下品、性的、残虐な描写が結構(?)出てきています。苦手な方は避けられた方がよろしいかと。

パラレルです。キャラクター全員の設定、特に性格が変わっています。ご注意を! 一応シリルです。

 

 

夢は寝てみろ

 

 

 

巻き髪のブロンド美女を従えて部屋に入ると誰もいなかった。俺たち以外のいい子ちゃんは、大人しく雁首そろえて規定の席に座り、吐き気のするようなジジイの面を拝んでいる時間だ。

 俺を止められる奴なんかいなかったが、例外が無二の親友だ。ジェームズの台詞は決まっていた。

「僕のベッドでやりやがったらピローからスプリングに至るまで、寝具一式買い取って貰うからな」

これだ。

奴の忠告に従って俺は目の前にあったベッドを選んだ。ローブを捨てて、ダイブ。脱いだ服をその他のベッドに投げて遊ぶ。カーテンは四つとも開けっ放しだ。何も隠す物はないし、隠せば逆に誰かの好奇心をくすぐる。俺たちは無駄なことはしない。

シーツから薬のような匂いがする。女が服を脱ぎながら、ベッドの脇に置いてあった紙の包みに触ろうとした。俺はその手を掴んだ。

「ねえ、中身は薬でしょ? あんなの食べないくせに」

「何を食べるか知りたいなら、脱げよ」

ブロンドの髪は肩の下あたりまである。髪をわけてブラジャーを外してやると、女が両手を組んで胸を隠して、俺に振り返り微笑んだ。俺も笑い返し、くびれた細いウェストを持って、短いプリーツスカートとアンダーウェアを脱がせた時、一瞬手が止まった。

こいつ、これでもかってくらいご丁寧に切りそろえてやがる。俺がブッと吹き出したのを女が不思議そうな目で見た。

「ご馳走の下ごしらえをどうも。こっちを切るにも美容院の予約は必要なのか?」

 寝転んだブロンドが、アッハッハと意外にさばけた笑い方をした。

「ねえ、シリウス、あなたって、つまり……ジャングルが好きなの?」

 やたら勿体ぶった喋り方をする女だった。さっさと結論を言っちまえよ! と怒鳴りたくなるが、こういう女ほど機嫌を損ねると後々面倒くさいので、女に合わせて待ってやる。俺にも知恵があるし、まあ楽しませてくれる奴には譲歩も必要だ。

「探検は好きかもな」

「そう。じゃあ次は宝探しできるようにしといてあげるわよ。やんちゃ盛りの坊やって……大好き」

 俺が綺麗に植樹、伐採された女の保護区画に顔を埋めてから、体勢が逆になり、それから上や下への大騒ぎ。悲鳴と衝撃のローリング・コースター。そして、仰向けに倒れこんで、煙草に火をつけるまでそう時間はかからなかった。手順通り。まるで豚肉の解体ショーだ。肉厚の乳房や尻、肉の薄い胴や首、内臓に近い場所、順に触って揉んで、切り開く。最後に棒を突っ込んで弾力検査。そんなもんさ。

「煙草ちょうだい」

 言って女が俺の煙草を奪い、慣れた手つきで吸った。それから寝物語に、聞いてもいない女の自分史が始まった。俺の腕を枕にして、胸の辺りを手のひらで撫でながら、一足先にこの女を通り過ぎた男の話が本人の口から語られる。

「それでね、どうしても濡れなかったの。好きだったわ。本当よ。でも彼がどんなに頑張ってても、私はそれをぼーっと見てるだけ。そう上から。股の間で栗色の小山がもぞもぞ動いてるのをよ。ああ、彼の髪栗色だったの。愛はあったけど……仕方ないじゃない? だから別れたの」

 聞いてやったのは、その男がちょっとした有名人だったからだ。どうやらレイブンクローのナイスガイ。栗色の髪のシーカーはお口がおぼつかないらしい。次の試合で奴に叫ぶ言葉は決まりだな。

「だから俺に乗り換えたってわけだ。正解だった」

「そうね。あなた、上手よ。刺激的で毒みたいな男。好きよ。私の隣にいるのに相応しい男」

 年上の蛇女からお墨付きは頂いたが、もう俺は飽きた。「そろそろ帰れよ。授業に出た方がマシだったって俺が」――言い出す前に、もう一人の登場人物が現れた。もちろん飛び入りの。

 ギッと扉が開いて、鳶色の髪が隙間から見えた。

「……誰? シリウスかい? 君は授業を」

伏せた顔が言い、しっかり俺たちの姿を見つけるまで、リーマスはいつもの無表情だった。

そして、俺と目が合った時、リーマスの呼吸が完全に止まった。目は見開かれ、耳の辺りが一気に赤くなった。口が「僕の」と動いた。「僕の友達」? 「僕の女」? 違う。もちろん答えは「僕のベッド」だ。俺は女の肩を抱き寄せ、女は俺に凭れかかった。リーマスはなかなかいい顔をしてる。傷ついたような、打ちひしがれるような。

飛び入りは大歓迎。俺は空いた手を広げて言った。

「背徳の館へようこそ!」

「……どうして君は、いつも、そんなことを」

 リーマスはもう一回目を伏せ、言葉も途中で体を反転させようとした。

「おい、監督生! ……逃げるなよ」

 俺の声でその足が止まった。

「入って扉を閉めろ。サボったんなら俺たちは同じ身分だぜ」

「本を取りに来たんだ」

 リーマスはため息をついてから、意を決したようにこっちに向き直った。半分目を伏せたままで。

「……シリウス・ブラック、パトリシア・フィールド、10点減点。他に何も言いたくない。外に出るんだ」

 俺はブロンドと顔を見合わせ、笑い飛ばした。

「うそ。減点されたわよ!」

「あーあ! 困ったことになった。が、あいつを共犯にすればチャラだろ?」

「次は三人で? うーん、でも……まあ、いいわ。他でもない、あなたの友達だしね」

「話のわかる女だな。なあ、実はこのベッドあいつのなんだぜ」

「やだ! 困った子ね、シリウス。それなら、この場所は正当な所有者に譲るべきだわ。ええと、リーマス……ルーピン? 服を脱いで、あなたのベッドに来なさいよ。あら、リーマス……よく見ると可愛いじゃない」

 甘い、舐めるような声で女がリーマスを誘った。撫で回すような視線に、ゆっくりとしたウィンク。リーマスは相変わらず目を伏せて顔を反らしたままだ。なんでこいつこっちを見ない? と思ったが、そういえば俺とブロンドは裸だった。刺激が強すぎるってわけだ。

 何度か呼びかけてもリーマスは反応しなかった。ブロンドの笑顔は時間切れだ。「しらけちゃう」と吐き捨てた。

「ねんねは趣味じゃないわ。もういいわよ。二人で楽しみましょ。シリウス……キスして」

「リーマス、監督生くん。違反者はここだ。仕事放棄してないでとにかく来い。この女、そう悪くないぜ」

 しがみついてきた女の顔を、俺は前を向いたまま手探りで掴んでどけた。指で、チッチッと奴を招くと、リーマスは目を伏せて首を振った。そしてドアの前に落ちていた俺とブロンドのローブを拾い上げて、こっちに投げてよこした。

「早く着替えて、出てくれ。これ以上減点されたくなかったら」

「リーマス、強がるな。千載一遇ってのはこういうことだろ。次にお前が授業を抜け出して来るのと、俺たちのお楽しみがブッキングするのはいつになる? 千年後か? ごたくを並べる前にローブを脱げよ」

「シリウス、君と僕の趣味が同じだと思わないでくれ」

「心配するな。お前のに合わせてやるよ。前でも後ろでも、好きに選べ」

 「シリウス!」とリーマスの懇願するような声と、俺を呼ぶブロンド女の不機嫌な声が被った。

「ねえ、シリウス! 私もういいって言ったわ。知ってるわよ、彼、潔癖症でしょ? 女に触れもしないって有名よ。そもそもこの場に入ってきて減点もないもんだわ。ね、空気の読めないお子様は出ていきなさいよ」

「潔癖症? 誰が言った?」

「誰って、馬鹿ね。そんなの……皆よ」

 俺は腹が立った。この女またしても勿体ぶりやがった! だから俺は、金色のご丁寧に巻かれた髪を掴んで、目を瞑って近づいてきた頭を上下に揺さぶってやった。

「振れば音のしそうなこの空っぽ頭じゃ出てこないのか? こうすれば思い出せるか? 言え! 下らない噂を流してるのは誰だ?」

「痛い! ちょっと、何!? 知らない! 知らないわよ! 聞こえないの!? やめてよ! このキチガイ・ブラック!」

 思った通り、リーマスが走り寄って来た。金縛りが解けたように。そして止めようと俺の腕を掴んだ。

「シリウス! やめろ! いいから、とにかくローブを着て誰か来る前に男子寮から彼女を出すんだ!」

「馬鹿にされたままか、リーマス? 俺なら我慢ならない。勃つところをこの女の前で見せてやれよ。二人でこの性悪の雌犬に教えてやろうぜ。お前も、俺と同じように楽しめるってことを」

「いい加減にしてくれ! 君はどうかしてる」

「どうかしてるのはお前だ。いつもそうして肝心な時に怖気づく。治せよ。俺たちの仲間でいたいならな」

「わかった。考えておく。だから今日はこれで終わりだ!」

「いーや、今考えろ!」

 俺はリーマスの腕を掴んで引き倒した。いや、むしろベッドの上に放り投げた。

「うわっ!」

「キャッ!」

リーマスはブロンド女へ斜めに乗り上げて、顔が胸の辺りにくっついた。女の手がリーマスの顔を受け止めた。リーマスは「シリウス・ブラック!」と非難がましく叫んだ後に素早く上半身を起こして、そして、目の前にあった巨乳に言葉を失った。目をまん丸にしたその顔に、俺は結構ウケた。すげえ顔!

「じゃあ、楽しもうぜ。監督生くんが逃げないように、しっかり……捕まえてろよ」

見事に目標を達成した俺はワクワクした気分。勿体ぶって言い、ブロンド女にウィンクした。折り重なった二人の上にのしかかり、女と俺の間に挟まれたリーマスを背中から抱きしめ、うなじにキスをした。古い本の匂い、少しかびたような。それから土と緑の匂いがする。それにこいつ、震えてる。かわいい。かわいいやつ。

リーマスのローブを脱がせにかかったところで、立ち上がった誰かの影が俺の顔に落ちた。見上げたと同時に平手打ちが飛んで、まともに食らった俺はベッドの外に転がり落ちて、ドターンと無様な音を立てた。

顔と手のひらを真っ赤にしたブロンドが、俺を見下ろしながらベッと唾を吐いた。

「大勢は好きよ。でも、あんたたちはお断り! 何コレ吐きそう! ゲロ飲んだ方がマシ! 死んじまえゴキブリ野郎!」

 そして、ブロンドのゴージャス美女、いやパトリシア――パトリシアだ。リーマスがそう言った――は去った。あとには間抜けな格好の俺たちが残されたが、リーマスもすぐに立ち上がって出て行った。

 

 

「バレたんだろ」

「何が?」

「何が? 馬鹿? お前が、誰をダシにして何を楽しみたいと思ったかだよ! 女にはわかるって言うぜ。恋愛にかけては僕らの三倍くらい魔力があるってよ。ていうかどうせ顔に出てたんだろー? 魔力とか言ってんの馬鹿馬鹿しくなるよなあ」

「ジェームズ」

「は?」

俺は回りこんでジェームズにキスしてやった。こいつの言ってる俺の隠れた趣向ってのが本当なのか、もっと別の何かがあるのか、試してみた。

結果、舌を入れる前に萎えた。ジェームズはミートボール入りのサンドイッチを食っていて、唇はラードでギトギト。口の中から甘ったるいソースと安いクズミンチの味。俺は離した口を、顔を顰めながら拭いた。やるんじゃなかった。よくもこんな反吐みたいなもんが食えるなこいつ。

俺たちはこれ以上になく気の合う親友だ。鏡写しのように、ジェームズも俺と同じ表情同じ動作を取った。

「うわあ。こいつをどうしよう。この見境のない男をッ!」

で、次の瞬間ジェームズの拳が飛んできて俺の目の上にヒットした。かなり痛かった。ああ、すごく痛かった。俺は今こいつに本気で殴られた。

「次やったら友達じゃない」

「オーケー。ああ……本気でやったなお前。ふざっけんなよ! おい、血が出てないか」

「出てたら拭けよ」

「クッソ! お前絞め殺してやろうか! でも、やめてやる。お前が死んだらつまらない。暇すぎて、たぶん俺も死ぬ。だからやめてやったんだ感謝しろよ!」

「あーありがとうシリウスありがとう。今のが誰かの目に入ってたらそいつにも失明魔法をかけなきゃな」

 二人してゲロ吐きそうな顔で、しばらく口を拭ったり水を飲んだりした。

 

 それから俺は夢の話をした。

 2年の頃から、俺がずっと見ている夢の話だ。

 夢の中で俺は目を覚ます。目を覚ましたのに暗い。遠くにスポットライトが当たってる。ライトの中には小さな子供が一人。服は着てない。裸で、体を抱えて、不安そうに座っている。白くて細くて、傷だらけのリーマスだ。

リーマスは時々寒そうに震えてる。俺は暖めてやろうと思って近寄る。でも近づこうとするとガラスの壁が現れて俺はリーマスの傍にはいけない。

 ライトの光が強くなる。リーマスの影が黒く大きく広がって、そいつが生き物みたいになって急に動き出す。足元から立ち上がると毛むくじゃらの獣になっている。黒い大きな化け物は、リーマスに襲いかかる。乗りあがって、噛み付いて、爪を立てる。

 リーマスは抵抗する。見たこともないくらいに暴れる。現実だったら100%ここまではしないってくらい。喉が裂けるほど叫ぶ。泣き叫ぶ。腕を振り回して殴る。足で無茶苦茶に蹴る。この辺、俺は興奮しながら見ている。やっちまえリーマス! ナイフを出せよ! そいつの目を刺しちまえ! 声援を飛ばしたりする。

 でも結果はいつも同じだ。反吐が出るくらい飽き飽きの、お決まりの展開になる。リーマスは力尽きる。汗だくになり、泣き疲れて、動けなくなって、ぐったりとする。その後は、毛むくじゃらの天下だ。

黒くてデカい糞野郎は、リーマスにやりたい放題する。噛んだり舐めたりは当たり前。セックスもだ。初めて見たのは3年の時の夢だった。あいつがリーマスを犯した時、夢の中の俺は拳の骨を粉々にした。それで終わりじゃない。何もかもがエスカレートした。とにかく奴の好きな時、犯るのが終わってからでも、途中でも、いつでも、髪を引き抜いたり、手足を契ったり、骨を折ったり、しまいには歯を折って抜いたり、目玉をほじり出したり、内臓を引きずり出したりした。リーマスの声が、すごい。この世の終わりだ。

夢の中で俺は吐く。もちろん、夢から覚めた後でも。夢の中で、途中で気を失ったり、泣き疲れたり、ガラスを叩きすぎて血まみれになったりもした。ああ、自分の目を取り出そうとしたこともあった。そうだ。初めは、見ている俺の方が気がおかしくなるかと思った。でも、あんまり頻繁に見るから、少しづつ慣れてきた。現実じゃない。これは夢だ。そう思えば、ただじっと見ていることもできるようになった。

5年だ。俺を薄情呼ばわりするな。5年も見続ければ流石に慣れる。口から涎や血をダラダラ垂らしたまま横たわってるリーマスも、白目を剥いて痙攣しているリーマスも、見ていることができる。平気な顔でとは言わないが。ただ、どうしても気に食わないことがある。稀に、リーマスが、あの毛の化け物に従い始め、空ろな目で笑ったり、背中に手を回したり、一緒に腰を振ったりする。俺は許せなくなる。

 夢の度に、俺は毛むくじゃらの化け物を、生きたまま、皮を剥いで、吊るして、手足を落として、それから焼き殺してやりたいと思った。足の先から熱湯につけて茹でる。大型ミキサーに入れて、じっくり時間をかけて粉々のミンチにしてやる。そう思う。それは5年経とうが10年経とうが変わらない。

ただ、あの化け物の奴隷になっているリーマスは、嫌だ。あいつも一緒に殺してやりたい。

もちろん、それはイレギュラーな話だ。ともかく、俺が殺したいのはあの化け物だ。でも殺せない。その行ったり来たりの問題の解決策を、最近やっと思いついた。殺せないなら、俺が先にあの場所を奪えばいいんじゃないか? ってことをだ。あの黒い毛むくじゃらより先に、あいつが来る前に俺がリーマスの上に乗っちまえば、あいつは手出しできない。俺と同じようにガラスの外で指を咥えて見てるしかできない。

「ザマーミロ、だろ?」

 振り返ると、ジェームズは滅多にないような真剣な顔をしていた。こいつが興味を持った魔法の解読の時でも中々見せないって顔だ。

「名案だと思うよな。俺はリーマスに優しくしてやる。立ち上がれないような怪我なんかさせるかよ。噛む時も、ゆっくりだ。好きな場所を選んでやってもいい。爪を立てる時も。ちょっとでも、「痛い」って言ったら、悲鳴を上げたら、力を緩めてやればいい。血が出たらちゃんと舐めてやる。それでオールオーケーだ」

 ジェームズは口いっぱいに頬張ったサンドイッチを、考えながら2、3度咀嚼しただけで、ベッと芝生に吐き出した。やっぱ無理だって感じで。

「今日はゲロ・デーか?」

「まさか、お前、それリーマスに言った?」

「ゲロを」

「じゃない方を」

「言ってない」

「本当に、良かったよこのゲス野郎!」

「は? なんだって?」

 ジェームズは両手を出して、待てって俺を止めるジェスチャーをした。それから、ちょっと考えて、それで一気にまくし立てた。

「うん、いや、わかりやすい! それリーマスの夢の話に似てるしな。僕も聞いたから覚えてる。相当似てる。だから、お前がリーマスと同じ夢を見てるって思ってもいい。考えてみたら彼の病気はかなりエロティックだよな。月はそもそも女性の象徴で、狼男はそれを見て女性への衝動を目覚めさせる。でも彼の中でその両方が同時に起こってて、襲う自分と襲われる自分がいる。お前の夢もわかるよ。ただ、問題はお前の感想なんだよ。解決策!? 椅子取りゲームじゃあるまいし。どう聞いても、お前の欲求が直に現れてるとしか……ああ、僕は知った真の変態! いや、もういい! とにかく、言うなよ。絶対傷つくから! 発狂しなきゃお慰みだ」

 ジェームズの言っていることは、わかるようでわからない。俺は憎まれ役を買って出てやると言ってるのに。

「何で傷つくんだ。どうしてもあいつに乗って噛み付く奴が必要なら、俺がそれをやってやるんだよ。俺なら今の奴の代わりに、もっと上手くやれる。あいつのためだ」

「あーーーーお前が怖い! ほんっと怖いよ。マジで言ってる? 噛み付く奴が必要! 誰が言った?」

「誰って、ああ……俺だな。そういや誰も言ってない。でも事実だろ」

「いや、それキミの妄想! したいからって、勝手に必須事項にするなよ。ちょっと確認するけど、リーマスの病気のこと一緒に調べたよな?」

「ああ。朝から晩まで調べたな。で、突き止めた……あいつ、震えてたな」

 俺は「俺たちはお前の秘密を知ってるぜ」と言ってやった時のリーマスを思い出した。顔面蒼白になって震えてた。本を持った指まで、落とすまいとして紙に食い込んで白くなっていた。あの指。冷たそうな指。

「良かった。覚えててくれて。内容もちゃんと覚えてる? まさかお前の飛びぬけて優れた頭脳が、忘れたなんてことはないよな」

「決まってる。覚えてる。満月に変身で、噛まれれば感染だ」

「そう。気をつけて。血を舐めるのもまずいんじゃないかなあ」

 ハハ、とジェームズが乾いた笑いを漏らして、俺を見た。眼鏡の下の目が細く鋭くなっていた。

「シリウス、はやまるなよ。病気に人格を持たせたお前の病名、教えてやろうか?」

「……俺に言ったか? だとしたら、お前の指図は受けない」

 病気病気、大げさだ。リーマスの病気は俺たちにとっては、単に噛まれなければいいだけのものだ。つまり、噛む分には問題ない。それから、ジェームズは時々俺のやりたいことの邪魔をする。そういうのは、親友でもごめんだ。

 ジェームズはフーッとため息をついた。

「オーケー今日中だ。今日これからでもいいし、晩でもいい。この件はもう一度話し合う。だから一旦休憩! ったくどうしてくれるんだよ。一口分。思わず吐いちゃったこの一口分! キミさ、僕の一口はデカいって知ってるよな?」

「知るかよ。欲しけりゃ買ってやるよ」

20個くらいかい、御曹子?」

「一口分だろ」

「じゃあ僕の一口分は20個だ」

 俺は伸びをして立ち上がった。ジェームズが、ん? と俺の顔を見る。

「買ってきてくれるの?」

「そう。俺も腹が減った」

 後ろ手に手を振った。背を丸めて気だるげに歩き始めると、後ろでジェームズが「早くね〜」と間の抜けた声で叫んでいた。

 気が向いた。だからリーマスのところへ行くことにした。ジェームズ? あいつは俺の分身みたいな奴だから、そのうち勝手に帰るだろう。

 

 

 

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