大きく考えて

原題:Think big
グレゴリイ・ベンフォード

 惑星大気中に二酸化硫黄の強い輝線を見つけたとき、ジュディにはそれが間違いなのがわかった。彼女はデータを上へあげた。
「惑星全体を覆った、濃い硫黄の霧?」指導教官は彼女に同意した。「そんなこと有り得ないな。クラカタウの噴火だって、光学的にはその半分ほどにもならないんだ」
 しかし、測定では同じ結果が出続けた。579光年離れたその惑星は表面温度が24℃、そして酸素が濃い大気には強い二酸化炭素の吸収線があった。ジュディは気分をすっきりさせようと、ショートパンツとTシャツでチャールズ川沿いを走りに出かけた。気温29℃の晴れた日、クリスマスまで3週間、ボストンのカエデの木はまだ色づいていない。
 MITに戻り、彼女は完全な気候シミュレーションモデルを実行すると、その惑星のあるG4型恒星は、硫黄の霧がなければ惑星表面を38℃にまで暖めることを発見した。「だから表面が24℃に保たれてるんです」彼女は教授​​に言った。
「うーん。汚染によるスペクトル線ってことか?」
「そうです――二酸化炭素と、硫黄」
「何らかの自然現象のはずだろう」
「なぜですか? ボストンを暖めているCO2は私たちから出てるんですよ」
 証明するためにはもう1年かかったが、この惑星は成層圏の硫黄エアロゾルによって環境改造されていたのだ。「彼らの文明も化石燃料を燃やして、私たちと同じ道を辿ったのです」ジュディは、アメリカ地球物理学連合の次回総会における記者会見で語った。報道の見出しは「エイリアン発見!」という切り口になったが、ジュディは主張し続けた。「だから、彼らは私たちより賢いわけじゃありません。今、彼らはそこから抜けだして何とかしようとしているんです」
 彼女は過熱する報道合戦が嫌だったので、ヨーロッパへと逃げた。しかしそこには、ジュディが地球への「エイリアン技術導入」を唱えていると訴え抗議する人々がいた。世界の気候は着実に悪化し続けていたので、これはそう悪い考えではないように思われた。
 だがその後、続いていた望遠鏡による探索により、K型星の「ハビタブルゾーン」の外側を周回する、奇妙なほど暖かい惑星が見つかった。ジュディと彼女のチーム――今では、彼女は豊富に研究助成金を得ていた――は、その大気中にフロンを見つけていた。20世紀、地球のオゾン層に悲しみをもたらしたのと同じ分子である。望遠鏡の観測データを慎重に分析すると、海と植物に覆われた陸地を示す数十ピクセルが現れた。フロンによる温暖化は明らかに、寒すぎる世界を住めるようにする全面的なテラフォーミングのようだった。
 「というわけで、エイリアンは彼らの世界を改造しているんです」外野がこれらの発見に対する様々な解釈を戦わせている間に、ジュディは大きな国際会議で語った。彼女の声が聞き取りづらいほど、会議場のエアコンが働いていた。「それを認めましょう。あるエイリアンは温暖化を推し進め、別のエイリアンは冷却化を実行していると。だけど強力な電波や他の波動の放射がなく、SETI向けの放送を全く誰もしていません」彼女は笑った。「私たちも成層圏に二酸化硫黄をまき散らしていますが、同じくSETI信号を送信してはいないというのを指摘しておいたほうがいいのかも」
 彼女の皮肉は、メディアの雪崩に埋もれてしまった。ある人々は、気候変動問題を解決した賢い種の知恵によって我々は導かれるべきだと主張した。反対者たちは、エアロゾルは海洋酸性化の問題を解決しないだろうと指摘した。彼らは海にチョークを投入することでそれを解決できるだろうと主張した。その週の内に怒れる党派が、惑星環境改造はエイリアンに私たちを売り渡すことになると主張しだした。さらに多くの人々が、これは全て資金を得るためのデマであると言いだした。
 太陽系外惑星の遷移を追跡していた天文学者たちが、さらなる驚異を報告した。F型星を周回する、惑星よりも大きな何かが発見されたのだが、それは球体ではなかった。楕円形の外観から、そこに大気はないように見えたが、その反射光のスペクトル線は、その構造がほとんど炭素からなっていることを示していた。
 「ダイソン球が建造中?」と、普段は面白くもないニューヨーク・タイムズ紙が見出しをつけた。それが確実になったのは、数ヶ月後に別の楕円形の殻がこのF型星の前を横切ったときである。今回のは最初に見つかったものより遠くを周回しており、軌道平面もそれより40度傾いていた。
 「これは、このエイリアンたちが建設者であることを示しています」ジュディは語った。しかしこれが全てではなかった。
 彼女は研究を続け、カリフォルニア大学サンディ​​エゴ校のトップにまで登りつめた。何十年もの間、彼女は数十億の星を熱心に探索するための検出戦略を実行した。彼女は齢を重ね、集めたデータを眺め、銀河系に広がる数十もの天体工学のしるしを見つけた。彼女は探索を続けた。
 ジュディのかつてない大規模なチームが、とつぜん黄道の高くで輝く明るい星を発見したときには、古くからの恐怖が蘇った。明らかに減速する宇宙船の核融合炎だった。数年後、磁場の網を広げたほっそりした宇宙船が地球の高軌道へ入ってきた。
 彼らはクモ型エイリアンで、全く気候改造をしたことがなかった。彼らは地熱発電を使い、寒冷な世界で精巧な洞窟迷宮に住んでいたが、放浪するのも好きだった。彼らも天上に広がる巨大工学の偉業を眺めており、そこで地球のしるしも捉えていた。彼らはたった23.6光年しか離れていない隣人だった。地球の低出力のテレビ放送を直接見ることが出来たので、ジュディの発見の歴史をすべて知っていた。彼らは、彼女にあこがれていたのだ。
 彼らが話しかけてきた。ひょっとして……サインを求めているのだろうか?

翻訳元:Think big : Nature