図になっています。また、医師が医療行為をするための看護師やコメディカルスタッフもつれてこなければならなりません。今は7割が紹介業者経由で、3割が看護学校や大学の医局への挨拶まわりで採用しています。少子高齢化社会で、需要はあるのに医療従事者が少ない。人を集めるのにも一苦労ですよ。


医療現場はどう変わってきた?

―医療の現場をとりまく環境は40年間で変わってきているとお聞きしたのですが…。

「医療崩壊」という言葉を聞いたことがあるかと思います。かつては1県1医大ということで、医学部の人数を3000人から8000人に増やした時期もありました。しかしそれでも、供給に追いつかないほどのスピードで需要が大きくなっているから、人員不足が深刻になっているんです。さらに2000年には介護保険制度も導入されたでしょう。それ以来、ますます需要が大きくなってきています。これはもはや、国の政治的な面から解決しなければならない問題だと捉えています。

―そんな中、病院の運営の面で何か問題はありませんでしたか。

もちろん大変な時期もありました。私立の病院は黒字を出さなければなりませんからね。しかしそれでも「いつでも、どこでも、誰でもが最善の医療を受けられる社会を目指す」という理念があったからこそ、病院を67拠点まで拡大することができました。


この人の下で働いたら「自分の人生を生き切ることができる」。

―ところで、なぜ石川さんは病院の事務の仕事に就こうと思ったのですか。

理事長の徳田虎雄さんに魅了されたからですね。学生時代、最初は司法試験の勉強をしていました。しかし、「社会に役立つ仕事がしたい」と思って就職先を探し始めました。その際たまたま「徳洲会」を見つけて、説明会に行ったら、理事長の徳田虎雄さんが「生命だけは平等だ」と熱く語って下さったんですね。その講演を聞いた瞬間、「この人の下で働いたら、この人のいる組織に入って働いたら、自分の人生を生き切れる」という感覚を持ちました。だから、徳洲会に就職しました。

―社会に役立つ仕事をして、自分の人生を生き切れる、ということですか。

そうですね。なおかつ、おもしろくて意義のある仕事ができると感じました。それは最初の感覚でしたが、実際に入ってみても、徳田虎雄さんの私利私欲がなく、患者さんのために軸をぶらさない姿勢にますます惹かれました。だからこそ、長い間ずっと、徳田さんの背中を追い続けてきましたね。

―徳田虎雄さんとはずっと一緒に働かれていたのですか。

いいえ、私自身転勤が多いものですから。東北地方の病院にも転勤したこともありましたし、そこでは全県をまわりました。私の信条として「自分が最も必要とされるところに動く」と考えています。さらに、徳洲会病院はここ40年で4拠点から67拠点にまで増えました。だからこそ色々な病院をまわりました。今では海外にも病院があるんですよ。


いつでも、どこでも、だれでもが最善の医療を受けられる社会を目指して。

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―徳田虎雄さんについて詳しく教えていただけますか。

徳田虎雄さんは、徳之島という離島のご出身で、小学校3年生のときに実の弟さんを、医者に診てもらえなかったことが原因で亡くしているんです。その経験が、自分も誰でも診ることのできる医者になろうと決意した原点なんだそうです。その思いを大阪大学医学部に入ってからも持ち続けて、「医療に恵まれない地域に病院をつくる」という夢を、日本中、さらには海外でも実現させてきました。だから、医療に忠誠心を誓う、そんな方です。現在はALSという難病を発病されて、自力では呼吸さえできない状態にあります。しかしそんな中でも、視察のために北海道から沖縄まで全国各地を車いすで飛び回っています。

―一緒に働いている方は、徳田さんのそういったビジョンに共感されている方が多いのですか?

中枢にいる方はそういう方が多いですね。私たちの組織は「いつでも、どこでも、だれでもが最善の医療を受けられる社会を目指して」という理念・哲学を一貫して持ち続けていますから。より詳しい理念は「生命を安心して預けられる病院」「健康と生活を守る病院」の2つで、この理念を実行する方法が6つ(※)あり、これらを毎朝職員で唱和しています。


1.年中無休・24時間オープン
2.入院補償金・総室(大部屋)の室料差額冷暖房費等一切無料
3.健康保険の3割負担金も困っている人には猶予する
4.生活資金の立替・供与をする
5.患者さまからの贈り物は一切受け取らない
6.医療技術・診療態度の向上にたえず努力する

―理念の実行方法がとても具体的ですね。当初からこのような方針だったのでしょうか。

そうですね。徳洲会病院の第1号病院が大阪にオープンした1973年あたりなんかは、救急患者のたらいまわしが当たり前でした。そんな中、徳田虎雄さんが「年中無休・24時間オープン」を掲げ、救急を断らない病院として、病院社会に一石を投じたんです。まさに「医療革命」ですよね。


「解決できないことはない」と思っている。

―少し質問が変わりますが、一緒に働いている方で尊敬している方というのはいらっしゃいますか。

まじめな人、与えられたことをきちんとこなす人は、上司・部下、役職関係なく尊敬しています。というのも、我々が普段、問題なく仕事ができるのも部下の皆さんがきちんと仕事をしてくれているからなんですよね。部下の皆さんがきちんと仕事をしてくれなかったら、まわるものもまわらないですからね。

―そのような部下の方を育てるという点で、普段から何か気を付けていることはありますか。

個人個人が生き生きと働けるような職場づくりに努めています。組織構造というのは、上にいけばいくほど、ストレスも責任も大きくなるんですよ。だからこそ、八つ当たりができちゃう。でも、八つ当たりをしてしまったら、部下は委縮してしまう。そうならないために、大局的に物事を見るとか、部下と同じレベルに立たないとか、常に余裕を持つことを心がけています。下から見透かされるようなトップではやっていけないと思っていますからね。

―事務局のトップとして、余裕を持つために心がけていることは何ですか。

「解決できないことはない」という気持ちでいることですかね。時間が解決してくれることも多いですし。やはりトップなので、人間関係などストレスはたくさんあります。しかしトップは「誰とでも話せる関係を作っておかなければならない」と思っています。田中角栄元首相の「いかに味方を多くつけるかではなく、いかに敵を作らないか」という言葉がとても印象に残っています。頼みごとがあるとき、敵だったら引き受けてくれない。しかし、味方でも敵でもない中間層は引き受けてくれる。だから、「いかに頼みごとを引きうけてくれる人を多くもつか」ということがトップにとってとても重要になってくるんです。


動き続けることが大切!

―トップになるまでに相当苦労されたのではないですか。

そうでもないですね。争いごとは基本的に好きではないですから。常に一生懸命やっていれば、自然と結果や地位はついてくるものです。

―今までに辛かったことやプレッシャーを感じたことを教えてください。

実際のところ、やめたいと思うほど辛いことはありませんでしたね。もちろん失敗はありましたし、地位が上がっていくにつれて責任が大きくなって、失敗が許されない状況もありました。たとえば「赤字を出してはいけない!」とかですかね。

―プレッシャーに打ち勝つ方法はありますか?

動き続けることでしょうね。より動き続けることで、なんだかんだ打開策が出てくるんです。例えば、赤字が出るということは必要なスタッフを集めきれていないということ。そのためには情報を集めて、ドクターに会いに行ったり、紹介業者に依頼したりすることで、問題解決ができるんです。だからこそ、行動することが大切なんです。


「これをやったら死ねる」と思えるものを大切に!

―学生へのメッセージをお願いします。

徳田虎雄さんも仰っているのですが、一回しかない人生なのですから、「自己実現」つまり「これをやったら死ねる」と思うものを大切にしてください。私自身も「自分が生き切れると思える組織」という点を大切にしてきました。仕事は人生の中でも3分の1を占める大きな要素です。だからこそ「どういう人生を送りたいか」「どういう仕事がしたいか」という切り口から、仕事の内容はある程度決まってくるのではないでしょうか。

―「どういう生き方をしたいのか」分らない学生がいたら、どのようなアドバイスをしますか?

それぞれの仕事や人に意義を持つ、理論づけはできると思うんですよ。ただ、そんな中、トップの背中を見て職員は働いていくわけですから、トップがどういう理念を持って、どういう姿勢で仕事をしているのかに着目してみるのもひとつの切り口かと思います。私にとって徳田虎雄さんは「私利私欲なく医療をやってきた人物」ですから、長年背中を見てきたんです。単に「金儲けをしたい」という理念を持っている人についていきたいと思いますか?真に共感できる理念を持っていて「自分の人生を預けてもいい」と思えるトップと仕事をしてみるのも、ひとつの楽しみだと思います。

―ありがとうございました!

(おわり)

~取材を終えて~ 経営学部 高橋 杏奈
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初めての取材で少し緊張していましたが、石川さんはとても優しくて気さくな方だったので、安心して取材に臨むことができました。病院の事務は普段なかなか接することの少ない職業だと思いますが、採用から経理まで幅広い仕事、さらに病院を運営するにあたってなくてはならない大きな仕事をしていて、まさに「縁の下の力持ち」の仕事だと感じました。こうした病院の事務の方の仕事がなければ、私たちは安定した医療を受けられないのだと、改めて感じました。また、理事長である徳田虎雄さんの社会に一石を投じる姿勢に胸が熱くなりました。