●浅田真央に漂い始めた「女王」の風格
スケート・アメリカに続いて、グランプリ(GP)シリーズ今季2度目の優勝となった浅田真央ですが、ジャンプに関しては不満が残りました。トリプルアクセルの両足着氷といったレベルの問題ではなく、以前話していた「エイト・トリプル(3回転ジャンプ×8回)」はどうしたの、もっと高みを目指さないの、といった不満です。
競技後の浅田も「これからトリプルアクセルを2回入れていきたい」と言っていましたが、ぜひ挑戦して欲しい。もっと跳べる浅田を知っているだけに、私はどうしても彼女に対してより厳しい水準を求めてしまうんです。
ただし、今シーズンの浅田について特筆すべきは、ジャンプ以外の目立たない部分なんです。スピンやステップ、つなぎ(トランジッション)といった、テレビ的にはあまり伝わらないところの出来映えが抜群に素晴らしい。大袈裟でなく誰も手の届かないような、ものすごい領域に入ってきています。
動きのひとつひとつが見事なまでに洗練されていて、まったく無理がない。流れるような動きで、まるで違和感がないから、観ていてとても気持ち良いんです。ここ数年の不調を脱したとかいった次元ではありません。たとえて言うなら、バンクーバー五輪のときの浅田は「お姫様」の輝き、今の浅田は「女王」の風格を漂わせています。
振り付けの先生に付きっきりで見て貰っているときならともかく、普通は時間が経つにつれ、動きのどこかが必ず崩れていくものなんです。だけど、いまの浅田は振り付けられた通りの動きを崩さず、完璧に維持できている。それを可能にするために、どれほどの地道な努力を彼女が積み重ねてきたのか。ちょっと想像がつきません。驚くばかりです。
●本命・髙橋、続く町田の男子 浅田のほかは横一線の女子
シーズンの序盤を終えた今の段階で、五輪代表の3枠を予想すれば、男子は髙橋大輔が頭ひとつ抜け出しました。それに続くのが町田で、3つめの枠を争うのが、織田と、巻き返しをはかる羽生結弦になるでしょう。
小塚崇彦については、北京杯での状態の悪さが気になりました。無良崇人はGPシリーズで初優勝、全日本選手権で3位に入った昨シーズンの勢いを、今シーズンは持続できていない印象です。小塚と無良はもう全日本選手権に賭けるしかなくなったわけですから、逆にそれを良い方向に捉えて欲しい。
女子については、浅田はほぼ当確として、あとは横一線ではないでしょうか。鈴木明子への期待は大きかったんですが、NHK杯のSPの冒頭で予定していた3回転-3回転のトウループが、3回転-2回転になってしまったんですね。トウループはジャンプのなかで最も難易度が低く、彼女の実力からすれば、それほど難しいものではなかったはず。シニアのトップレベルになると、連続トウループでの失敗は致命的になります。フリーでも、もったいない転倒がありました。結果は3位でしたが、もう少し頑張ってほしかった。
シニアのGPデビューとなった15歳の宮原知子は、思い切りの良さが目立ちましたね。あれだけ次々とジャンプを決めていく姿を見たら、先輩たちもウカウカしていられない気持ちになったんじゃないでしょうか。