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ツインテールの理由。
 リリアは、可愛がられて育った。
 ゼクストン王国屈指の貴族アンドルトン公爵の娘であり、遅くに出来た待望の一子でもあった。さらに、リリア自身の愛くるしい容姿も相まって、それは大事にされた。母はゼクストン現国王の姉、家臣筆頭の公爵が父、血筋も申し分なかった。
 ところが、リリアのいとこにも当たるゼクストン王国の王子と王女が、あまりにも美しく賢く秀でた子供たちだったので、リリアの存在は霞みがちだった。
 幼いリリアには、それが気に入らず、王宮への足も遠のいていた。
 そんなリリア七才の夏の初めのこと。


 リリアは、テーゼ川上流にある離宮に遊びに来ていた。
 ここは、せせらぎをそのまま庭園に(しつら)えてあり、水遊びも出来るので、リリアのお気に入りだった。離宮なだけに、いとこたちに会う可能性もあったが、そこは抜かりなく、父母に王子や王女に別の予定が入っているのは確認済だった。
 「リリア様! あんまりお一人で先にいかないでください」
侍女の嘆きも何のその、せせらぎの周りに溢れんばかりに咲き競う花に誘われ、リリアは蝶のように渡り歩いた。
 頭の高い位置でツインテールにした薄茶色の巻き毛が躍り、ひらひらとリボンのついたピンクのドレスを揺らすリリアは、花園の妖精のようだった。
「ほら見て! この紫は、小さな貴婦人のドレスみたい!こっちの白は、とってもいい香り......」
リリアの足が止まった。
 花の香りを嗅ごうとして身を屈め、顔を寄せた、その時。
 リリアの鼻の頭に、ぺたっと緑色のモノが貼り付いたのだ。
 リリアは、驚きのあまり固まってしまった。
「.....リリア様!」
やっと追いついてきた侍女が、リリアの顔を見て、言葉をのむ。
「取っ......て、取って」
リリアは、泣きそうだった。
「で、でも、あのう.....」
侍女は侍女で触れないらしく、主命にもかかわらず、おろおろするばかり。
「はやく、取って!」
 その時、すいっとその緑のモノをさらっていった手があった。
「自分で取れないのか?」
と、カエルをつかんだまま、リリアを見下ろす絶世の美少女。
「アリシア王女......どうして、ここに?」
「予定がなくなって、時間が空いたので寄ってみた」
お礼も言わずに、『何故ここに』というぶしつけないとこに、アリシアは律儀に答えた。
「離宮の花が見頃だと思って」
蛙を持ったままであっても、輝く金の髪を緩くまとめ、瞳の青に近い色のドレスを来た王女は、眩しいほど美しかった。
「カエルの方が驚いたんだな。首でも振ればさっさと逃げるだろうに」
そう言って、王女はそっと蛙を水辺に放す。それから、改めてリリアに向き直ると、
「だが、その可愛い髪が絡んだら大変だった。じっとしていて正解だ」
艶やかに笑った。
 大抵の女の子は爬虫類や両生類は苦手だと理解していたので、アリシアは慰めのつもりで言ったのだった。だが、王女の艶やかな微笑みが、リリアに与えた影響は計り知れない。
 それ以降リリアは、自分を恐慌から救ってくれた神々しい王女を心底慕うようになったし、髪型は可愛いと言ってもらったツインテールをやめなかった。
 その一方で、リリアは、カエルが大の苦手になったのだった。

☆ ☆ ☆

 ――――年月が流れ、リリア、14歳の夏。
 リリアは、ブラン城に入り浸りである。
 二年前、新しく公爵に封じられたブラン公シュバルツとアリシア王女が結婚し、彼の居城のブラン城で暮らし始めた。以来、リリアは、ことあるごとにブラン城にやって来るのだった。
 「伯母上が寂しがるぞ?」
と、アリシアは言うのだが、父母を泣かさない程度にリリアは好き勝手をしていた。
「だって、ここに来れば、アリシアおねえさまに会えるのですもの」
リリアの言い訳は、心酔しているアリシアだったが、もうひとつ理由があった。
 色恋には鈍感なアリシアにもわかるくらい、リリアは、恋をしていた。













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